今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

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5月

29

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あきらくん、北店の売り上げ急上昇でしょ、見たわよ」
「そうでもないですよ…まぁ指名客はうまく誘導できたのでそのおかげですかね」
松井まついは炊き込みご飯をふぅふぅと冷ましながら、ニヤリと笑う奈々ななに仕事モードの笑顔を返した。
「謙遜しちゃって…自信満々に誇って見せなさいよォ」
「ふふ、すごいでしょ」
そう言うなら、と彼は堂々と胸を張り、「えっへん」とばかりに嬉しそうに歯を見せる。
 彼が本店から北店へ転勤してからまだ半月ほど、新天地でゴールデンウィークを戦い抜いた松井は奈々を招いてお疲れ会を開いていた。
 北店は本店の約半床ほどの中規模店だが、この連休での売上額が全国規模でもなかなかのラインへ食い込んだのだ。それはワンランク上の商品を巧みにお勧めして買わせてしまう松井の接客が冴えていたことと、彼の固定客がこぞって北店へと流れてしまったことによる効果だった。
「すごいわよォ…はァ…おかげでこっちは日曜だってのにノー残業で帰れたわけだけど…堪んないわね」
流れた額は元々は本店の売り上げになるはずだったもの、実績不振は嫌みな叱責となってWeb会議で管理職へ注がれるのだ。
「北店に無い物でも本店が協力してくれるし…やり易いですよ」
「そう…コーナー長は?どう?」
「特にこれってことは無いですね…でも責任というか…フロア長不在の時とかは身が引き締まるというか…僕、本店では随分とのびのびさせてもらってたんで」
「そうね、責任って人を強くするわよね…引き締まるっていえば、ジムは?最近」
 松井は月額制の契約で北店の近くのジムに通っていたのだが、これまではついダラけてしまい週1のトレーニングでやった気になっていた。それが今ではその北店に転勤したため、仕事帰りに少しでもと通うようになり全体的に余分な肉が落ちてスッキリした見た目に仕上がっている。
「今週は3回行けてますね。僕…ナナさんと食事するようになってからひとりの晩酌を辞めたから、それだけでも体重が落ちてたんですよ」
「わ、すごいじゃない。でも私との呑みでガブガブいくからプラマイゼロでしょ」
「普段の食生活も変わったんですよ、雑穀とか…無理しない健康食」
 玄米・押麦・キヌア・チアシード…松井はこれまで数々のパワーフードもお洒落ごはんに取り入れてきたが、普段の飯は結局白米にもち麦少々に落ち着いた。
 無理なく食べる、便通が良くなる、排出する、そこに運動も加わって良いサイクルが出来つつあるようだ。
「へェ…いいわねー。私も行こうかな、ジム。近いし…ねェ、紹介とかしてない?」
「し、てますけど……ダメですよ」
「なんでよ」
全粒粉のスパゲティをくるくる巻いていた手を止めて、奈々はまさか断られると思ってなかったので目を剥いて松井を見つめる。
「いや、薄着になるし…ひとりでは危ない」
「な、に、が、危ないのよゥ…言いなさいよ、」
松井の部屋はダイニングテーブルは無くリビングの大きな座卓が食卓なのだが、テレビに向かって横並びに座っていた奈々はフォークを置き、ずりずりと彼に擦り寄った。
 そして目を逸らす松井のそれなりに筋肉のついた腕へ自慢のHカップの爆乳をぽよんと押し付ける。
「いや、分かってるじゃんか、ナナさん、もー…それ、む、胸が…見られるから、絶対みんな見ちゃうから、」
「ガチガチに固めるわよ。腺切れちゃうもん……なら待ち合わせして一緒に行こう?私も健康的に汗かきたい♡ね、旭くん、」
犬のお座りのように両手を揃えて床につけば、押された胸はより前にり出し男の理性を試しては弄んだ。
「当たってる、ナナさん、」
「当ててんのよ」
「分かったから…か、隠さなきゃダメだよ、本当…」
「うん、もちろんよー…楽しみ♡」
「肉圧…」
 まだまともに触ったこともないその胸、なにせ二人は交際こそしているがその実態は上司と部下のままなのである。
