あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です17

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 紅乃木が膝をついた。
 その現実を否定するように頭を振るが、同時に血も飛んだ。
 殴られた衝撃でまだ視界が安定しないんだろう。
 後ろ手でナイフをスイングするが当たらない。
 その隙に秋倉が腕から逃れた。
「あー……うざったいな」
 力無く、しかし殺意を込めて紅乃木は呟いた。
 よろめいて、紫織の隣に倒れ込む。
 秋倉は愉快そうに笑った。
「良かったじゃないか、客と寝られて」
 紫織は気を失っていた。
「……秋倉、真」
 類沢の声に振り返る。
 さすがだ。
 流石は外道。
 ホストの顔だろうと頭だろうと躊躇がない。
 だから嫌なんだ。
「なんだ、類沢? これは躾みたいなもんだろ」
 千夏が指を鳴らす。
 怒りの波が伝わってくる。
 後ろの二人も同じだ。

 そして、自分も。

「……そうだねぇ」
 紅乃木が小さく嗤った。
 その手はテーブルクロスに掛かっている。
 蝋燭の乗ったクロスに。
 意図に気づく前に、彼は勢いよくそれを引き下ろした。
「なっ」
 ガタン。
 布に引火した炎が燃え上がる。
 床の絨毯を舐め、部屋中に広がった。
 一気に赤く染まった壁。
 全員の顔色が変わった。
 紅乃木はそのまま力尽きる。
「ふざけたことを……っ」
 千夏が動揺の中を駆けて紅乃木を助け起こす。
 類沢はマイクに指令を出した。
 他の二人は個室の中の、薬に溺れた客たちを救いに行った。
 しかし、そこにいた人影に手が止まる。
 出てきたのは、女性を抱えた男達。
 肌は濡れ、行為の跡が残る裸体。
「まさか……」
 この中で行われていたことがイヤでも脳にこびりつく。
 密室。
 薬の香り。
 裸の男。
「蜜壷ですね」
 連れの男が囁いた。
「別称か」
「はい」
 類沢は口だけで笑う。
 腐ってる。
 客を薬漬けにして寝取る。
 もはや犯罪の巣窟。
「早く火を消せっ」
「まずは逃げましょう、秋倉さん」
「馬鹿なことを言うな!」
 入り口は類沢達が塞いでいる。
 通す気は微塵にもない。
 秋倉たちは目を合わせ、裏口に向かった。
 丁度たどり着く瞬間に扉が開いた。
「類沢さんっ!」
「ありがと、瑞希」
 押しのけようとした秋倉が固まる。
 およそ四十人のシエラのホスト達が待ち構えていたから。
 指令通りに。

「逃げ切れますかね? 秋倉、真」
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