彼女は銀狼ギャル、ときどきコアラ

茜琉ぴーたん

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4日目

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渦潮うずしお、残念やったね」
「まぁ…仕方ないっすよ、自然のもんやから」
 潮見表までは確認不足、二人が訪れた時間は丁度渦がおさまっており、次の満潮まで待つわけにもいかないので次の目的地へ向かうことにする。
「せやなぁ、んー」
「また来ればいいじゃないすか、」
「ん、……ん?」
「なんすか」
もう照れるのも、それを揶揄からかわれるのも慣れてしまった、秋花はサラッと先の話をした。
「また、来てくれんの?」
「連れてってくださるなら」
「ひゃは、うん、連れてくる、また来よ、」
「へい」
 どうせ今日を含めあと3日は恋人なのだ。秋花は車崎へ抱く感情を素直に受け入れ、彼の良いところを更に好きになろうと心に決める。

「ほんなら次はね、コアラちゃんよ」
「動物園?」
「いや、花畑とか、牧場的なとこ」
「コアラの牧場?」
「なんや…あんのよ。お前、わざと説明させてるやろ」
「はい」
 的を射ない説明がなんだかツボ、秋花は逐一掘り下げては車崎を余計に喋らせる。
「阿呆や思うてバカにしやがって…」
「ちゃいますよ、おもろいなぁ、て」
「え、おもろい?ん…ほな…ええわ…」
少しでも彼女が喜ぶなら恥もやむ無し…車崎はうまく丸め込まれた。
「ふふっ」
「シューカ、俺のこと、好き?」
「嫌いやないですよ」
「あ、そう」
 好きのカテゴリの中でも限りなく「恋愛」の区域に近い。あと一歩で立ち止まる秋花の背中をグイグイ押しているのは車崎本人で、こうして唐突な質問をしてくるのだって本当はドキドキしている。
「(さらっと聞いてくるのも無邪気で…可愛いなぁ…)」
「ほな、楽しい?」
「楽しいですよ」
「ん、良かった」
 くしゃっと笑うその顔、見慣れたその顔に萌える日が来るなんて。出会いから今までどうして気にならなかったのか秋花は不思議なくらいであった。
 1週間のお試しとはいえ断る理由がもはや無く、余程の嫌な部分でも見つけない限りはカップルとして続行していけそうである。
「(職場でもシンタローさんはフラットやし…うまく…やっていけそうやな…)」
「着いた、ほら、な?牧場っぽいやろ」
目的地へ着けば車崎は得意げに、自分の説明の整合性を主張した。


 公式には「農業公園」と銘打ったこの施設は、40種以上の動物と季節ごとの花の展示、収穫や手作り体験などができるテーマパークであった。
 入り口から長く続く花壇の突き当たり、コアラのいる展示館へ二人はまず進む。
「シューカ見て、あ、あ♡可愛い…」
「赤ちゃんや…はぁ、可愛い…」
「手なんかもう…くぁ…あれ、親やろか…眼福やぞ…なぁ、」
 親コアラとお披露目が始まったばかりの赤ちゃんコアラ、2匹は抱き合って子コアラはしっかりと親の腹を手で掴んでいた。
「耳がモッフモフや…うは…」
「あの尻の丸さ…あぁ、こっち見た…」
「ずぅと見てられる…」
 展示室のアクリルの前で二人は不審者ばりに呼気を荒げ、ころころと動いたり寝たりするコアラを存分に楽しむ。
「シンタローさんって、コアラに似てますよね」
「は?」
「黒目がちで、寝てる時の目とか普段のシンタローさんそっくり」
「え…それは褒めてる?」
「はい。可愛いなって」
秋花は素直に、良いと思うところを褒めた。
「そうかぁ?俺は、シューカの方がコアラっぽいと思うねんけど」
「ん?どこがです?」
閉じた時のつり目具合は似ているかもしれないが、ここまで「可愛い」を連呼しておいて自分に似ているなんて言われれば照れ臭いし恐れ多い。
「髪。銀と、灰色と黒と…混ざってる感じ、似てへんかな」
「初めて言われたな…そうですか?」
「ほら、あのきゅっと結んだ口、似てるよ。可愛い」
「へ……」
それは貴方がおだてるからニマニマ波打つ唇を噛み込んでるだけ、秋花の口は車崎が可愛いと褒めたコアラのそれになった。
「ほら、そっくり。可愛い」
「(コアラが?)」
「シューカよ、」
「(心読まれた!)」

 ばくばくと鳴る心臓を押さえつつ、見学を済ませた二人は頃合いだろうと園内のレストラン施設で昼食を摂ることにする。
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