6 / 21
12月
6
しおりを挟む少し歩いて南京町、飲食店や土産屋が通りと路地に多く建て込んでいた。
「何にします?豚まん?食べ歩きか…座って食べます?……んー……聞いてます?千早さん」
「聞いてへんかった。もっぺん言うて?」
千早は振り返った知佳の3歩後ろを歩きながら、口元を押さえて楽しそうに笑っている。
「千早さん、怪しい。通報されちゃう」
知佳はもう慣れてしまったがその風貌は非合法な何かの売人の様、その人相の悪さがどこに行っても付き纏うのだ。
「ひどっ…まぁ…せやろうけど……ならさぁ、手ぇでも繋いでや。明らかにデートや分かるようにさ」
そう言って千早は右手を差し出したが、知佳は少し困った様な面持ちで固まってしまう。
「え、そんなに嫌?」
「あぁ、じゃなくて」
彼女は愕然とギョロンと目を剥いた千早の左側に立ち直し、彼の左手を取った。
「癖というか…左手で鞄持つので、右手の方が…繋ぎやすくて…」
右手で鞄を持つのは慣れない、鞄が千早の体に干渉してもいけない、男に鞄を持たせるなどもってのほか。自身が左側を歩いた方が都合が良かったのだ。
「はぁ、どっちでも……なに照れてんの」
「こういうの数年ぶりなので…全部全部久しぶりなんで!緊張します!」
堂々とそう宣言し、知佳は千早の手を引いて歩き出す。
「うん、緊張すんなぁ、チカちゃん♡」
手始めに豚まん、広場で撮影、客引きを断れず再び肉まん。裏の通りで雑貨を見て、お土産を少し買い、二人はゆるゆると中華街観光を楽しんだ。
「蟹は…手が出んかったな」
「ですね…あの蟹入り中華まんに千円を出せないというのは…自分の小市民さが悲しいです」
なぜだろう、金額としてはそう高くないはずなのに、「中華まん」に札を払うのがひどくもったいなく感じ、蟹入りを断念したのだ。
「また…ちゃんとした店でしっかり蟹食おか」
「はい」
それは次のデートの約束、男が奢るくらいの甲斐性は見せたいがおそらく割り勘であろう。
その後はハイキング感覚で北へ歩き異人館を巡り、路地の洒落た洋服屋や雑貨屋を見ながら駐車場へ戻る。
「千早さんは…あの日…震災の日…お家に居ましたか?」
「あー…、せやね。小学生…やったか、大阪もえらい揺れたなぁ…よぉここまで復興した思うよ」
少ししんみりと街を見渡し、二人は記憶を思い出しながら歩く。
「広島も、少しですけど…本棚から本が落ちて来たりしたらしいです。私は小さかったので覚えてませんが…ここに住んでると追悼番組とか観るので、自分が被災したような…そんな感覚になったりしましたね…被災した友人もいましたしね」
「うん…」
千早は繋いだ手をぎゅうと一層強く握り、
「守れたらええんやけどな、自然には勝てんな」
と空いた手で頭を掻いた。
「……じゃあ、何からなら守れます?」
「へっ……」
思わぬ質問に千早は固まり、口を歪ませて考えたのち、
「ゴキブリとかなら…イケんで」
と答えて知佳の信頼を得るのだった。
「頼もしい。即戦力ですよ」
「よっしゃ」
顔を見合わせて「ふふふ」と笑い、ちょうど駐車場へ着いたので手を離した。
・
帰りの運転も千早が請負い、下道を大橋へ向けて西日をまともに浴びながら走る。
「サングラス掛けます?」
「あんの?貸して」
「はい……わ、不審者」
「チカちゃん、遠慮が無いなってきたね、いや…ええんやけど」
こんな雰囲気で淡路島にも行きたかった、お互いがそんなことをぼんやりと考えていた。
しばらくとりとめのない会話は続き、話題は思い出話へとシフトしていく。
「ようけ食うたし…ようけ歩いたね…あ、脚、痛いことないか?」
「大丈夫です。立ちも歩きも慣れてますよ、」
事務と言っても広い店舗の中を絶えず動いている、営業時代は立ち仕事だったしそれなりに耐性はあるのだ。
「あとね、私…学生時代にも立ち仕事してて。アルバイトで。だから、ヒールで立ってるのも得意なんですよ」
「ん、何の仕事?」
ヒールの立ち仕事、まさかとは思うがいかがわしいものだろうか…ひっそり千早の期待と不安が高まる。
「ブライダルコンパニオン。結婚式の給仕とか、ドリンクサービスとか。フロントでコーヒー出したりもしましたよ。ミツキちゃんともそこで知り合ったんです」
「へぇ……コンパニオン?え、エッチなやつ?」
「なんでですか…そういうのもあるんですか?よく知らないんですけど…パーティーの種類によっては屋形船のお酌係とかもありましたけどね、基本は結婚式のお手伝いでした」
「危ないやん…その…触られたりするやつやん」
「全く無いとは言い切れないみたいですね…お酒が入るとそういうこともあるみたい。だから、小慣れてる方が率先して行ってましたよ。お捻りも貰えるみたいだし」
広告で見たことがあるイベントコンパニオン、宴席に華を添える「女性」ならではの職業である。
「かぁ……オンナはそんな仕事があんのか…チカちゃんは…さ、触られたりしてへん?」
「無いですよ。学生は結婚式のみでした。お捻りも断らなきゃいけなかったし。この前のギャルメイクほどじゃないですけど、つけまつげ付けて赤い口紅して、がっつりオンナ!って感じで楽しかったです。時給1200円で土日のみ、暇な学生には持ってこいでした」
「ふーん……見てみたかったなぁ。今度、そういう化粧もしてみてよ」
千早は信号待ちの間に左手で知佳の頬に触れ、顎先をトントンと叩いた。
「あ、やっぱりギャルが好きなんですか?」
「いろんなチカちゃんが見たいの!ええやん、な」
「ふふっ…あ、青です」
「うぃ…」
車を出して辺りを見渡せば、だんだんと薄暗くなり美容室やカフェらしき建物…街中にポツポツとイルミネーションが灯り出す。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる