自己評価低めの彼女は慣れるとデレるし笑顔が可愛い。

茜琉ぴーたん

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12月

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 12月下旬のある日。
 世間はクリスマス真っ盛り、この日千早と知佳は午前中から車で東へと向かっていた。先月はトラブル続きで諦めてしまったドライブデート、そのリベンジマッチである。

 鍋屋での夕食以来、千早はセンターに戻れば商品管理室を訪ね、少しでも長く同じ空気を吸い、たまに夕食に誘って…順調に絆を深めていた。
 対する知佳は淡白とは言わないがサラッとしており、迫られれば応じるが自分から誘うということはまだしておらず…それは言わずもがな、「誘って断られたら嫌だなぁ」という保身からであった。千早は物足りなく感じながらも知佳の性格であるし順応にそれなりに対応していた。
 そんな二人の今日のお出かけの行き先は神戸の南京町なんきんまち、いわゆる中華街。定番の観光地でありデートスポット、食べ物も美味しいし周辺の散策もできて長時間楽しめる。
 足は知佳の軽自動車、助手席の千早は真剣に運転する彼女の横顔をニヤニヤと見つめていた。
「千早さん?」
「なに」
「あんまり見んとって、緊張する」
初めての道の運転で、知佳は集中しているのでいつに増して言葉が素っ気ない。
「うん、うん…しやから俺が代わろう言うたのにー」
 レンタカーはもうたくさん…知佳は千早を説得し、自分の車で行くことを強引に承諾させたのだ。運転ももちろん知佳がメインで、下道で休みながら向かおうということになっている。

 全体の8割は進んだところで、知佳は沿道のコンビニに入り休憩をとった。
 それぞれ飲み物を買って千早は1本だけ煙草を吸い、車に戻ると運転席を開けて、彼女を助手席へ移動させる。
「俺にも運転させてよ。軽の助手席に男が座ってんのダサいやんか…」
「えー…それは配慮が足りませんでした…でも明らかに女の車だけどいいんですか?」
 彼女の愛車はピンクとホワイトのツートンカラー、大きめだが男性寄りの車ではない。
「ええよ…彼女の車やな、ってなるやん」
千早はニカッと笑い、シートベルトは後回しにして缶コーヒーを開ける。
 知佳もドリンクにストローを刺し、慣れない道の運転で強張っていた身体をシートへもたれさせると、街並みや陸橋を見渡してひと息ついた。
「ふー…賑やかな街ですよねぇ…人がいっぱいで…さすが県庁所在地…お洒落…」
「せやね……チカちゃんの爪もお洒落よ、かぃらしいわ、なぁ?」
ドリンクを持つ手のその爪に施されたピンクとクリアのグラデーションネイル、照れる知佳の顔と交互に見比べてはまた千早は笑う。
「デートのためにお洒落してくれてんなぁ、かいらしいなぁ、ほんま…おおきにね」
「千早さんのためじゃないし…」
「あぁそう、自分磨き?どっちでもええわ…で?松井会は楽しかったんかいな」
 それは数日前に開催された松井宅でのホームパーティー、知佳はケーキと飲み物を持って参加していた。
「楽しかったですよ、蟹が美味しかった♡」
「ええなぁ…蟹のなんや…俺らも食おうや、中華街で…近くまで行ったら、パーキング見つけよな…、よし、出よか」
缶をドリンクホルダーに置いた千早はベルトを締めて今一度ナビを確認した。

 車内には地元の放送局のラジオ、知佳は流れる景色と千早の横顔を交互に見ながら時折はにかみ、ドリンクを口にする。
「チカちゃん、今日さ、何時頃までええの?」
「夜ですか?明日も休みですけど、日付が変わるまでに家に着ければ嬉しいです」
「あ、そう。ほな…大橋の夜景…観て帰ってもええかな」
 ここらの名物橋と言えば明石海峡大橋、吊り橋のワイヤーに取り付けられたLEDによるライトアップは通年行われていて、冬季は黄色に明かっている。この時期はクリスマスに合わせて特別な光り方をするらしく、千早は是非それを彼女と見たいと思っていた。
「あ…はい」
それはつまり暗くなるまで一緒に居ようということ、知佳は照れながらもそのお誘いを了承する。
「よし、…ひひっ」
 千早は横目で知佳の表情を確認してから目的地周辺のコインパーキングを探し始め、そこそこ近くて空いている駐車場を見つけて敷地へ入った。
「ここでええかぁ、チカちゃん、歩ける格好やんな、ええね?」
「はい」
 知佳が運転席を見れば男は相変わらず長いまつ毛、通った鼻筋、艶っぽい唇…
「あ、」
彼女はふと、レンタカーに同乗した際のときめきポイントを思い出して声を漏らしてしまった。
「なによ、他にええとこあった?」
「あ、違う…ここで大丈夫です…」
そう言って知佳は口元をマフラーで覆い隠し、目を泳がせて黙ってしまう。
「…なに、なんか見つけた?言うてよ、停めてまうよ?」
「いいんです、停めて、ぁー…」
「なんやの、」
千早はレバーを「R」に入れたまま、半身知佳の方を向いて動きを止めた。
 肩にかかった髪は平安時代の御垂髪おすべらかしを思わせるようにたわみ、首を動かせばパサッと胸の前まで落ちてくる。
「なに、なんよ?」
後続車は来ていないがここで止まっていると不審車両、千早は少し睨みを利かせて知佳に自分から言うように促す。
「あ、あの、」
「なに、チューする?」
これは単に彼の願望である。
「違う、あのっ…これ、」
「どれ?」
「ば、バックする時の仕草……か、カッコいいなって……前も…思って……レンタカーの時……」
意識すればするほど直視できないタイプの知佳、助手席の背に長い手が回されてからずっと目線が落ち着かない。
 電子音は危険信号の如く、その胸でも似た音が鳴り響いている。
「は、あー、はいはい……チカちゃん、乙女やな。コレがええの、うん?」
 一発で入ったのに性悪な千早は無用に2回・3回と切り返し、ニヤニヤと知佳の反応を楽しんだ。
「もういいから…」
「何がそんなええの?男のバック駐車がええて聞いたことはあるけどや…チカちゃん的には何がクんの?」
千早はパーキングブレーキを踏んでからエンジンを停止させ、彼女の萌えポイントを聞き出そうとする。
「え…あの、顔が近くなるのと、真剣な表情してるの見れるのと…腕がここにあるから…なんか…ちょ…」
 面白い、こんな何でもないことでドキドキとしている知佳がいじらしい。
 千早はその身をグッと助手席へ寄せ…
「あるから、こうされてるみたいなんやろ?うぃ、いつでもしたるがな、な、」
そのまま腕を肩へ回し覗き込むようにして頬へキスをした。
 唇へいくつもりだったのに知佳が顔を背けたからこうなってしまった、千早は鼻の頭をヒクつかせるもまずまずの触れ合いにとりあえず己を納得させる。
「ほな、行こかぁ」
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