 先月二人は、松井の転勤の原因となった騒ぎの果てに想いを通じ合わせてめでたくカップルとなった。勤務先も変わったし上下関係無しで付き合える…そうなると思っていたのは奈々だけで、松井はいまだに彼女へ恐縮しきりなのである。
「旭くん、キス、しよ?」
「はい、はい…」
「ん♡ん♡」
 彼女は酔って気が大きくなる肉食系、松井は捕食される童貞。日頃の会話や食事中は和やかなのに、酒が回ってくると奈々はおちょくるようにセクシートラップを仕掛けては彼を惑わせる。
「ん~…ん、ん⁉︎ン♡」
「は…旭くん、ベロ出してよォ…ん、ん♡」
「や、ア♡む…ん…」
酒臭く柔らかい唇、請われれば弱い松井は簡単に口を開いて舌を捧げた。
 そうかこれがディープキスというものか、松井の性体験に新たな1ページが加わる。
「あー…気持ちいい…私ね、キス好きなの……ん♡ね、旭くんから…シて?」
「え、あ、」
「ん♡」
 お座りで見上げたままゆっくりとその目が閉じられ、綺麗に重ね塗りされたベージュ系のアイカラーのラメが、フェイスパウダーのそれと一緒になりキラキラと印象的だった。
 今日の奈々は長い髪をひとつに纏めて低い位置でシニヨンにして、前髪はポンパドールでふんわりと盛ってある。
 以前教えてもらったのだが本来の位置よりも強い印象になるように描かれた眉毛、処理から一定の時間が経っているのだろうか元の眉毛の輪郭が見えていた。来て、と差し出された唇は口紅が落ちて飾らない色、奈々と松井の唾液でしっとりと濡れる。
「わ…あ、…」
「ん♡」
「ぁ………」
顔は傾ける?鼻息はどうする?唇は突き出さなきゃ届かない?知識なくして実践に踏み出せない松井は数秒の間に逡巡しゅんじゅんし…奈々と同じお座りポーズになってちゅっと口付けをした。
「……ん♡ねェ、もう1回、」
「え、うん……ん、」
「ん♡ふふっ、楽しい♡」
「は…」
性体験も豊富だろうにこんなお子様キスで楽しいとは…松井は奈々の言葉を下手な自分への慰めのように解釈して勝手に不貞腐ふてくされる。
「なァに、気持ち良くない?」
「いいけど…ナナさん、慣れてるでしょ?僕で…気持ち良くならないでしょ」
「あら卑屈…なんで?ドキドキしてるわよ…触る?」
奈々は心臓の鼓動を聴かせようと胸をずいと更に突き出した。
「触らない、あの…自信が無いから…キスも全部…」
「だから経験でしょ?ひとっ飛びでエッチまでシちゃってもいいけど…順番に進める方が覚えやすいでしょ?案外マニュアル人間だものね」
「シちゃうって言い方……もっと大切にしてよ…」
松井は顔を真っ赤にして体を離し、ほとんど抜けている酒をさらに薄めようとグラスの水をがぶ飲みする。
「なんか旭くん、私のこと、すごい阿婆擦あばずれだと思ってない?この歳なら元カレ数人いて普通だかんね?好きな人とだったらエッチするし、一生涯好きな人がひとりとは限らないかんね?」
「分かった、分かった…」
「できれば初めての人と添い遂げたかったけど私は既に破綻してるし…男女関係に夢見てないで、男らしいとこ見せてよね…」
そっぽを向いてしまった男を不服そうに見つめて、奈々は巻きかけだったスパゲティのフォークを握り直した。
「んー…」
 ヘタレだがそこまで言われるとカチンとくる、松井は頬杖をついて
「ナナさん……そんなにシたいの?」
と流し目で尋ねれば、その思わぬ色っぽさに奈々の肩がびくんと上がる。
「え、そりゃ…ご無沙汰だしィ…久々の彼氏だしィ…」
「エロいなー……あの、本当…段階的に慣らしたいんですけど…」
「うん……ごめん、なんか…酔いも覚めてきちゃった…変な絡み方してごめんなさい…お、お風呂入ろっか…先に借りるね」
ナナは皿に残ったスパゲティを一気に掻き込んで立ち上がり、少々ふらつきながら風呂場へと進んでいった。


「……エッロ……なんだよあの胸…くそ…予習しなきゃ…」
置いて行かれた松井はスマートフォンを開き、インターネットの検索エンジンで『胸 触り方』を数ページ確認する。
「わかんね…指届かないって…はー…」
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