胸に手を置かれたら、朋也くんのことしか考えられないじゃん。ー無気力系後輩がグイグイ来るのは想定外でしたー

茜琉ぴーたん

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7…胸に刻む(最終章)

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 数ヶ月後。
「疲れたねぇ」
「うす…」
 新婚旅行先のホテルにて、私たちはシングルベッドにそれぞれ大の字になり転がった。
 挙式・披露宴を終えたその足で、私たちは空港へと向かったのである。充分に休みは取ったものの、少しでも早く浮世離れをしたいということで決めたプランだった。
 滞在先は国内、北国・北海道である。私は海外への憧れも無かったし、朋也くんは「美紀さんが行きたい所にしましょ」としか言わなかったのでサクサク決めてしまったのだ。
 季節は春、まだまだ涼しくて過ごしやすい。
「朝食ビュッフェ、楽しみぃ…」
「…美紀さん、新婚初夜、しましょうよ」
朋也くんは私のベッドに断りもなく乗って、私を見下ろす。
「それはもう済んでるじゃん」
「そういうことじゃないんすよ、分かってないなぁ」
「案外、記念日とかこだわるタイプ?」
「どうでしょうね」
 実は、新婚初夜は婚姻届が受理された日に済ませている。その時も朋也くんが「新婚初夜しましょうよ」と誘ってきたのだ。
 だから今夜は挙式後初夜、しかし結婚記念日をいつにするか次第では今夜が新婚初夜になり得る。
「同棲してたから、入籍しても特に変化は無かったよね」
「生活は、そうっすね…でも、仕事は…ね、」
「うん…申し訳ないね」

 私たちは総務部にいて、かつ同じ係に所属していた。それが、結婚式前になって朋也くんが同じフロアの隣の係へと配置替えになったのだ。
 もし今後私が妊娠して産前産後休暇に入ったとして、朋也くんも同時に育休を取ると係が手薄になってしまう。そういう人手不足を防ぐためにも、夫婦は別部署・別部門へ分散させるのが一般的なのだそうだ。まぁ、狭い範囲に近親者が居ると不正の横行・隠蔽がなされ易いとのことで、それを防ぐ意図もあるらしい。
 様々な仕事を知っておくのも為になるだろうし、断ったり辞めたりする選択肢は無かった。

「ジブンたちの仕事って、横領とかしようが無くないっすか?」
「どうだろ。出張費の領収書はうちが受け取って経理に回してるから、架空の旅費をでっち上げたり…とか?」
「…その手がありましたか」
する訳ない朋也くんが、冗談ぽく「ふふ」と笑う。
「でも同じ家から同じフロアの同じ部門に出勤できる、って…嬉しいね」
「何かあってもフォローできますしね」
「うん…これからも頑張ろ」
「それはさておき、ですよ」
逸らしたつもりは無かったけれど、「逃しませんよ」とでも言いたげな彼は私の視線をしっかり捕まえてから口付けた。
 もぞもぞゴソゴソ、シャツの裾から大きな手が這って来る。
「くすぐったいなぁ」
「…美紀さん、マジでキレイでした…今もだけど…マジで、」
「ありがと…朋也くんも、カッコ良かったよ…」
「…ちょっと、寝ないで美紀さん、風呂入らなきゃ、髪バリバリでしょ」
「うーん…」
 疲れのピークに温かい体に包まれて、眠気がずんずんせり上がって来る。整髪料で固めた髪はシャワーでほぐさねばならないのに、それすらも億劫だ。
「美紀さん、初夜はもう諦めますから、風呂は入りましょう、化粧も落とさなきゃ」
「んー…」
「あと、寝る前にヨガもしなきゃ、」
「あ、そだね」
毎夜の課題を耳にすると、途端私の目はパッチリと開けた。

「……」
ラブタイムよりもストレッチを重要視されたと朋也くんは「マジかこの人」みたいな無気力アイで私を見ている。
 でも欠かさずすることに意義があるんだもの、胸から手が離れたところで私はむくりと起き上がった。
「先に入って良いの?」
「良いっすよ…」
「朋也くんも寝ちゃわない?」
「…あるかもです…」
くあぁと欠伸あくびをして、朋也くんは持て余した手と下半身をシーツへと伏せる。
 朋也くんも、今日は疲れている。慣れない正装をして、「笑って笑って」と繰り返し注意されて。新郎謝辞は夜遅くまで考えて原稿を作っていたし、私に合わせて早起きして衣装準備に入ったし。
 きっと、彼も放っておいたら寝てしまいそうだ。セックスはともかく、整髪料は落とさねば朋也くんも困るだろう。
「なら、一緒に入ろうか」
 バッグから着替えを出してそう問えば、
「…良いんすか」
と朋也くんは忠犬みたいにひょいと頭を起こしてこちらを見る。
「うん、朋也くんもワックスとスプレーでバリバリでしょ?お互い時間かかるだろうから一気に済ませようよ」
「そっすね」
 合理的な理由に、朋也くんは何度も小さくうなずく。呆れたような、でも「これだよ、これこれ」とでも言いたげな表情だ。
 ここはラブホテルではなく普通のシティホテルだから、浴槽も広くないしシャワースペースも無い。狭い所にひしめき合って、お湯の取り合いをしなければならない。
 でもたまにはそんなラブタイムも良いんじゃないの、そんな気持ちで彼の手を引いた。
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