自己評価低めの彼女は慣れるとデレるし笑顔が可愛い。

茜琉ぴーたん

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1月

13

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 翌日。
「ミツキちゃん、あの、お願いがあってな、」
「ん、なになに?あたしにできることならええよ、」
 ここは知佳の主戦場、1階の商品管理室…仕事中だというのに同郷の2人はついつい自然に言葉を崩す。
 伝票の確認に降りた白物担当の刈田かりた美月みつきは、作業を終えるまで待っていたであろう健気な知佳の言葉に耳を傾けた。
「あの……し、下着って、どこで買ってる?」
「んー…最近はネットも使うけど…たまに実店舗に行って採寸してもらったりする…それが…あ、え?」
交際を始めてふた月弱、あの男のために下着を新調する程の段階まで進んだのか、と美月は眉間に皺をこしらえる。
 ちなみにこれは目の前で狼狽うろたえる知佳に対してではなく、不届きな千早への懐疑心からくるものである。
「ち、違う、あの、」
「チカちゃん、もう?え?」
「違う、さ、サイズが分からんくて…採寸…付き合ってもらいたいんよ…」
頭から「フシュー」と蒸気でも上がりそうなほどに真っ赤になった知佳は、ようやく要旨を伝えて安心したのか手元のクリアファイルでパタパタと顔に風を送った。
「ん?胸の?」
「うん…今までは適当に測って着けてて…ちゃんとしようかなって…別に…彼氏ができたけぇとかそういうんじゃない…」
「キレイにしときたいんね?…うん、行こう、次の休みいつ?ん、」
 男のために、も加味されているのだろうが、自分を磨く・高めるための下着選びは全くもっていやらしくはない。美月は喜んで付き添いを引き受ける。
「ここと…ここ、」
「じゃあ月曜日が揃っとるかな?うん、じゃあこの日な、ふふ♡可愛いの選ぼうや♡」
「買うかは分からんよ…とりあえず採寸…」
「試着までさせられるよ?まぁ買い過ぎは止めるけぇ安心して、」
 店員に薦められれば断れず買ってしまう知佳の性分を美月もよく分かっている。彼女はストッパーとしても期待されているのだった。



 翌週月曜日。
 知佳は美月と連れ立って近くのショッピングモール内にあるランジェリーショップへと足を踏み入れた。
 チュールにシフォンにレースにリボン、パステル、ヴィヴィッド、ビタミンカラー…明るい店内は宝石箱のようにキラキラと輝いている。
「うわ…まぶしい…可愛い…」
「ね、あたしもいいのがあれば買っちゃお…すみませーん、採寸お願いします♡はい、チカちゃん、ここね、お願いします、」
「あ、はい、」
 知佳は誘われるままに試着室へ入り、
「ゎッ……へ、わー…」
上を脱いで冷たい布メジャーの感触にビクッと肩を震わせた。
 アンダーを測ったら次はトップ、下乳に手を添えてぐっと持ち上げれば、下着屋の店員は素早くメジャーを当ててくれる。
 そして今のサイズならこれくらい、と該当するサンプルを渡されて着ければ、トップは綺麗にカップに収まりふっくらと丸い丘になり、背中も脇も肉が寄せられてすっきりとしていた。
「おぉ…きれい…これが私のサイズか…このサイズで見てみます」
 サンプルで着たデザインは好みではなかったので他の物を美月に取ってもらい試着、ピッタリのブラジャーを3着…ショーツもセットで購入することに決める。


「チカちゃん、結局あたしと同じEカップまで上がったのね、今までのブラはもう捨てちゃってよ?」
「うん…いや、背中に肉が逃げてたね…もったいない」
 それぞれ会計を済ませて可愛い手提げに入れてもらい、2人はほくほくと店を出た。
「よーし、チカちゃん、ご飯食べよ」
「うん、どこにしよう」
「彼氏とは行かないようなとこにしよ♡」
 自分も気に入る下着を買えたのだろう、美月が一層華やいでピンヒールのかかとを鳴らせば周囲の者の目を奪う。
「(華があるなぁ…)」
 知佳より7センチ高い身長とヒールで更にスタイルアップし、「女同士じゃないと着せてもらえないの」というデコルテを開いたニットには男性ならずともつい振り返ってしまう。

