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しおりを挟む「誰から、聞いたんですか?」
身を乗り出してじいっと見つめる、航介さんは一瞬胸元に視線を落としたけどすぐに顔に戻して、
「う、宇陀川さんです…」
とやっぱりな情報源を吐いた。
「…信じたんですか?」
「だ、だって…すごくリアルな話をされるんで」
「はぁ」
それから聞き出したとこらによると、航介さんは「御幸浜はダンディーな男が好きみたいだぜ。お前とは正反対だな」みたいなことを宇陀川に吹き込まれていたらしい。
「だ、男性の好みみたいなデリケートな話題を宇陀川さんとしてたこともショックだったんですけど、でも信じちゃって」
「そんな話したかな…私、会話らしい会話をしないんですけど」
「えー…脚色じゃなくて丸きり嘘なんですか…」
「んー…あれかな、エアコンのカタログの表紙のタレントさん、『こういうの好きなのか』って聞かれたから適当に肯定した覚えはあります」
それは自宅のエアコンの買い替えに際して売り場から拝借した薄いカタログの、メーカーイメージキャラクターについての話だ。
なんでもその人は巷で大人気らしく、起用されたカタログが若い女性にこぞって持ち帰られて品薄になっているそうだ。
つまりは私もそのファンの一員だと思われたのだろう。
宇陀川はその質問をした訳だ。
私は親から言い付けられた希望メーカーのカタログを取ったにすぎず、なんなら売り場でオススメを聞いて裏の仕様表にマルまで付け本来の使い方しかしてなかった。
なので宇陀川に尋ねられた時には心から「何を頓珍漢なことを」と一瞬怯んだのを憶えている。
「……あ、そうなんですか…」
大きな目をぱちくりと瞬いた航介さんの頬はじわじわと紅潮していって、いかにも居た堪れなさそうに唇を噛み込む様子にこちらも貰い恥じしてしまう。
やはり宇陀川が航介さんを弄る気持ちが分からんでもない。
困っている姿が可愛らしくて構いたくなるのだ。
「なんだかんだ、宇陀川さんのこと慕ってるんですね」
「慕ってはない、いや、下僕体質というか…情けないです」
「それで、あの喋り方は何を意識したんですか?」
「も、もう忘れて下さいよ…」
カタログのタレントは歳の割に男らしさがぷんぷんするのがウケているらしく、航介さんはその人のチャームポイントを『ダンディーさ』だと捉えたみたいだ。
なるほど航介さん御用達の官能小説はそういうジャンルなのかな、後で本棚を探ってみたいと思う。
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