泥より這い出た蓮は翠に揺蕩う

茜琉ぴーたん

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2・彼女の生い立ち

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「一応確認なんだけどさ、その…ひぃ様とは愛し合って…恋愛関係だったんだよね?」
「…分かりません……でも大切に…世間一般で言うところの親子と同じ、大切に育てて頂いたのは本当です」
「……もし…その人がお亡くなりにならなかったら、笹目さんは俺とはこうならなかった?」
 転機はきっとひぃ様の死なのだ、その縛りがあれば彼女はいまだに張り型をパートナーとして挿れたり舐めたりをしていたことだろう。俺を求めたりはしなかった、させてもらえなかったように思う。
「……そう…ですかね…病状が悪化して入退院を繰り返していたからというのもあるのですが…私の日頃の態度から何か察していらしたのでしょう、私が常盤さんを気にし始めて、ひぃ様は私と…その、こういったたわむれをなさらなくなりました」
「つまり笹目さんが他の恋愛対象の元へ行き易いよう気を遣って下さったのだと?」
「そのような…気がしますね」
「性技は叩き込んだし『行っておいで』と…」
 確かに彼女と距離を縮めたのはあの忌引き以降だものな、だとすれば性のレクチャーは将来関係を持つはずの恋人のために磨かせたのか。しかしそのために処女まで奪いピアスを付けるだろうか。
「…ひぃ様は…ご家族に恵まれませんで、一代で大きくした事業をひとりで切り盛りして…少し疲れて人生半ばでマンション管理と大家業をしてゆったり暮らしていたそうで」
「実業家だったのか…なんか小説とかドラマみたいな話だな」
「一応本当の話です」
彼女はひぃ様を懐かしむようにいつくしむように、またシャツの上から乳首のピアスに触れる。
 「敵わないな」と思ったがピアス自体は外せると言うし、物にこだわっている訳では無さそうだ。もっと精神的な支配・依存を求めているのかな、手に負えるかな、不安は尽きない。

 俺は時計を確認して、彼女の肩に回していた腕をほどいた。
「…聞いてたら夜が明けそうだな…今日はここらでお終いにしよう…ごめん、俺ばっかり気持ち良くしてもらっちゃって」
「いえ、そのための私ですから」
「…違う、愛玩あいがん具みたいに使ったりしない、君は俺の彼女、恋人だ」
 「はい」と聴こえたのは互いに目を閉じた後だった、秘密の一端を告げて少し楽になったのか彼女の唇は最初よりもほぐれてぷるぷると柔らかい。
 ディープキスはまた今度、俺は自身のモノ味に抵抗があったので勝手ながら表面だけ味わい、胸も大体の感触だけ胸部で受け止めた。
「君のひぃ様を越えられるかは分からないけど……俺も笹目さんのことが好きだから離したくない。ピアスは慣れるまで待ってくれ、それが君の嗜好なら…邪魔したくはないんだ」
「あ、ありがとうございます」
「……帰ろう」

 綺麗事を言ってしまったな、SMについては改めて調べてみよう。
 次回がいつになるかは分からないが、俺たちは手を繋ぎフロントまで降りて駐車場へと向かう。

 それぞれ乗り込んでそろそろと路地へ出る、彼女の車のテールランプは国道へと入り他と混じってすぐ分からなくなった。
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