自己評価低めの彼女は慣れるとデレるし笑顔が可愛い。

茜琉ぴーたん

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12月

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 少し歩いて南京町なんきんまち、飲食店や土産屋が通りと路地に多く建て込んでいた。
「何にします?豚まん?食べ歩きか…座って食べます?……んー……聞いてます?千早さん」
「聞いてへんかった。もっぺん言うて?」
千早は振り返った知佳の3歩後ろを歩きながら、口元を押さえて楽しそうに笑っている。
「千早さん、怪しい。通報されちゃう」
 知佳はもう慣れてしまったがその風貌は非合法な何かの売人の様、その人相の悪さがどこに行っても付き纏うのだ。
「ひどっ…まぁ…せやろうけど……ならさぁ、手ぇでも繋いでや。明らかにデートや分かるようにさ」
 そう言って千早は右手を差し出したが、知佳は少し困った様な面持ちで固まってしまう。
「え、そんなに嫌?」
「あぁ、じゃなくて」
彼女は愕然とギョロンと目を剥いた千早の左側に立ち直し、彼の左手を取った。
「癖というか…左手で鞄持つので、右手の方が…繋ぎやすくて…」
 右手で鞄を持つのは慣れない、鞄が千早の体に干渉してもいけない、男に鞄を持たせるなどもってのほか。自身が左側を歩いた方が都合が良かったのだ。
「はぁ、どっちでも……なに照れてんの」
「こういうの数年ぶりなので…全部全部久しぶりなんで!緊張します!」
堂々とそう宣言し、知佳は千早の手を引いて歩き出す。
「うん、緊張すんなぁ、チカちゃん♡」

 手始めに豚まん、広場で撮影、客引きを断れず再び肉まん。裏の通りで雑貨を見て、お土産を少し買い、二人はゆるゆると中華街観光を楽しんだ。
「蟹は…手が出んかったな」
「ですね…あの蟹入り中華まんに千円を出せないというのは…自分の小市民さが悲しいです」
 なぜだろう、金額としてはそう高くないはずなのに、「中華まん」に札を払うのがひどくもったいなく感じ、蟹入りを断念したのだ。
「また…ちゃんとした店でしっかり蟹食おか」
「はい」
 それは次のデートの約束、男が奢るくらいの甲斐性は見せたいがおそらく割り勘であろう。

 その後はハイキング感覚で北へ歩き異人館を巡り、路地の洒落た洋服屋や雑貨屋を見ながら駐車場へ戻る。
「千早さんは…あの日…震災の日…お家に居ましたか?」
「あー…、せやね。小学生…やったか、大阪もえらい揺れたなぁ…よぉここまで復興した思うよ」
 少ししんみりと街を見渡し、二人は記憶を思い出しながら歩く。
「広島も、少しですけど…本棚から本が落ちて来たりしたらしいです。私は小さかったので覚えてませんが…ここに住んでると追悼番組とか観るので、自分が被災したような…そんな感覚になったりしましたね…被災した友人もいましたしね」
「うん…」
 千早は繋いだ手をぎゅうと一層強く握り、
「守れたらええんやけどな、自然には勝てんな」
と空いた手で頭を掻いた。
「……じゃあ、何からなら守れます?」
「へっ……」
 思わぬ質問に千早は固まり、口を歪ませて考えたのち、
「ゴキブリとかなら…イケんで」
と答えて知佳の信頼を得るのだった。
「頼もしい。即戦力ですよ」
「よっしゃ」
 顔を見合わせて「ふふふ」と笑い、ちょうど駐車場へ着いたので手を離した。



 帰りの運転も千早が請負い、下道を大橋へ向けて西日をまともに浴びながら走る。
「サングラス掛けます?」
「あんの?貸して」
「はい……わ、不審者」
「チカちゃん、遠慮が無いなってきたね、いや…ええんやけど」
 こんな雰囲気で淡路島にも行きたかった、お互いがそんなことをぼんやりと考えていた。

 しばらくとりとめのない会話は続き、話題は思い出話へとシフトしていく。
「ようけ食うたし…ようけ歩いたね…あ、脚、痛いことないか?」
「大丈夫です。立ちも歩きも慣れてますよ、」
事務と言っても広い店舗の中を絶えず動いている、営業時代は立ち仕事だったしそれなりに耐性はあるのだ。
「あとね、私…学生時代にも立ち仕事してて。アルバイトで。だから、ヒールで立ってるのも得意なんですよ」
「ん、何の仕事?」
ヒールの立ち仕事、まさかとは思うがいかがわしいものだろうか…ひっそり千早の期待と不安が高まる。
「ブライダルコンパニオン。結婚式の給仕とか、ドリンクサービスとか。フロントでコーヒー出したりもしましたよ。ミツキちゃんともそこで知り合ったんです」
「へぇ……コンパニオン?え、エッチなやつ?」
「なんでですか…そういうのもあるんですか?よく知らないんですけど…パーティーの種類によっては屋形船のお酌係とかもありましたけどね、基本は結婚式のお手伝いでした」
「危ないやん…その…触られたりするやつやん」
「全く無いとは言い切れないみたいですね…お酒が入るとそういうこともあるみたい。だから、小慣れてる方が率先して行ってましたよ。おひねりも貰えるみたいだし」
 広告で見たことがあるイベントコンパニオン、宴席に華を添える「女性」ならではの職業である。
「かぁ……オンナはそんな仕事があんのか…チカちゃんは…さ、触られたりしてへん?」
「無いですよ。学生は結婚式のみでした。お捻りも断らなきゃいけなかったし。この前のギャルメイクほどじゃないですけど、つけまつげ付けて赤い口紅して、がっつりオンナ!って感じで楽しかったです。時給1200円で土日のみ、暇な学生には持ってこいでした」
「ふーん……見てみたかったなぁ。今度、そういう化粧もしてみてよ」
千早は信号待ちの間に左手で知佳の頬に触れ、顎先をトントンと叩いた。
「あ、やっぱりギャルが好きなんですか?」
「いろんなチカちゃんが見たいの!ええやん、な」
「ふふっ…あ、青です」
「うぃ…」

 車を出して辺りを見渡せば、だんだんと薄暗くなり美容室やカフェらしき建物…街中にポツポツとイルミネーションが灯り出す。
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