探偵は胸を揉む:偽りの依頼人

リチャード裕輝

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第一話:雨の山荘、突然の訪問者

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探偵は胸を揉む~偽りの依頼人~

第一話:雨の山荘、突然の訪問者

久我奏太の視線は、窓の外に広がる深い緑に吸い込まれていた。山間の湿った空気は、窓ガラスに薄い膜を張り、景色をぼやけさせる。しかし、その静寂こそが、奏太が都会の喧騒、そして自身の「呪い」と「軽蔑の眼差し」から隔絶されるために、この洋館で二年を費やして求めたすべてだった。

「静かすぎるな…」

洋館の応接間に響く、自身の独り言。物書きという口実で隠遁生活を送る奏太の真の理由は、手に宿る奇妙な能力、サイコメトリーにある。触れたものの過去を読み取る力。それ自体は、ミステリー作家の想像力を刺激するロマンを秘めていた。しかし、その能力の「起動条件」が、彼の人生を決定的に歪めた。

――女性の胸を、強く揉み込むこと。

「なんて残酷な能力だ。これは、愛する女性を救えなかった俺自身に、課せられた生涯の業(ごう)だ」

奏太は、山奥の洋館に引きこもり、その呪われた手のひらを何度も握りしめる。

この力は、彼の最も苦手とする行為を、真実を暴くための唯一の必須条件として突きつけた。過去、彼はその手で、愛する人の悲劇の真実を知った。だが、その代償として、彼女を狂気から救い出すことができなかった。

残ったのは、能力への深い嫌悪と、「真実の代償」として負わされた罪悪感。彼はその矛盾に引き裂かれ、社会との関わりを断ち、すべてを捨てて隠遁した。

「もう二度と…誰とも関わらない。この力も、二度と使わない」

そう誓い、彼の人生は、冷たいモノクロームに塗り固められた。

――しかし、夏の盛り、そのモノクロームは、突然の豪雨と共に破られた。

雷鳴が山間に響き渡る午後。けたたましいエンジン音と共に、一台の古びたSUVが山荘前の砂利道に止まった。ドアが開き、四人の男女が雨の中に飛び出す。

奏太は、応接間のカーテンの隙間から、その「訪問者」たちを警戒心をもって観察した。彼らは、地元の大学のサークル仲間だという。雨宿り、あるいは宿泊できる場所を探しているらしい。

奏太は、彼ら四人の間に流れる不自然な空気、その関係性の歪み、そして、水底に沈むような濃密な「澱」を瞬時に察知した。それは、サイコメトリーの力ではなく、孤独な作家の観察眼だったが、その歪みは妙に彼の胸をざわつかせた。

ユウキ(20): リーダー格。黒髪から雫を滴らせながら、冷静に周囲を見渡す視線は、獲物を値踏みするかのように鋭い。端麗な容姿とカリスマ性を持つが、瞳の奥には、他人には踏み込ませない冷徹な思考が隠されている。彼は、この山荘を自作の舞台装置のように見つめている。

リナ(20): ユウキの隣に立つ、豊満な胸と華やかな顔立ち。その視線は常にユウキに注がれ、ゾッコンという言葉が体現されたような女性。胸元が激しく上下するのは、寒さだけでなく、内なる焦燥を感じさせる。

アオイ(20): 華奢で控えめな女性。ユウキの影のように付き従い、雨の冷たさとは違う、怯えの色が顔に滲んでいた。細い体が、何か秘密を抱え込んでいるように見えた。

タケル(20): スポーツマン風の体格。ユウキに対して友好的な笑顔を向けるが、その眼差しには、隠しきれない対抗意識が燃え盛る。ユウキの「親友」というポジションに甘んじているが、彼を打ち負かそうとする強い意志が見て取れた。

彼らは、豪雨の中、玄関の扉を叩いた。三度目のノックで、奏太は重い扉を開けた。雨の匂い、若者の熱気、そして、かすかに漂う「事件の予感」。

「あの…すみません、雨宿りだけでもさせていただけませんか?」

ユウキが、人当たりの良い笑顔で尋ねた。奏太は即座に拒絶したが、リナが水を含んだ薄手のシャツを気まずそうに絞り、「せめて、雨宿りだけでも…!」と小さく懇願した。

奏太は、二人の女性を無意識に品定めした。リナの豊満な胸は、水に濡れたシャツ越しにも際立ち、「能力の発動条件として、あまりにも完璧な「媒体」だった。一方、アオイの胸は控えめだが、その華奢な体には、何か大きな秘密が収められているような危うさがあった。

――使ってはいけない力。だが、この四人が抱える不穏な空気が何をもたらすか、俺は既に見てしまった。この機を逃せば、後悔するだろう。

「雨宿りだけなら、構わない」

久我 奏太は、自身の内に湧き上がった古い衝動に逆らえず、洋館の重い扉を開けた。
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