 2人は一旦駐車場へ戻り、スマートフォンで手頃なランチを検索した。
「洋食…ランチ…あ、ここ行ってみたかった」
「いいじゃん、ここから…700メートルか…歩けそう?」
「大丈夫」
 適度な運動と節制だけでしっかり食べるし時に呑むし、これで体重は知佳と変わらないというのだから敵わない。
 美月は後部座席の足元から袋を引っ張り出して、中のぺたんこのスニーカーに履き替えた。
「ヒールがちびちゃうからねー」
「そういう所に気が回るのが凄いよねぇ」
「そう?ふふ♡行きましょ」
 大きな交差点を渡ればそこは昔からの住宅街で、込み入った路地の先に目当てのレストランがあるらしかった。
「ミツキちゃんは…人目を引くよなー」
「なに、どしたん」
「いや、隣に並ぶと私ちんちくりんで…みっともない」
 知佳は身長は158センチ、低いということもないし過度に太ってもいない。千早も彼女の肉付きに女性らしさを感じているし「抱き心地が良い」とむしろ好評なのだが。
「いやぁね、卑屈ー…『そんなことないよ』待ち?あたし言わんよ?」
「分かっとるって…なんか…欲が出てきたんかな?キレイになりたいとか…ミツキちゃんに嫉妬とかじゃなくて…羨ましくなって…きたかな…」
それは自己評価が低い知佳に芽生えた向上心、口にするのも本来は気が引ける高過ぎる達成目標。
「やだ可愛い♡ダイエットする?美容体重目指しちゃう?協力するよ?」
美容にかける労力は惜しまないのがその美しさの秘訣、美月はニマニマと口元を緩めて友人を覗き込む。
「お腹と…太もも辺りは…絞りたいかな」
「うんうん、ちょっとずつやってこ、やぁもう…チカちゃんが恋してる♡」
 自分の満足のために綺麗になりたいなんて烏滸おこがましい、でもそれが恋人の望むことなら人のため。
 知佳は細かく動機と理由を付けて、プチダイエットに取り組むことを宣言した。



『もしもし、こんばんは』
『こんばんは、チカちゃん、今日は何してた?』
毎夜の連絡、千早は美月と買い物に行くと事前にしらされていたので、おそらく下着を新調したのではと予想している。
『モールで買い物して…行きたかったランチのお店に行ってきました。店主が渋いハンサムさんでね、バタークッキーをお土産で貰っちゃった…ミツキちゃんといるとこういう恩恵がたまにあるんです』
『へぇ…』
『美味しかったからまた行こうねって……そんな普通の休日でしたよ』
『うん、うん…』
 他愛のない話、オチもヤマも無いというのに聞いていられるのは彼女が愛しい恋人だからである。
 しかし千早が最も聞きたかったのは下着の話で、あわよくばテレビ電話などで見せてはくれまいかという期待も当然あったのだ。
『あ、あとね、興味ないかもしれませんが…下着屋さんできちんと採寸してもらって来ました』
『ある、あるよ!無いわけないやん、教えてぇな!』
 サラリと流そうとした話題にしっかり食い付いた千早は、知佳の真の胸のサイズを聞いて打ち震える。
『……、でした』
『まじか……手に余るとはこういうことを言うんやな』
『だれうま……いや、そんなに変わらないと思いますけど…』
『明日、新しいの着けて来て、仕事終わりに見るから!いや、直にちゃうよ?服の上からよ』
『はいはい』
それくらいならお安い御用、知佳は電話口で見えないのをいいことにぽよぽよと新しいブラジャーに包まれた胸を揺らした。
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