20 / 46
4日目
20
しおりを挟む「渦潮、残念やったね」
「まぁ…仕方ないっすよ、自然のもんやから」
潮見表までは確認不足、二人が訪れた時間は丁度渦がおさまっており、次の満潮まで待つわけにもいかないので次の目的地へ向かうことにする。
「せやなぁ、んー」
「また来ればいいじゃないすか、」
「ん、……ん?」
「なんすか」
もう照れるのも、それを揶揄われるのも慣れてしまった、秋花はサラッと先の話をした。
「また、来てくれんの?」
「連れてってくださるなら」
「ひゃは、うん、連れてくる、また来よ、」
「へい」
どうせ今日を含めあと3日は恋人なのだ。秋花は車崎へ抱く感情を素直に受け入れ、彼の良いところを更に好きになろうと心に決める。
「ほんなら次はね、コアラちゃんよ」
「動物園?」
「いや、花畑とか、牧場的なとこ」
「コアラの牧場?」
「なんや…あんのよ。お前、わざと説明させてるやろ」
「はい」
的を射ない説明がなんだかツボ、秋花は逐一掘り下げては車崎を余計に喋らせる。
「阿呆や思うてバカにしやがって…」
「ちゃいますよ、おもろいなぁ、て」
「え、おもろい?ん…ほな…ええわ…」
少しでも彼女が喜ぶなら恥もやむ無し…車崎はうまく丸め込まれた。
「ふふっ」
「シューカ、俺のこと、好き?」
「嫌いやないですよ」
「あ、そう」
好きのカテゴリの中でも限りなく「恋愛」の区域に近い。あと一歩で立ち止まる秋花の背中をグイグイ押しているのは車崎本人で、こうして唐突な質問をしてくるのだって本当はドキドキしている。
「(さらっと聞いてくるのも無邪気で…可愛いなぁ…)」
「ほな、楽しい?」
「楽しいですよ」
「ん、良かった」
くしゃっと笑うその顔、見慣れたその顔に萌える日が来るなんて。出会いから今までどうして気にならなかったのか秋花は不思議なくらいであった。
1週間のお試しとはいえ断る理由がもはや無く、余程の嫌な部分でも見つけない限りはカップルとして続行していけそうである。
「(職場でもシンタローさんはフラットやし…うまく…やっていけそうやな…)」
「着いた、ほら、な?牧場っぽいやろ」
目的地へ着けば車崎は得意げに、自分の説明の整合性を主張した。
公式には「農業公園」と銘打ったこの施設は、40種以上の動物と季節ごとの花の展示、収穫や手作り体験などができるテーマパークであった。
入り口から長く続く花壇の突き当たり、コアラのいる展示館へ二人はまず進む。
「シューカ見て、あ、あ♡可愛い…」
「赤ちゃんや…はぁ、可愛い…」
「手なんかもう…くぁ…あれ、親やろか…眼福やぞ…なぁ、」
親コアラとお披露目が始まったばかりの赤ちゃんコアラ、2匹は抱き合って子コアラはしっかりと親の腹を手で掴んでいた。
「耳がモッフモフや…うは…」
「あの尻の丸さ…あぁ、こっち見た…」
「ずぅと見てられる…」
展示室のアクリルの前で二人は不審者ばりに呼気を荒げ、ころころと動いたり寝たりするコアラを存分に楽しむ。
「シンタローさんって、コアラに似てますよね」
「は?」
「黒目がちで、寝てる時の目とか普段のシンタローさんそっくり」
「え…それは褒めてる?」
「はい。可愛いなって」
秋花は素直に、良いと思うところを褒めた。
「そうかぁ?俺は、シューカの方がコアラっぽいと思うねんけど」
「ん?どこがです?」
閉じた時のつり目具合は似ているかもしれないが、ここまで「可愛い」を連呼しておいて自分に似ているなんて言われれば照れ臭いし恐れ多い。
「髪。銀と、灰色と黒と…混ざってる感じ、似てへんかな」
「初めて言われたな…そうですか?」
「ほら、あのきゅっと結んだ口、似てるよ。可愛い」
「へ……」
それは貴方が煽てるからニマニマ波打つ唇を噛み込んでるだけ、秋花の口は車崎が可愛いと褒めたコアラのそれになった。
「ほら、そっくり。可愛い」
「(コアラが?)」
「シューカよ、」
「(心読まれた!)」
ばくばくと鳴る心臓を押さえつつ、見学を済ませた二人は頃合いだろうと園内のレストラン施設で昼食を摂ることにする。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる