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安全第一
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しおりを挟む「久々にあんなデコ車見たわ…胸糞悪い」
「うん…俺が受けても良かったんやけど…指名やったからな」
「車検に指名制要りませんやん…キャバちゃうねんから…」
今回の女性客に限らず、珍しい風貌の秋花に点検・修理をしてもらおうと彼女を名指しして車を持ち込む客は度々現れる。それは単純に「同性が頼りやすい」という車知識に疎い心理でもあり、女性客のほとんどがリピーターとなって相談や修理・点検の予約を入れてくれる。
そして男性客においては物珍しさ、長身・銀髪・ギャルメイクの秋花を見てみようという一見さんが多かった。
「あれに載ってもうたからな、ひゃはは」
「アホちゃう…私は売りもんとちゃうぞ、」
こんなことになった原因、それは車雑誌の企画のひとつで、車屋で働く名物スタッフ紹介…的なコーナーに秋花が掲載されたからである。
今の店で働き出して1年ほどの茶髪の秋花の写真に『店のアイドル!若き整備士は長身ギャル』などと不名誉なキャッチコピーを貼られたことで、地元の読者に広まってしまい一気に指名客が増えたのだ。
秋花が持つ資格の範囲でできる作業はいただいて他は先輩に任せ、客寄せパンダと揶揄されても本当のことだからと甘んじて耐えてきたが、やっとフルイにかけられて客層も落ち着いてきた感がある。女性整備士だと最初から舐めてかかられることがあるので見た目に拘ってきたが、腕が伴ってきた最近では黒髪に戻してみようかと思うことも増えてきた。
いずれにしても「ギャル」を冠するには歳を重ね過ぎたということもある。
「シューカは売り上げに貢献してるよ。髪色はちょっとずつ大人しくしていけばええやん、迫力あって俺は好きやけどな」
「んー…化粧も…薄くしよか」
「清楚系整備士か、それはそれで人気出そうやな、」
脳内で想像した車崎はニヤついて笑いかけたが、秋花の顔色を見て口を閉じる。
「ふん…いっそ男に生まれれば楽やったのに」
「そうか?シューカは可愛いよ」
「おおきにー」
昔から大きかった体格のせいで可愛らしい服装もした事がない。スカートなんて制服だけだしせっかくの高校時代はギャルとは程遠いツナギばかり着ていた。
母もサッパリした人だしか弱い女らしさなんてものにはあまり触れてこなかったのだ。
高校時代に一度彼氏ができたが「女らしくしろ」と繰り返し言われてブチ切れ3ヶ月で破局、今ではその男に処女をあげてしまったことが悔やまれるほどに嫌な思い出である。
「お待たせ、こちら日替わりね。んでこれが満福Aの青椒肉絲ね」
「お、来た来た…いつもより速いんとちゃうか?な?」
「せやろか…わ…食べきれますか?もう…」
卓上には残りの中華が4皿、白飯とスープが届いてちょっとしたパーティーの様相になった。
「よし、食え。んでまた明日から元気に働こな、うん」
「はい……いただきます……美味しい」
「な、唐揚げは俺2個な、シューカは3個食べや、」
「多いて…もー……太る」
こってり濃厚で高カロリー、成人女性の数日分のエネルギー量はありそうだ。
「肥えろ、な、……シューカ、今…彼氏とかいてんの?」
「ん?いませんよ。いたらさっさと帰ってますわ…毎回食事のたびに聞くの何ですの?セクハラ?」
「何となくよ…あぁそう…ほら前に、合コンで連絡先交換した言うてたやんか、」
「アイツ?ホテ……すんません、下ネタですけど…私の腹筋見て、『なんか萎える』言われて。頭きてすぐ帰りましたわ…ふん……そろそろ…作ろうかなとは思うてますよ。遥…事務の清須ね、アイツがちょいちょい合コン誘ってくれるから」
「は、そりゃ……うん、分かった」
「何が?」
ぱくぱくと食べ進めながら、車崎は視線を遠くに飛ばしては時折真顔になっていた。
その後も食べながら他愛の無い話を交わして、やはり食べきれなかったので残りはパックへ包んでもらうことにする。
「多かったな、うん」
「しやから言うたのに…まぁ明日の弁当のおかずにしますわ」
「うんうん、コロッケ美味いからな、食べてみてよ。うん……蒸し返して悪いけどさ、あの電話も…気にすんなよ。直接聞いてへんから分からんけど…本部から何や言われても味方したるしな。シューカはキチッと自分の仕事してんから…うん………出よか、伝票貸して」
車崎は多少整えた頭をポリポリと掻き、柄でもないとばかりに照れてすぐに秋花へ背中を向けた。
「はい…ごちです」
いち整備士の交通安全の啓発活動など知れている。いっそ機械のように可否を判断するだけの作業ならば心を傷めずに済むのに…スッキリしたのはモヤモヤが浄化されたわけではなく諦めたから、しかしながら腹も満たされ心の支えも少し取れた気がする。
「シューカは仰山食べるから見てて気持ちええわ。立派やで」
「は?なんすか、それ…」
人をフードファイターのように言うなんて…秋花は車崎の言葉にイラッとするも、食べ終わった後の油が浮いた皿を見て、やはり女らしさなどとは無縁だと自覚した。
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