泥より這い出た蓮は翠に揺蕩う

茜琉ぴーたん

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9・蜘蛛の巣

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「あったかいな、水蓮すいれん
「あ、はい…あ、あ、」
「どうした、ディルドよりは柔らかいだろ?」
「いえ、あ、深い、あ、あ♡」
 お世辞は聞きたくないがこの反応は本当なのか。ディルドより奥へ届いているとも思えないが彼女は唇をふるふる震わせて衝撃を堪えていた。
 もしかしたらひぃ様が自身で突く時と騎乗位の時で長さを変えていたのかもしれない。
 腰がぐねぐね動けば、文字通り柔軟性の少ないディルドはその形を留めたまま膣壁へ刺さり痛いのかも…俺は男だから分からないが。
「頑張って動きなさい、」
「ア、はいッ…」
「…それも教えてもらった?」
「はい、あ、何か、おかしいですか?」
 彼女はつま先立ちで尻を浮かせて俺を呑み込んでいる、そしてひょこひょこ上下の縦の動きでしごく。まぁ相手が直立のディルドならそうするしかなかったのだろう、しかし俺の好みとは異なった。
「おかしくはないんだけどいくつか種類があるんだ、膝をついて、うん、そう…」
「ゔんッ……あ、」
「それで前後に、ボート漕ぐみたいに、前後だ、そう、あ、良いね、上手だ」
「あ、こちらが、好み、なんですのね」
「そうだよ、ん♡俺の好みを、覚えてくれる?」
「はいッ♡っふゥ、はァあ♡」
 自重で勝手に責められる彼女はもだえながらも懸命に尽くし、さすがマゾというところを見せつけてくれる。
 そして次第に良い所を発見したのか、5回に1回くらいはクリトリスを擦るように自分の満足も得ようと試行錯誤を繰り返していた。
「んッ…そういえばさ、ひぃ様は…新しい名前になんで『水蓮』を選んだんだ、お好きだったのか?」
「ふゥっ…ひぃ様は、背中に、お美しい睡蓮すいれんと、菩薩ぼさつ様を、背負ってらしたん、です、」
「あー、そう」
 やっぱりその筋の者じゃないか、そうしてくるとマンション経営なども怪しいな、ばりばりの極道者だったのではなかろうか。
「入浴中に、初めてそれを…見た時、に、惚れ惚れ致しました…お姉さま方は、皆『聖』の字を貰っていて、『聖奈セイナ』とか『美聖ミサトとか…あッ♡はぁ…なので、新しい名前を考える際に、提案したんです…ゔんッ♡」
「…水蓮が考えたのか…いや、ひぃ様が選んだんだとばっかり」
「お揃いに…なりたかったんですの」
 人柄や正体はさておき地獄へ救いの糸を垂らしてくれた釈迦しゃかさながらの恩人だものな、擬似的な愛情を持ってしまうのも仕方ないのかもしれない。
 依存して欲されて自分の形を留めていられる、彼女の生い立ちには怪しい部分が多々あるが全てをつまびらかにすることが正しいとは限らないのか。また全てを知ってしまうのも恐い気がした。
「…水蓮、他にも秘密はある?」
「ほとんどッ、これが、全て、ですッ♡あ、憶えてない、ことも多くてッ……ひぃ様の葬儀の後、私、倒れてしまって、少し記憶が曖昧なところもあって、ア♡」
「そうなのか、んッ♡…なぁ水蓮、君は要所要所で、根幹に関わることを意図的に外して説明してた気がするんだ、ひぃ様が女性ってことも、SMプレイを『させられてる』ように思わせたのも…ん、良いよ、倒れて来て」
 きゅうきゅうと締め付けが強くなり限界が近い、ぱたりと胸へ寝かせると人肌で温まったピアスが俺の皮膚に埋まっていく。
 そしてくるりと体を返して俺が上へ、見下ろせば彼女は泣きそうで恍惚こうこつたたえ手でピアスを隠した。
「どうした、」
「んッ♡見えない、方がッ、良いのか、とォ♡」
「どっちでも良いわ、水蓮、エロいおっぱいだな」
「あフ♡すみま、せんんッ」
「褒めてるんだ、喜べよッ」
「ありがとォ、ごじゃいましゅゥ♡」

