そんなあなただからすき

茜琉ぴーたん

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「どこまで走ります?」

大通りから海沿いへ出る頃、私はまったりくつろ根岸ねぎしさんへ尋ねた。

「そうですね…稲村ヶ崎まで出て、レストランでも探しましょう」

「ちなみに本来の予定では?」

「…茅ヶ崎まで出るつもりでした…もうそれは良いでしょう」

「はい」


 もうこの件で謝るのは無しと決めたのだから謝罪の弁は飲み込むしかない。

 しかしどうも厚かましい気がしてそわそわしてしまう。

 原因となった私がせめてランチは奢ろうかな、なんて考えていると彼は見透かしたように

「デザートは御幸浜みゆきはまさんの奢りにしましょうか」

と穏やかに笑う。

「それで良いなら全然…奢りますよ」

「ではお願いします…ふふ、本当にそれでチャラにしましょう」

「助かります」

 詫びさせてもらえないのも辛いものだな、腰の低い彼だからこそその気分が理解できたのかもしれない。



 車は西へ西へ、根岸さんは海沿いのカフェレストランを指して「そこに」と誘導してくれた。

 もともと候補のひとつに入れていたらしいその店は、オーシャンビューが魅力の小洒落た洋食屋だった。


 ランチコースを選べば自動的にデザートも込みになっていて、オーダーを済ませた根岸さんは真顔で

「さて…どうしましょう」

と相談を持ちかけてくる。

「3時のおやつを奢ることにしましょう」

「あ、それが良いですね」

「(可愛らしい人…)」


 派遣会社に登録して3年ほどになるが、ここまで長時間彼と過ごすのは初めてだ。

 そもそも勤務地が異なるから仕方ないのだけれど。


「御幸浜さんが、うちの会社に登録して下さって、事務所に面談をしに来たことがあったでしょう?」

「最初の頃ですね」

「そう…あの時、真面目で可愛い方だと思いました」

「…ソウデスカァ」

 取って付けたような第一印象はさすがに虚言だろう。

 我ながら可愛くない返答しか出来なかった。

 そこまで見た目で売っているタイプではないし、あの日も確か電車の遅延で予定時刻に間に合わず遅れて到着した覚えがある。

 そんなに真面目さを打ち出した気もしないし、誰か別の人の記憶と混同しているのではなかろうか。 
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