そんなあなただからすき

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「はい、」

「えっと…すみません、遅刻までして真剣味が足りないと思われても仕方ないんですけど、都合良くこんなことがあるかって感じなんですけど、」

「御幸浜さん、もう結構です」


　「え、」と縋すがるように助手席の彼を見つめれば何故か彼の方が慄おののいてグラついた。

　けれど出来得る限り体をこちらへ向けて、

「御幸浜さん、僕は貴女のことが好きです。今日一緒に過ごしてもっと好きになりました。よろしければ、僕と結婚を前提とした交際をして下さい！」

と頭を下げた。


　慣れているとはいえスムーズな請い方にぽかんと呆けて、じわじわと実感が遅れてやって来る。

　けれど狡ずるいのね、私にイエス・ノーしか言わせてくれないなんて…それが気遣いだとしても行き過ぎている。

「…根岸さん、顔を上げて下さい」

「…はい、」

　あれ、雰囲気的に両想いだったのにしくじったかな、根岸さんの唇に焦りが浮かんだその時…私はその唇に立てた人差し指を当てて、「しー」と子供にするみたいにしばし黙らせた。


「何とも思ってなかったのに、今日好きになりました。そんな私で良いんですか？」

　指を離せば根岸さんはその手首を掴み、

「良いんです、恋は時間じゃありません。深さです。ハマったらずっぽりなもんですよ」

と独特な言い回しで私を肯定してくれる。

「弱い人だと舐めていました。失礼な振る舞いもあったと思います」

「大丈夫です、嫌な思いはしてません」

「…優しいんですね」

「損な性格です」


　「そんなあなたが好きです」、涙目の私を軽く抱き寄せた彼はぽんぽんと背中を叩いて頭を撫でて、「最高に幸せです」と耳元で呟いた。



つづく