そんなあなただからすき

茜琉ぴーたん

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「…あの、そんなに卑屈にしないで下さい…遠回しに責められてるみたいで心地が悪いです」

「す、すみません…」

「もう、この件で謝るのやめにしませんか?遅れた私が言うことじゃないんですけど」

「はい、ではそうしましょう」

何も悪くないのに数回謝った根岸さんは、肩の力を抜いたのかふにゃっとシートにもたれる。

 そして気付かないと思っているのか横目でチラチラと私を窺ってはニコニコ笑い、信号で停車すると目線を正面へと戻した。


「…根岸さん、私の格好、何かおかしいですか」

「え、いえ、あの、そういうんじゃなくて、あ、み、見ちゃってごめんなさい!」

「見るのはタダですから良いですけど」

「あはっ…あ、あの、仕事の時と雰囲気が違うというか、その、お可愛らしいと思って」

「え、そうですか?」


 本日は薄手のニットに裏起毛のロングスカート、ショート丈のコートはフェミニンさが売りのブランドのものだが深い意味は無かった。

 はっきり「デート」と言うのだから安直にスカートにしたが、メイクも髪も突貫だからどちらかといえば気の抜けたカジュアルスタイルだ。

「はい。さっぱりして…ラフなところを見れて嬉しいです」

「…化粧にまで手が回りませんで」

 もう謝らないと決めたから寝坊の件は出さないが、時間があればきっちりメイクはしたはずだ。

 冬だから潤いタイプの下地と透明感ファンデと眉毛もしっかり、髪だってかっちり固めて編んでシニヨンにするはずだった。


「(下地兼ファンデーションで済ませちゃった…髪もクリップだけ…)」

前髪を下ろしているから幼げに見えて可愛いのだろう。

 眉毛が隠れていると仏頂面もマシになるみたいだ。

 しかしデートだというのにラフって明らかに「脈なし」を示していると思うのだが気にならないのだろうか。


「い、いえ、充分に愛愛しいです!普段はこんな感じなんですね」

「(あいあいしいってどんな意味…?)」

 根岸さんは慣れたのかよりニコニコと私を眺める。

 彼はシャツにトレーナーとジーンズ、襟にボアの付いたジャンパーを羽織っている。

 この前の呑み会までスーツ姿しか見たことがなかったしこれも新鮮、顔が良いので何を着ても似合っていた。

「……」

 初々しい大人のデートってなんだか恥ずかしい。

 何を話せば良いものやら分からない。

 けれど先は長いし、互いをもっと知り合っておくのが良いだろう。

 少なくとも彼は私に対して好意を持っているのは確定だし、私が彼を好きになれればこの話はまとまるのだ。
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