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1・調教済みだ
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しおりを挟む「それさ、いつも着けてるの?」
休憩は10分でも2時間59分でも料金は同じだ。俺は買って来たペットボトルのお茶を開封してベッドにゆったり腰掛けた。
そして「おいでおいで」と彼女を呼び寄せて肩を抱けばすんなり収まって頭と体重を俺に預けてくれる。
「はい、ドキドキするので」
「ドキドキ、ねぇ…」
「開けてみれば分かりますよ、これがあるだけで体の扱い方が変わります」
「…そうなの?」
「お風呂でも…私は常時着けておくタイプなのですが…ボディータオルに引っ掛けてしまわないように胸周りは丁寧に洗うようになります。もちろんたまには外して洗いますが…膿まないように定期的にケアをして、慈しむように…なります」
「ほー…」
俺は耳にも穴は開けてないし乳首なんて開けようとも思わない。しかしもし付いていたとして洗体時にどうするかを頭でぽかんと考える。今までのように雑に上から下へスポンジを動かすと確かに引っ掛かって想像でも「イテテ」となる。胸だけは素手で丹念に泡を盛って滑らせるように洗うのがベストなのだろうか。
普段使い道も無くそこに在るだけの乳首を丁重に扱う、なるほどそういうことも自分を愛することに繋がるのか。悔しいが分からなくはない。
しかしピアスをシャツの上から触って腕で自縛している彼女はうっとりと、脱がせる前に俺としたキスの時よりも色っぽい顔をしていてそれは悔しかった。
「笹目さん、元カレのこと考えてる?」
「ち、違います、そんな…」
「元カレが開けた穴をそんなに大切にされると妬いちゃうな」
「……お可愛いところもあるんですね」
「はぁ?」
「常盤さんはお仕事中はしっかり者でどんと構えてらっしゃるイメージなので…お付き合いを始めてからおっちょこちょいなところも見つけたりしてお可愛らしくて…あぁすみません」
言葉遣いがもったりとお嬢様というか奥様チックになって来ている。これが彼女の素ならばそれを引き出したきっかけは絶対にあのピアスと、それを開けた元カレとの思い出が蘇ってきているからだ。
好きになる前に知ってればここまでショックを受けずに済んだのにな。俺は彼女が指摘した通り、元カレの痕跡に嫉妬する可愛げを持つ男のようだ。
「いいよ……ふー…俺はさ、正直その…胸にピアスを通すっていう価値観は分からない。笹目さんのこと好きだしがっつりエッチするつもりで来たから肩透かし食らって何とも言えない気分だよ、腹も立ってる…元カレにね」
「まぁ」
「俺が外してって言ったらそれは外せる?」
「…はい、大丈夫です」
ならセーフ、本音を言えば穴は塞いで欲しいのだがそこまで強いるほどオラついてはないし、それで嫌われるのが平気なほどメンタルは強くない。
「その…体の一部だって言うなら普段付けてても構わない、それは俺が制御できることじゃないから…俺とのデートの時に外してくれるなら…それでいい」
「はい」
「まぁ今日は無理っぽいけど……もう少し休んだら帰ろうか」
「すみません……あの、ならフェラチオだけでもさせて頂けませんか?」
「ぶふっ」
思わぬ提案にお茶を吹く、咄嗟に避けたがそれでも自身のスラックスとワイシャツに飛沫が掛かった。
「っげふン、」
「大丈夫ですか」
「なに、ゲホッ、は、」
俺はそれなりにパートナーより上位には立ちたいが俺が"リードしたい"という意味合いであって、彼女を"従えたい"訳ではない。
こちらが「して」と頼むならまだしも、彼女が「したい」と頼みお伺いを立てるなんてそれはもう俺が『ご主人様』ばりの存在になっているということか。機嫌を損なわせたのでその禊ということか。
奉仕根性が色濃く残っている彼女は咽せる俺の背中を摩って焦りを見せた。
「それか手で、目を瞑って頂けるなら胸で挟みますので好きに動いて…いえ、私が動きますので、そこにローションがありますからお借りして」
