そんなあなただからすき

茜琉ぴーたん

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「…北駐車場………居た!」

着いたら彼の車に寄せて停めて、取り急ぎ車を降りた。


「あ、おはようございます」

「…すみません、根岸さん…あ、」

 にこにこと微笑む彼は、耳も鼻も真っ赤になっている。

 もしかして本来の待ち合わせ時刻から1時間以上もここで立ち尽くしていたのか。

 あまりの人の良さに罪悪感がチクチクと私の良心を刺す。

「…あ、気にしないでください!自分の意志で外で待っただけなので」

「いや…本当、すみません…あの、温かい飲み物を買って来ます、車の中で待ってて下さい」

「いえいえ、お気になさらず」

 胸の前に広げたその両手も指先が赤くなっている。

 もうわざとなのかと勘繰るくらいに私の申し訳ない気持ちは高まって溢れそうだ。

 大体、待ち合わせから1時間過ぎてようやく電話をかけて来るのだって悠長だ。

 遅れておいて言えた立場ではないが寛大過ぎる。

 すっぽかされたと諦めて帰っても良いくらいの出来事なのに、彼は私を責めもせず飲み物ひとつも奢らせてくれない。


「(イライラする…)」

 元はと言えば私が悪いのだが、今日1日ずっとこんな負い目を感じながら過ごさねばならないなんて息苦しくて仕方ない。

 私は偉いわけではないが、人にへつらうのが苦手だ。

 プライドというか気位と言うのか、理由無く下の立場に甘んじるのがとんでもなく苦痛だ。

 仕事上ならもちろん従うし、自分に非があれば謝罪もする。

 けれどプライベートで対等なはずの人間に気を遣って過ごすなんて…ストレスが溜まって爆発してしまいそうだ。


「御幸浜さん、と、とりあえず、車に」

「あの!」

「は、はい、」

苛立ちを隠さず顔を覗き込めば、彼はいつものように私を直視もせずふいと地面へ視線を逃した。

「…私の車に乗って下さい。エアコン掛けてるんで助手席に。私が運転します」

「いや、今日は僕が」

「良いから!乗って!」

「はいっ!」

ぴょいと背筋を伸ばした根岸さんは、そそくさと私の車へと乗り込み膝を揃える。

 軽自動車だが天井も高いし窮屈ではないはず、私も運転席へ乗り込んでエアコンの風量を上げた。


「…せめて、車の中で待ってれば良かったのに…」

「いえ、その、浮き足立ってしまって落ち着かないから外で待ってたんです」

「…なら、待ち合わせ時間が過ぎた時点で連絡してくれれば」

「いやぁ、女性は支度に時間がかかるでしょう?急かすのもなぁって」


 吹き出し口に指先をかざしてはにかむ根岸さんが存外に可愛らしくて、諸悪の根源である私は何も言えず唇を噛むしか出来ない。

 この人は根っからのお人好しというか人が良いのだな、ナチュラルに腰が低くて寛大だ。

 これに嫌味を感じる私の方が心根が歪んでいるのだ。

 まぁ今回は私が悪いのだが。
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