5 / 49
2・彼女の生い立ち
5
しおりを挟む「私がします」
「ありがと…」
まるで介護だ、彼女は重ねて折ったティッシュを俺の股間に当ててテカテカした精液を吸い取らせていく。
竿をあっちへこっちへ倒しながら玉袋まで綺麗にして、
「すみません、少しだけ」
と断ってからそのティッシュを鼻に近付けクンクンと嗅いだ。
「…なんで」
「いえ、すみません…こんな香りなんですね、精液って」
「嗅いだことも無かったか」
「はい、あの…お伝えした通り、フェラチオも実戦は初めてでしたので」
そうだ開始前に聞いたその話を確認せねば、ふわふわ浮ついていた気持ちがやっと体に戻って来た気がする。
「それだ、その…初めてって言った?マジで?」
「その通りです、生身のそれを口にしたことが無いんです」
「………元カレのは?」
「…いいえ」
彼女は口の端に残った俺の体液を一番最後に拭き取って、ティッシュをまとめてゴミ箱へと入れる。
「そう…軽いセックスだけだったのか」
分からんでもない、口淫は生殖には関係無い行為だしさっぱりした男なら淡白に抱いて終わらせることもあるだろう。しかしそれだとやはりピアスとの整合性が取れていないようにも感じる。
俺が乳首ピアスに慄いたのはその痛々しさもあるが、『過去の男に開発された猛者』な様を感じてしまったからでもあるのだ。激しく獣のように交わっていたので優しく生半可なイチャラブセックスでは「お子様ね」と呆れられるかも、そんな懸念もあった。
「(あのピアスは元カレのただの趣味…?サドだったのかな)」
少々安心した俺がパンツを穿きペットボトルのフタを開けようとすれば、彼女は
「んー…信じていただけるか分かりませんけど、私、生娘なんです」
と超意外なことを告白し隣へ腰を降ろす。
俺はもうお茶を吹き出したりはしなかったが、やはり驚きはしたので飲み込むタイミングを誤り少量気管に入ってしまい…また咽せた。
「ごっ……ぅ…ん…」
「大丈夫ですか、お茶を飲むのがお下手なんでしょうか」
驚かせた張本人の彼女はまたティッシュを手に取り俺の口周りを拭き、背中をトントンと叩いてくれる。
「ゔんっ…あ、あー…気管に入っただけだ、驚いて…なに、生娘?……説明してくれ」
「処女、ヴァージン、未通、」
「意味は分かってる、え…経験無いの?」
「はい、その…なんと申したら良いのでしょう、男性の、それ、」
恥ずかしいというよりそれを辱めとして愉しんでいるのか、もじもじしつつも彼女は頬を染めて艶っぽく言葉を紡ぐ。
「私の…中に、受け入れたことは無いんです、真っサラとは言いません、けれど男性を受け入れたことは…無いんです」
「……元カレは…笹目さんを抱かなかったの?」
よほどの場数を踏んでるんじゃないのか、だって風呂にも入ってない仕事終わりの男のコレを彼女は美味そうに食っていたのだ。プラトニックな関係なんて今さら言われても信じない。だって乳首にピアスを開けるような特別な間柄だ。
「ご主人様は……温かく元気のあるそれを、お持ちではなかったんです」
それとはコレのことか、ということは不能だったのか。だいぶん婉曲して気遣って分かりにくくなっているがそういうことだろう。
「……勃たなかった?」
「……そう、ですね…」
「へぇ…」
ならば仕方ないのかな、実際に40・50代になってもギンギンに勃つかどうかは分からないし、若くても役に立たなくなることだってある。現に俺は乳首のピアスを見ただけで萎えてしまったのだ、既に少し自信は失っている。
「その人とは長かったの?」
「そうですね……物心ついた頃から一緒に…おりまして…『ご主人様』と呼んでた訳でもないんです、普段は『ひぃ様』とお呼びしてました…お名前が聖様でしたので」
この敬い方、幼少期から、ゾワっと嫌な発想が忍び寄り思わず
「…肉親?」
と尋ねてしまう。
しかし彼女はかつて無いほどの語気で
「いえ、とんでもない!」
と否定した。
「ひぃ様は…とてもできた方で、親に捨てられた私を引き取って育てて下さった…命の恩人なんです」
「そう、なの」
「はい…すみません、大きな声を出しました…」
彼女はバツが悪そうにベッドから降り、コンビニの袋からペットボトルのブレンドティーを取り出して開封する。
そしてまた俺の隣へ座り、ちびちび喉へ通して「ぷは」と可愛い吐息を漏らした。
「はぁ……笹目さん、その…ひぃ様ってのは…文字通りのご主人様?それとも、プレイで言うところの主人か?」
「えぇと…どちらも、私が…お仕えしていた、とでも言いましょうか…お家に住まわせて頂いて、生活を共にしていた方で…」
「…家政婦みたいなこと?」
「まぁ家事は…そうですね、教えて頂いて、私が。衣食住を何不自由無くさせて頂いて…そのお返しではないですがこういったことをして…」
なるほど恩があって体で返していたのか、しかし歪な男女関係だと心の底がモヤモヤしてくる。
そして彼女の中で絶対的な存在であるひぃ様とやらは今どうしているのか。彼女は俺を悦ばせて嫉妬で折檻など受けはしないのか、そちらも気に掛かって来た。
「笹目さん、そのひぃ様ってのは……今は?」
「あの…お亡くなりになって…半年前に」
不謹慎だがパァと靄が晴れるような心象が脳裏に広がる。
俺はカレンダーやらシフト表やらバタつく売り場の様子を走馬灯の如く思い出し
「……そうか、忌引きしてたな」
と発すれば
「はい」
と静かな声が返ってくる。
確かその日は朝から雨で、数日前から落ち着かない様子だった彼女はスマートフォンの着信を受けるなり飛ぶようにして会社を後にしたのだ。
そして5日に及ぶ忌引き、店長と副店長は交代で通夜と自宅葬に顔を出していた、売り場を任された俺はただ忙しくてバタついていた。
なので休み明けにげっそりと痩けた彼女を見ても「喪主って大変なんだな」くらいしか思うことができず、あくまで同僚としての励まししかできなかった。
俺が彼女へ好意をはっきり意識し出すのはそれ以降だった気がする。だんだんと元気を取り戻した彼女から話し掛けられたり食事に誘ってもらったりするようになり、距離を縮めたのだ。
「そう…か、あれが…そうだったのか」
ライバルはもう居ないのか、まこと不謹慎だが少し気が楽になる。
しかしあの忌引きは『親の不幸』と聞いた気がする、嘘だったのかそれとも。
「はい、内臓の病気を患ってらして…手術しては転移したりと…晩年はそんな感じで…でも穏やかな最期だったそうです、眠るようにすうっと…できれび看取って差し上げたかったのですが…叶いませんでした」
「……おいくつだったの」
「享年は55、私は33ですから…22歳差、親子くらいですね。私が8歳の時に引き取って頂いて…その時ひぃ様は30歳でした」
「は…」
常軌を逸している、えも言われぬ嫌悪感が込み上がる。
「……虐待じゃないか」
「いえ、決してそんなことは……置いて頂けることに感謝をして、出来ることでお返しをしたまでです、事実、私が16になるまでひぃ様は入浴以外で私の裸を見ることも触ることもありませんでした」
「それでも淫行だろ、犯罪だ」
「…私の両親は…なんて言うか…ダメな人達でした、遊興費を良からぬ筋から借りて首が回らなくなって…私を売り飛ばそうとしたんです」
「……は?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる