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9・蜘蛛の巣
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しおりを挟む「授かりものだから天に任せるけどね、一緒に居て楽しいなら2人でも良いし…幸せな家族になりたいよ」
「幸せな…家族…」
「うん、別にすぐじゃない。形にこだわらなくてもね、でも水蓮の助けになりたいし、俺の癒しになって欲しい」
「私が癒しになりますか?」
「なるさ、癒し系彼女だよ」
顔を近付けると彼女は目を閉じて、けれど分かっているのか唇はちょんとおちょぼ口になっているのが可愛らしかった。
「ん…分不相応な幸せは怖いんです。それが崩れてしまうのが」
「だから信頼関係を築くんだよ、まぁ…俺だって言いたくないことはあるし全てをさらけ出すなんて出来ない、でも過去はともかくこれからのことは嘘とか誤魔化しはナシにしてくれ」
「はい…」
「本当…衝撃的なことばかりだよ、水蓮と付き合ってから…ピアスから何から…俺の平穏な日々を返して欲しいね…冗談だけどさ」
「ですから少しずつ小出しにしたんですわ、いきなり全てを伝えるとフラれてしまいますもの…好奇心を刺激しつつ沼に引きずり込むんです♡」
おや調子が出てきたね、もったりしたお嬢様ことばに戻った彼女は打算的な一面を見せていたずらっ子みたいな表情を見せる。蜘蛛の巣に引っ掛かった虫みたいなもんか。
ひぃ様の背中の菩薩様は今の彼女みたいな穏やかだけど含みがあるような顔をしていたのではないかな、そんな風に想像した。
「姑息な」
「だって…初めて好きになった異性なんですもの、逃したくなかったんです…後戻りできない所まで知ってしまえば…もう私のものです」
「ふん…マジで刺激的だよ、20以上歳上のご主人様にペニバンで抱かれてるなんて…考えもしない…エロ過ぎて引き込まれるわ」
これが二十歳そこそこの若造ならこうもいかないんだろう、将来への見通しとか己の力量を理解していないとこんな複雑な女性に手を出そうなんて思わない。でも若さゆえの無鉄砲で「お前を幸せにする!」なんて簡単に言えたりして、でも「やっぱり手に負えない」と逃げたりするかもな。
俺は自身の若かりし頃の思考などを思い返して詮無い妄想に耽った。
「…拓朗さまは素直な方なので…術にはまってしまいやすいんでしょうね。マインドコントロールとまでは言いませんけれど…驚きと安堵の繰り返しで感情を揺すぶられますでしょう?次々に覆される真実に自分が得ている情報の真偽も区別がつかなくなる、知りたい欲求、確かなことを与えてくれる存在、掴まれる心………拓朗さま、もっと私に心を乱して下さいませ」
「………」
「そして私好みの拓朗さまに…なって頂きたいですわ」
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