そんなあなただからすき

茜琉ぴーたん

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 その後は、簡単だった。

 彼は自宅アパートへ私を招き入れて、上着も脱がぬままにベッドへと雪崩なだれ込んだ。

 我ながら呆れる尻軽さ、しかし感情が昂っているのだから仕方ない。

 我々は大人の責任において、大人の関係になろうというのだ。


根岸ねぎしさん、落ち着いて」

「すみません…色んな過程を踏むべきだとは思うんですが…心身がたかぶってしまって…酷く興奮してます…あの、お名前で呼んでも良いですか」

「あ、はい」

しおりさん、」

 彼は噛み締めるように私の名を何度も何度も口遊くちずさんで、髪や耳や首なんかの匂いをすんすん嗅ぎ回る。

 飢えてどうにもならない獣みたいに、それでも勿体ぶるように少しずつ外装から剥がすように。

「ね、根岸さん、ごめんなさい、私、下の名前覚えてなくて」

航介こうすけです、忘れないで」

「航介さん、ちょいちょい文学的なの」

「え、そうですか?そう?」

「変わってる」


 「愛愛しい」とか「なぶる」なんて実生活では耳にしないワードが飛び出た時から、航介さんは読書家なのかなとぼんやり考えていた。

 想像力が豊かで口が上手くて、けれど「ずっぽし」なんてユニークな物言いもしたりする。

 普段どんなメディアを見聞きしているのだろう、そんなところにも興味を持った。


「読書、昔のとか、か、官能小説とか…すみません、キモくて」

「大丈夫です、AVとかと同じでしょう」

「友人にはムッツリって言われます……嫌わないで欲しい」

 振る舞いや見た目の雰囲気にエロスが滲むなんてそれこそ宇陀川うだがわじゃないの。

 興味無いふりをするのがむしろ普通だ。

 どぎまぎとモタつかれるより具合は良いし、セクシュアルな部分が隠されていたから私は今回のデートに乗ったのだ。

 過激な変態性がある訳じゃないでしょう?との問いに照れ笑いする様にはちょっぴり不安。

 でもさくさくと冬服を脱いで先を急ごうとする余裕の無い感じは可愛げもある。


 丸裸になった航介さんはマットレスの下に手を突っ込んでスキンの箱らしきものを取り出して、

「栞さん…あの、ご、ご経験は?」

とチラチラこちらを窺った。

「あります、7~8年は前になりますが。それっきりですね」

「あ、そうでしたか…ぼ、僕も経験はあるんですが…上手い下手を評価されると厳しいので…お手柔らかにお願いしますね」

「航介さん、私のこと何だと思ってるんですか…」


 過去の経験はほぼ忘れているし憶えているからといって比べる訳じゃない。

 だいたい比べたところで何になるの、航介さんを睨み付けると彼は私の服に手を掛けてあせあせ脱がし始める。
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