自己評価低めの彼女は慣れるとデレるし笑顔が可愛い。

茜琉ぴーたん

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12月

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 その日の夜。
 二人は毎晩、千早の要望通り何らかの便りをメッセージアプリなり電話なりでするようにしているのだが、今夜は通話である。千早は直接問いただしたいことがあったのだ。
「もしもし、チカちゃん…今日さぁ、男に話しかけられてたやろ、窓から、」
『見てたんですか?ウチシバ運輸さんの…何さんだったかな…忘れちゃった』
「誰でもええねん、もー…なにモテてんのよ、チカちゃん」
『え、雑談ですけど…すごくどうでもいい内容の…』
 それが会話の糸口になり親交を深めるキッカケになるのだろう、千早は「なによ、」と迂闊うかつな知佳から詳しく聞き出そうとする。
『国道沿いに北欧料理屋ができたって…』
「はぁ?ほんまにどうでもいい話やな…あ、チカちゃん北欧好きなんか?」
『いえ?特に何の思い入れも無いです…うん…優しい味、女性に人気なんですって…へぇ、って』
 知佳に声をかけたスタッフは細マッチョの優男、女性受けする話題を持ってくるあたり慣れているのかリサーチしてまで女漁りをしているのか…千早は悪い方にしか考えが及ばなかった。
「……チカちゃん、それさ、一緒に行こうって誘われてんとちゃう?」
『え、何も言われなかったけど…そうなのかな?私に?無いでしょー…雑貨とかも扱ってるんですってよ、興味ないけど』
「それ誘われてるやんか、」
 危ない、知佳が社交辞令で「へー、行ってみたい」などとこぼせば「じゃあ一緒に、」となるパターンであろう。そこを誘ってしまえば相手知佳は断れない、実に自然で巧みな技であると千早は感心した。
『あー…その人、次の休みは水曜なんだって言ってました』
「がっつり休み合うなら行こう言われてるやん、どう答えてん?」
『そういうことか…その日が定休日じゃないといいですね、って答えたんですけど…ほら、個人の飲食店って普通に定休日とか平日の中日にあったりするでしょう?そっか…噛み合ってなかったかも』
「……相手が不憫や…」
この子の攻略ルートはそちらではない…千早は安堵するとともに、儚く散った優男の勇姿を讃えて小刻みにうんうんと頷く。
『はっきり言われなきゃ分かんなくて…恥ずかし…』
「ええのよ、誘われてたらチカちゃん断りきれず行ってしもうてたやろうから…うん」
『さすがに断りますよ…彼氏がいますからって…あ、でも男女2人で出掛けるからってイコールデートっていうのは感覚が古いのかな、松井会とかもしてるし…』
「いや、そらデートやろ……もっと大々的にアピールしたらどないやの?」
『聞かれたら答えますよ。でも聞かれないから答えようがないでしょ』
「まぁ…うん…」
 知佳に声をかける男性陣にどのような思惑があるのかは分からない。単純に「男ばかりの中の紅一点に癒されるから」という理由もあるだろうし、「用事ついでに雑談」というのもあるだろう。むさ苦しい男とにこやかな女性、同じ内容の話をするなら笑って相槌を打ってくれそうな後者に話しかけたいと思うのは仕方のないことだと千早も思う。
『正直ね、疲れますよ…雑談って。わざわざ私に話すことだから重要なのかな?とか勘ぐったり。不愉快な思いをさせちゃ悪いなってニコニコしたり…1日の対人エネルギーをほとんどそこで消費しちゃいますよ…』
「そこまでか…え、俺との雑談も疲れてた?」
『最初はね…この人はなんで私に話しかけるんだろうって思ったし…妙に緊張したし…うん…あ、今は平気ですよ!千早さんは結構聞き上手だから』
 君と仲良くなりたかった、あわよくばという気持ちがあった。下心だらけの千早の訪問を何度も許した彼女は、やはりどこか鈍いのかもしれない。
「うん…分かってへんから言うとくよ。チカちゃんな、最近明るくなってんて。話しかけやすくなってんて。しやから男どもが声かけてくんのよ。コミニュケーションはええ事やと思うけどな、その…デートとか誘われたらちゃんと断ってや、ほんまに」
『はぁ…』
「これは自意識過剰とかやなくて、事実やねん。チカちゃん、よう笑うようになったろ?人の顔見て話すようになってるし…したらやっぱチカちゃんの可愛さに気付く奴も出てくるやんか、今日の奴みたいによ…」
『はぁ』
自己評価でも他者評価でも実は同じこと、知佳は人生何度目かのモテ期の到来を疑ってかかる。
「とにかくよ、気ぃつけて、な、彼氏がおるという自覚を持って、簡単に俺以外の男に歯見せて笑うたらあかんから、分かった?」
『はい、そりゃもう、』
「ほんまやで…チカちゃん。他の奴に気ぃ持たせるようなことしたら、俺ら付き合ってます言うて商管室でキスしたるからな!」
 本当は是非そうしたいくらいだが、千早は敢えてお披露目を抑止力として提案した。恥ずかしがり屋の知佳には、そっちからの脅しの方がよく効くと分かってきたからである。
『うわ、困る』
「こんなん罰ゲームにしたないけどな、守ってや…目立ちたくないならな、」
『はいはい…』
 そんなに用心しなくても私に下心など持つ人はいないのに。それを口に出せば話が長くなる、千早の行動も分かってきた知佳は賢明な判断で不要な争いを回避した。
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