 なんという茶番だろう。セックス中は「気持ち良いか」「気持ち良いよ」くらいの会話があれば充分だというのに、こんな演技じみたことをしてみては後から照れが追い掛けて来る。
 けなしたくないよ、そこまで俺だって完璧な人間じゃないし尊重し合う付き合いがしたい。俺はひぃ様みたいに君を虐めることはできない、その代わりベタベタに甘やかしてそのエロさと色気に誇りを持てるようにしてあげたい。
 俺の中で指針が定まった。
「可愛いよ、水蓮ッ…あ、気持ち良い、最高だ」
「はアッ♡あ、そんな、あ、」
「本当、ギュウギュウ締まってる、バイブの鍛錬の効果だな、イキやすいみたいだし感度も最高だ、」
「はずか、し、いッ♡」
「生きていく為に身体が順応したんだ、んッ♡上手なま*こだッ」
「やれすッ、たくろぉさまッ、」
 酷くすれば悦んで手厚くすれば嫌がるのか、げに度し難い女心よ。もといマゾヒストの心、一緒に自尊心を高めていけたら良いな、奥をカツカツ削っていくと次第にゴールの光が見えて来る。
「きっつ、あ、水蓮ん、あ、はー、」
「たくろ、ぉ、ざ、イっぢゃ、う、ごめんなざ、」
「良いよ、イけよ、我慢なんかするなッ」
「でも、あ、終わっぢゃウ、ごべんなざイっ」
 ひぃ様との遊戯は水蓮が昇天するとお終いだったのだろうか。年齢差などを考えると元気な時でもペニスバンドではあまり長時間のプレイはしてなかったのかもしれない。
 この期に及んでまだ俺の方を悦くしようと動いてくれる彼女が健気けなげで愛おしいな、クライマックスへ向けて腰に一層力が入る。1回イかせたくらいで放してやるものか、ペニスバンドとは違う血の通った竿で負かしてやりたい。
 これくらいのオスみは乱暴には入らないだろう。
「終わらん、まだ、ッあ、舐めんなよッ…男をッ、あ、本物ちんぽだぞ!」
「は、アッ♡♡♡あー、あッひギ♡だぐどぉざッ♡あ、ひあ、」
「水蓮、ずいれ、ん、あ、きつ、あ、イく、水蓮ッ、締めろ、なぁ、絞ってくれッ」
「ハァ、い、ん、んー」
 言って本当に加減が出来るのか、ギチギチに締まって隙間が無くなった結合部はもうパズルのようにジャストフィットと言うのか可動区域がせばまった。
 もうそこまで来ている、ほろほろに崩れそうな彼女の手首をがっちり掴んで体重を掛ければ痛いのだろう目元が歪む。
「あ、すげ、んッ♡ん、あ、あぁ、あー、すいれん、水蓮、愛してる、」
「愛、」
「あぁ、こうなりゃ付き合ってやる、君の過去も、未来も、俺たちの将来も、背負ってやる、んあッ♡一緒に、幸せにッ!なりたくないかッ?水蓮!」
 セックス中の台詞なんてはっきり言って大袈裟で戯言たわごとだ。50パーセントくらいで聞いていてちょうど良いくらいの綺麗事…だけどその気は全くのゼロじゃないし、セックス前に告げた通り覚悟がある。
 交際ひと月でニップルピアスを見せる時に彼女は既に俺を巻き込む覚悟と過去を公開する覚悟をしていたのだ。失敗すれば職場に居づらくなるような大博打おおばくちを打ったんだ、俺のこの決意はむしろ遅いくらいだ。
「はひッ、じあわぜ、にィっ♡なりだ、あ、だぐ、あ、だめ、あ、あ‼︎」
 瞳がきゅっと絞られて一瞬悲壮感でいっぱいになる。
 けれど俺を見つめるその目はすぐに細くなり閉じられて、また開けば意地悪な表情をした俺を映していた。
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