涙の悪役令息〜君の涙の理由が知りたい〜

3◆タナトス視点

「何をしている！？」

「！？」

ルミナスの持つナイフには、既に真っ赤な血がついていた。

そして、ルミナスの胸からはおびただしい血が服と床を汚している。

「まさか、胸を刺したのか！直ぐに医者にみせないと！」

「放っておいてよ！！どうせ死なないんだから！！」

「！？」

いつもとは違うルミナス。

本当に悲しそうに泣き、悲痛に叫ぶ。

近寄る私に、威嚇する猫のように睨み私を拒絶する。

「ルミナス、早く怪我を医者にみせないと死んでしまう」

「うるさい！うるさい！近寄るな！」

ルミナスがまたナイフで自身の胸を刺そうとして、私は咄嗟にルミナスの手首を掴みルミナスを押し倒した。

「嫌！離して！」

「落ち着くんだ！」

一体何があったのか、ルミナスは小さな子供のように抵抗している。

「何があったんだ？私で良ければ相談ぐらい聞くから、落ち着いてくれ」

「………相談？」

落ち着いたのか、抵抗をしなくなったルミナスは弱りきった眼差しを私に向けた。

悲しみに揺れる瞳は、絶望しているのか光はない。

「じゃあ……お願い………」

「なんだ？」

「僕を……助けて………」

「助ける？」

「僕を……僕を………」



「僕を殺して………」



周りの音が、まるですべて消えたような錯覚を覚えた。

助けてと言う言葉と共に告げられた言葉が、私に衝撃を与えてしばらく私の時が止まってしまう。

ルミナスの瞳からは、未だに涙が溢れていて表情も悲しみと苦しみが入り交じる。

「どうして………」

私はルミナスに聞こうとする。

しかし、ルミナスは気を失ってしまい返事は聞けないままだった。



そして、ルミナスの怪我はなかった。

医者にみせたが、怪我をしていなかった。

だが、服は胸のところにナイフで刺したと思われる穴がある。

血も本物の血だった。

鑑定で調べたら、その血は間違いなくルミナスの血だった。