5 / 21
12月
5
しおりを挟む12月下旬のある日。
世間はクリスマス真っ盛り、この日千早と知佳は午前中から車で東へと向かっていた。先月はトラブル続きで諦めてしまったドライブデート、そのリベンジマッチである。
鍋屋での夕食以来、千早はセンターに戻れば商品管理室を訪ね、少しでも長く同じ空気を吸い、たまに夕食に誘って…順調に絆を深めていた。
対する知佳は淡白とは言わないがサラッとしており、迫られれば応じるが自分から誘うということはまだしておらず…それは言わずもがな、「誘って断られたら嫌だなぁ」という保身からであった。千早は物足りなく感じながらも知佳の性格であるし順応にそれなりに対応していた。
そんな二人の今日のお出かけの行き先は神戸の南京町、いわゆる中華街。定番の観光地でありデートスポット、食べ物も美味しいし周辺の散策もできて長時間楽しめる。
足は知佳の軽自動車、助手席の千早は真剣に運転する彼女の横顔をニヤニヤと見つめていた。
「千早さん?」
「なに」
「あんまり見んとって、緊張する」
初めての道の運転で、知佳は集中しているのでいつに増して言葉が素っ気ない。
「うん、うん…しやから俺が代わろう言うたのにー」
レンタカーはもうたくさん…知佳は千早を説得し、自分の車で行くことを強引に承諾させたのだ。運転ももちろん知佳がメインで、下道で休みながら向かおうということになっている。
全体の8割は進んだところで、知佳は沿道のコンビニに入り休憩をとった。
それぞれ飲み物を買って千早は1本だけ煙草を吸い、車に戻ると運転席を開けて、彼女を助手席へ移動させる。
「俺にも運転させてよ。軽の助手席に男が座ってんのダサいやんか…」
「えー…それは配慮が足りませんでした…でも明らかに女の車だけどいいんですか?」
彼女の愛車はピンクとホワイトのツートンカラー、大きめだが男性寄りの車ではない。
「ええよ…彼女の車やな、ってなるやん」
千早はニカッと笑い、シートベルトは後回しにして缶コーヒーを開ける。
知佳もドリンクにストローを刺し、慣れない道の運転で強張っていた身体をシートへもたれさせると、街並みや陸橋を見渡してひと息ついた。
「ふー…賑やかな街ですよねぇ…人がいっぱいで…さすが県庁所在地…お洒落…」
「せやね……チカちゃんの爪もお洒落よ、かぃらしいわ、なぁ?」
ドリンクを持つ手のその爪に施されたピンクとクリアのグラデーションネイル、照れる知佳の顔と交互に見比べてはまた千早は笑う。
「デートのためにお洒落してくれてんなぁ、かいらしいなぁ、ほんま…おおきにね」
「千早さんのためじゃないし…」
「あぁそう、自分磨き?どっちでもええわ…で?松井会は楽しかったんかいな」
それは数日前に開催された松井宅でのホームパーティー、知佳はケーキと飲み物を持って参加していた。
「楽しかったですよ、蟹が美味しかった♡」
「ええなぁ…蟹のなんや…俺らも食おうや、中華街で…近くまで行ったら、パーキング見つけよな…、よし、出よか」
缶をドリンクホルダーに置いた千早はベルトを締めて今一度ナビを確認した。
車内には地元の放送局のラジオ、知佳は流れる景色と千早の横顔を交互に見ながら時折はにかみ、ドリンクを口にする。
「チカちゃん、今日さ、何時頃までええの?」
「夜ですか?明日も休みですけど、日付が変わるまでに家に着ければ嬉しいです」
「あ、そう。ほな…大橋の夜景…観て帰ってもええかな」
ここらの名物橋と言えば明石海峡大橋、吊り橋のワイヤーに取り付けられたLEDによるライトアップは通年行われていて、冬季は黄色に明かっている。この時期はクリスマスに合わせて特別な光り方をするらしく、千早は是非それを彼女と見たいと思っていた。
「あ…はい」
それはつまり暗くなるまで一緒に居ようということ、知佳は照れながらもそのお誘いを了承する。
「よし、…ひひっ」
千早は横目で知佳の表情を確認してから目的地周辺のコインパーキングを探し始め、そこそこ近くて空いている駐車場を見つけて敷地へ入った。
「ここでええかぁ、チカちゃん、歩ける格好やんな、ええね?」
「はい」
知佳が運転席を見れば男は相変わらず長いまつ毛、通った鼻筋、艶っぽい唇…
「あ、」
彼女はふと、レンタカーに同乗した際のときめきポイントを思い出して声を漏らしてしまった。
「なによ、他にええとこあった?」
「あ、違う…ここで大丈夫です…」
そう言って知佳は口元をマフラーで覆い隠し、目を泳がせて黙ってしまう。
「…なに、なんか見つけた?言うてよ、停めてまうよ?」
「いいんです、停めて、ぁー…」
「なんやの、」
千早はレバーを「R」に入れたまま、半身知佳の方を向いて動きを止めた。
肩にかかった髪は平安時代の御垂髪を思わせるようにたわみ、首を動かせばパサッと胸の前まで落ちてくる。
「なに、なんよ?」
後続車は来ていないがここで止まっていると不審車両、千早は少し睨みを利かせて知佳に自分から言うように促す。
「あ、あの、」
「なに、チューする?」
これは単に彼の願望である。
「違う、あのっ…これ、」
「どれ?」
「ば、バックする時の仕草……か、カッコいいなって……前も…思って……レンタカーの時……」
意識すればするほど直視できないタイプの知佳、助手席の背に長い手が回されてからずっと目線が落ち着かない。
電子音は危険信号の如く、その胸でも似た音が鳴り響いている。
「は、あー、はいはい……チカちゃん、乙女やな。コレがええの、うん?」
一発で入ったのに性悪な千早は無用に2回・3回と切り返し、ニヤニヤと知佳の反応を楽しんだ。
「もういいから…」
「何がそんなええの?男のバック駐車がええて聞いたことはあるけどや…チカちゃん的には何がクんの?」
千早はパーキングブレーキを踏んでからエンジンを停止させ、彼女の萌えポイントを聞き出そうとする。
「え…あの、顔が近くなるのと、真剣な表情してるの見れるのと…腕がここにあるから…なんか…ちょ…」
面白い、こんな何でもないことでドキドキとしている知佳がいじらしい。
千早はその身をグッと助手席へ寄せ…
「あるから、こうされてるみたいなんやろ?うぃ、いつでもしたるがな、な、」
そのまま腕を肩へ回し覗き込むようにして頬へキスをした。
唇へいくつもりだったのに知佳が顔を背けたからこうなってしまった、千早は鼻の頭をヒクつかせるもまずまずの触れ合いにとりあえず己を納得させる。
「ほな、行こかぁ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる