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2・彼女の生い立ち
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しおりを挟む「きっと風俗とかそういう所に。まだ子供でしたけど使い道はあるそうですから……家には強面の借金取りが連日訪ねて来てましたしいよいよかと思った頃に…ひぃ様が…私を引き取って、借金を肩代わりして完済して下さって…助けて頂いたんです」
まるで白馬の王子さまか、しかし16になるまで手を付けなかったということは彼女が婚姻を結べる年齢まで待ったということか。保護者に見せかけて夫婦みたいなことをしていたのか、それともピアスをはじめSMが目的だったのか。
疑問に疑問が重なり頭はパンク気味、デリケートなことを聞いて良いのかも分からないし聞いたところで重い過去を一緒に背負う度胸が出来上がってはいない。
「常盤さん?」
「ん、んー…謎が…多いな……まずひぃ様…はどこから湧いて出て来たんだ?」
「私が住んでいたマンションの大家さんでした。ダメ両親から私を引き離し、その家に続けて住まわせて下さったんです。折を見てひぃ様の部屋へ引っ越して…私は今でもそこにおります」
「ほー…ちなみに…その後、ご両親は?」
「母には会うことがありましたが…今はどうしているのか…知りたくも…ありません…ひぃ様は住む所を下さって学校にも…大学まで行かせて下さった、恩人なんです。不便があるだろうと養子縁組もして頂きました…なので形式上は親子なんです、『笹目』はひぃ様の姓なんです」
「ほー…」
「名前も…『水蓮』もひぃ様に…今までの人生を忘れられるよう…手順を踏んで改名して頂きました」
「…昔の名前は?」
「もう忘れましたわ」
8歳にして人生をリセットしたのか、ある日突然クラスメイトのフルネームが変われば同級生たちも驚いたことだろう。ならば昔の写真なども残っては無さそうだ、そうまでして過去を精算したならひぃ様も徹底的に手筈を整えて大掃除したに違いない。
「なるほど…それでそのひぃ様と…16歳か?来るべき日に…裸を見せた訳だ」
彼女が16歳ならひぃ様は38歳か。
倫理上というか普通の神経ならしないだろうが、それが目的だったならさぞかし待ち侘びた彼女の裸体は美しく輝いて見えたことだろう。
俺は若干引き気味で、しかし彼女はぴととくっ付いたまま
「いえ、17になって…破瓜を…致しました…あの、張り型にて花は散らしました」
とだんだん声を細めながら最後には息だけ吐いた。
「…雅な言い方をするんじゃないよ…あぁそう、ちんぽは入れたことは無いけどバイブかディルドで処女喪失したわけだ」
嫌に文学的な表現で趣旨が分かりづらいので態と俗っぽい言い方をしてやれば、彼女は小さな口をへの字に曲げて押し黙った。
これくらいの意地悪はSMにもならないさ、肩をグイと引き寄せて抱けば体が浮くくらいにビクついて彼女は俯く。
「……」
「合ってる?それともひぃ様の指かな?」
「……」
「笹目フロア長はオモチャのちんぽに処女をあげた、で合ってる?」
敢えて役職で呼んでやれば「もういい」とばかりに真っ赤な顔を上げて、
「あ、合ってま、す…フロア長って呼ばないでって…」
と情けない眉毛になってしまうのが嗜虐心を唆る。
「手コキの最中はごっこ遊びしてたじゃん…ちなみに、男性器のことは何て呼ぶんだ?」
「え、あの」
「教えて、笹目フロア長♡」
「あの、そのままの名前しか…ペニス、と…」
あぁ可愛い、ふわふわの髪が汗に濡れて額へくっ付き疲れた雰囲気を醸す。
あのピアスさえ見なければ今頃もっと汗だくにしてやれたのにな…俺の股間はもう閉店状態で、目・耳・手足の神経との交流を辞めてしまったようだ。
視覚・聴覚・触覚から得る情報で充分に興奮できるはずなのに、ひと晩で2発くらい何でもないのに。心はこんなに昂って彼女を弄りたくてしょうがないのに臨戦態勢にまでならない。
「説明的だね…ひぃ様がそう言ってたの?」
「はい…常盤さん、意地悪、しないで…」
もどかしい、抱きたい、俺がさせたこの表情をもっと歪ませて顔色だってもっと紅潮させてやりたい、乱れさせたい。
そこまで考えると「なんだ、俺もひぃ様と同じ癖なのかな」と我に帰る。
そうなると彼女に『虐めたくなる魅力』があるのかな、俺は自分をまだ常識人だと思いたくて彼女の存在を貶めた。
「ふーん……じゃあオモチャをノーカンとすると俺が初めて…予備軍なわけか、嬉しいな」
「…すみません、こんな…変な女で」
「変わってる自覚はあるんだ?」
「はい、男性の…その、扱い方、触れ合い方は教わったんですが」
「ん?愛し合ったんじゃないのか?教えてもらったの?」
器具を通してとは言え愛し合う過程を学びと捉える比喩ではないのか、彼女の口ぶりはそのまま性について教授してもらっていたように聞こえた。
「そのままの意味です、教えて…貰ったんです。あぁしなさい、こうしなさい、と…セックスはどうするかとか…まぁ、ひぃ様の教えと世間一般的なそれとは差があるみたいですけど」
「うん、乳首のピアスとフェラチオも100パーセントのカップルがしてる訳じゃないね」
「…そういう…世間とのズレがありましたら、遠慮なくご指摘下さいね、私は世間知らずですので…」
もし俺が更に間違った情報を「常識だよ」と教え込んだら目も当てられない。良い意味でも悪い意味でも素直で染まり易い彼女を野に放つには危険過ぎる…単純でチープな考えだが俺は彼女を是非に護りたい・離したくないと思った。
「うん…知ってる?カップルはエッチする前にどういうプレイを所望するか膝を突き合わせてプレゼンし合うんだよ。そんで話がまとまったら一礼して始めるんだ…現代では省略されがちだけどね。AVとかでも」
「…そう、なんですか…初耳です…」
「嘘だよ」
「……もう!常盤さん‼︎…揶揄わないで…」
俺の胸をポカポカと叩いて項垂れるその顔が良いんだ、いよいよ俺もSっ気が外に滲み出て来る。
「危ないね、何でも信じちゃいそうだ。色んなこと教えたいね…んでちょっとは疑おうね」
「ひぃ様の仰ることは絶対だったので…でも、ひぃ様との関係…肉親でもないのに同居してそんなことを教えてもらって、その家庭環境は普通でないことは大人になるにつれ分かりました」
「へぇ…」
「周りはそんなことをしていないようですし、性教育でも『体を大切に』と習ったはずなんですがだいぶん後になって理解が追い付いて来たような感じです」
ひぃ様も「他者に口外しないように」くらい躾ていただろうか、ほわほわ天然な彼女がうっかり養親と卑猥なスキンシップをとっていることを友人に漏らしでもしたら大変だ。
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