「待って、待って……あーそう、そこまで仕込まれてんの、」
「……一般的なカップルもそれが当たり前だと…教えてもらって…」
「あー良い良い、うん…一般的ではないよ、する人はいるだろうけど…俺はそんな、罰ゲームみたいなことをさせたい訳じゃない…んー…」
元カレからの教えをこちらに教えて頂かなくても結構、嬉しいかと言われれば嬉しいがなんだか畏れ多い気もする。
「私のせいでその…気が削がれてしまったので…私の意思で、させて下さい」
「なら…ちょっとだけ…あ、ごめん胸は仕舞ってくれ…ボタンも、そう」
「はい…ピアス、外しましょうか」
「いや、今日は良い、着けといて」
「寛大なんですね…」
彼女はブラジャーを着け直してボタンを上まで留めた。
これは別に紳士的な振る舞いとかではない。目の前でピアスを外されてあの細い針を見るのが怖かったし、ピアスが抜けた後の乳首がどんな状態なのかを見るのが怖かったのだ。
俺も過去に恋人の耳のピアス穴を見たことはあるし引き抜いたからといって空洞になって向こう側の景色が見えるなんて思い込んではない。だが、一度裂かれて針の穴の形に丸まって定着した肉の感じがどうも怖い。ちなみにだが同じ理由で、耳でも拡張するタイプのピアスは無理だ。見ていて肝がひゅんとなる。
「立たれますか?」
彼女は床へ降り、自然に慣れた動きで絨毯敷きのそこへ正座してぴっと三つ指を立てた。
これが彼女が教わった作法なのか、仕事着のシャツとチノパンでそんなことをするもんだから俺は彼女を『笹目フロア長』として見てしまう。
俺たちは同期でフロア長に昇進した時期もほぼ同じだった。初任地が離れていたので若い頃がどうだったかは知らないが、その頃の彼女も是非見てみたい気はする。
「いや、笹目さんがやり易いように…」
そう言えば彼女は大きな目をまん丸にして意外そうに眉を上げ、
「…なら、座って下さい」
とベッドのフチを手で指し示した。
「うん」
「スラックスが汚れてはいけませんが…このままされますか?それとも脱ぎますか?」
「脱ごうかな」
「はい」
端まで移動した俺を一旦立たせた彼女は、ベルトのバックルが音を立てぬよう手で押さえながら開けて静かに抜いて床に落とす。
腰ボタンを外してするすると足元へスラックスを降ろし、何故だか彼女の顔は笑っていた。
「ふふ、パンツもお可愛らしいです」
と何の変哲もないボクサーを褒められれば中心が少しピクンと疼く、もっと良い物を選んで来れば良かったと思ったが柄はどれも似たり寄ったりでそう変わらない。
「笹目さん、そんなご奉仕みたいな喋り方をしなくていい」
「そうですか、すみません…癖で」
「普段の…笹目フロア長が好きなんだ」
「……やだ、」
頬を赤らめて顔をそらすその仕草、俺は彼女のその表情が好きだった。
1年前、今の店舗に転勤して来て最初の呑み会で、彼女は俺のグラスにビールを注いでくれた。
別に俺の歓迎会とかいう訳でもないただの食事会だったのだが、美人にお酌されれば気分が良かったので「笹目フロア長はキレイな所作をしますね」と遠回しに褒めたのだ。そうすると素面の彼女の頬はみるみるうちに赤く染まり、吃りつつ「ありがとうございます」と言って顔を向こうへそらした。
ハラスメント防止が大きく叫ばれる昨今において容姿について言及するのは絶対にタブーで、「笹目さん、実に良いおっぱいですね。テーブルに載ってしまってる、重たくないですか?」と本当は思っていたが、アルコールが入ろうとそれを漏らしてしまうほど俺は阿呆ではなかった。
気になり始めたきっかけはきっとそれだった。日々の中でしなやかで女性らしい動きが美しくて目を引いた、そして照れる仕草が可愛らしくて心の中にずっと残っていたのだ。
しかしまぁその彼女を脚の間に挟んでフェラチオさせる日がこんなに早く来るとは。
嫌がればさせたくないが望むのだから仕方ない…でもできれば清純派であって欲しかったかな、俺はワガママを口には出さずゴクンと飲み込む。
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