泥より這い出た蓮は翠に揺蕩う

茜琉ぴーたん

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3・いけない管理職

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 翌日、お互い早番の俺たちは始業前のカウンターにて鉢合わせた。
「おはようございます、笹目ささめフロア長」
「おはようございます、常盤ときわフロア長…寝られましたか?」
「…全くだ…そちらは?」
「私もです…興奮してしまって」
 朝から何という会話だろう、朝礼を前に集まっている部下たちはまさか上司がこんな話題で心を燃やしているなんて分かるまい。
 親しげだから仲を疑う者もいるかもしれないが、昨夜の出来事を予想できる者はそうそう居やしないだろう。
「……」

 店長が号令をかけて朝礼が始まる。
 接客用語の唱和と本日の達成目標を確認して解散したらそれぞれの売り場で個別ミーティングを行い、陳列を直したりほこりを払ったりと各自開店を待つ。
 俺の居る黒物…テレビ・レコーダー・オーディオ機器の売り場は店内一番奥の壁沿いに広がっていて、対角線上に売り場のある生活家電担当の彼女の姿はなかなか見ることができない。売り場それぞれにレジとカウンターがあるので、順番待ちをしたり空き時間に雑談をしたりということもあまり無い。
「(…これで仲良くなれたのが不思議だよなぁ…)」
 接点といえば管理職としての会議とか休憩室での昼食時くらい、歳も近いし話は合うし頼り合っていたいたから気心は知れていた。
 俺がカッターで指を切ってしまった時に絆創膏ばんそうこうをくれてそれどころか丁寧に貼ってくれて、「お礼に」と菓子をあげて…今思い返せばベタ過ぎて恥ずかしい馴れ初めだ。
「(あの時は…まさか乳首にピアスが付いてるなんて…知らねぇし……あ、)」
 カウンター内から売り場を眺めていると、生活家電売り場の方から彼女がこちらへ近付いて来る。おそらく俺の後ろにあるパソコンでメールや売り上げ情報を確認するのだろう。
 ふわふわのボブヘアーと豊かな胸が軽やかに揺れて弾む、彼女は俺に気付くと口元だけニコリと笑んだ。
「(可愛いなぁ、ちくしょう…)」
 33歳だからめちゃくちゃ若い訳ではない、身体だって最盛期よりは衰えて張りも減っていることだろう。
 けれど俺は少なくとも1年前から今までの彼女しか知らない、キャピキャピうるさいだけの女よりも落ち着きある彼女の雰囲気がやはり好きだ。
「(あのおっぱい…の、先…)」
 ぶるぶる揺れているあのベストの下、ワイシャツとブラジャーの奥には今日もピアスが刺さっているのか。
 それを想像すると瞬間血が沸いて股間が反応した。
「やべっ…」
「どうされたんですか?」
カウンターまで辿たどり着いた彼女は慌てる俺を不思議そうに見つめる。
 うつむいた目線の先にくだんの凶暴な胸部がぼいんと揺れ入って来て「うわぁ」と声が出た。
「な、なんでもない…」
「体調が悪いのでは?あの…」
「笹目フロア長……ごめん、良からぬ想像してしまった、離れてくれ」
「は………あ♡」
 察しの良い彼女は売り場を監視するていで俺の隣へ並び、俺の方は見ないもののニマニマと笑いを隠せないでいた。
 そして小声で
「いけないフロア長ですねぇ、仕事中に」
と俺の革靴に自身のパンプスの足を寄せる。
 これがAVならカウンターの台で見えないのを良いことにしゃぶらせたり後背位で突いたりしちゃうんだろうな。
 止せば良いのにそんなことを考えれば余計にスラックスの表面がピンと張ってしまった。
「…ごめん、仕事着の下に…ピアスがあると思ったら…興奮したんだ」
「まぁ…嬉しいです」
「ふー……おさまってきた…」
「良かったです」
そう言った彼女は身をひるがえした反動で俺の股間をちょいと指先で撫でて、後方のパソコンデスクへと着く。

 痴女ちじょばりの罠を仕掛けてきやがる、いよいよたかぶってしまった俺は遅番の管理職が来たので昼休憩に入らせてもらい…トイレかどこかで抜こうとバックヤードを足早に進んだ。
「(半勃ちが気持ち悪い…あー、抜きてぇな…1階のトイレ…)」
 擦れすらも心地よく思えてきたその時、イヤホンに彼女の
『笹目、休憩入ります』
の無線が聴こえた。
 まさか、無い、期待なんてしちゃいけない。でもヒールが床を打つ音がBGMを掻き分けて、後ろから響いてくると…もうダメだった。

 俺は振り返り歪んだ顔で
「頼む」
と口走る。
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