街を歩いていると、見知らぬマッチョに体を担ぎたいとお願いされました。

茜琉ぴーたん

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2022・初お泊まり

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「こんぜんこおしょお」
「それだけ真剣で、あずちゃんのことを大切にしてるって…不器用な僕なりに考えた策だよ」
「策って」
「万が一にも妊娠させてしまっては申し訳ない。まだ親御さんに面通しもご挨拶もしてないし。それにあずちゃんは経験が無いんでしょ?」
「……まぁ、ね」
 だから遼平さんにあげたいのに、どうも彼は私よりも私の純潔を恭しく捉えてくれているみたいだ。
「その…初めては畏れ多い。僕も経験が無いし、勉強不足なんだよ」
「それはさ、何となくで」
「何言ってる、血が出るんだよ!あずちゃんの体にとって僕は異物だ。きちんと慣らして、あと衛生面も考えなきゃいけないよ」
「えー」
 なら勉強して来てくれれば良かったのに、なんて言ったところで無理だろう。
 ここに職業柄が出るのも遼平さんらしさなのかな、しかし堂々としている。その調子で私を抱いてくれれば良いのに…悔しくて、でも大切にされている事実に嬉しくもなる。

「あずちゃん、ごめん」
「…ううん、無理言って私こそごめん。遼平さんが私のこと大切にしてくれてるのは分かってるの、でも、私も…イチャイチャしたかったから…ワガママ言っちゃった」
「ん…じゃあこれだけ、」
 遼平さんはちゅっと軽く口付けをくれて、離れたその頬は真っ赤に染まっていたので驚いた。
 何てったってこれが二人の初キス、私に至っては生涯初のキスだ。
「わ…り、遼平さん」
「…何だよ…見ないで、照れてるんだから」
「…嬉しい…」
「こういうことは…緊張するね」
 大きな手で隠すその奥のお顔をもっと見たくて、覗き込めば彼はくるくると逃げてしまう。
「ねぇ、遼平さんもキス初めて?」
「初めてに決まって……あずちゃんも?」
「うん、初めて♡」

 しばらくちゅっちゅと軽いキスを繰り返して、もっと深くしたいなと思った頃に彼は苦悶の表情で体を離した。
「これ以上は…抑えが効かなくなる」
「…真面目だね…荷物、置いて来るね」
「ああ。夕食までゆっくりしよう」
「じゃ、また後で」

 抱いてもらえないモヤモヤもスパイスにして結婚後の営みに思いを馳せるしかないな、端ないけれどそれに期待していれば乗り切れそうな気はする。
 部屋に入り荷物を広げて、今夜着けるつもりだった下着にため息を吐いた。
「隣に抱かれたがってる彼女がいるのにぃ…遼平さーん……はぁ…」
 婚前交渉が非常識だった時代でも、このシチュエーションなら男性は暴走しそうなものだが。ましてや誰に咎められる時代でもなく、反対する人だっていないこの場所で。
「…結婚したとして、この…フラストレーションを解消できるくらいのコトが出来るのかっていう…」
 彼も童貞、私も処女。めでたく結ばれた際に「これまで我慢した甲斐があったー」という営みが出来るのだろうか。その腕が彼にあるのだろうか。
 いや、受け身ではいけないと思うのだが…そして営むことがカップルの存在意義でもないと分かってはいるのだが。
「(触りたい、触られたいって思うのは当たり前じゃんね…)」



 荷物を片付けたら遼平さんと合流して、旅館の周りをゆるゆる歩いた。彼も考えるところがあったのか、いつもよりガッチリ手を繋いで体を寄せて来る。
「どうしたの、遼平さん」
「あずちゃんが不安になるのも分かるから…少しでも、こう…愛情を伝えられたらって」
「それは、分かってるの…」
 今朝の待ち合わせだって、バッグごと私を持ち上げて「あずちゃん、今日は重たいなぁ!」と笑っていた。「ひどーい」と文句を言えば「好きな人の重量が増えるのは良いことだよ、あはは!」とギュッと抱き締めてくれた。
 彼は私のことが好きだし、太ったとか痩せたとか関心はあっても固執しない。一番ぽっちゃりしていた時の私に恋をして、久々の再会なのに後ろ姿で私を認識したんだもの、私自身を好きなのは分かる。
「…うん、僕はあずちゃんが好きだよ」
「でもさ、もったいぶって、さかりが過ぎちゃうのはもったいないなー」
「…盛り?」
「うん、女盛りとか男盛りとかあるじゃない。人生で一番綺麗で体力がある時、みたいな」
 まだまだ私たちは若いから本当は危惧してないのだが、私は痩せた今が最も綺麗なのではないかと考えている。この先またリバウンドするかもしれないし、たぶんここらが私の骨格だと一番均整が取れた適正体重なのではないかと。
 何年後に遼平さんと結婚するかは分からないが、彼の仕事や覚悟などを加味するとだいぶん先なのではないかと予測できる。ならば早めに味見したら良いのに、なんて思い口添えしてみた。
「そうか…」
「まぁ、期待されても大した体をしてる訳じゃないんだけど」
「…一番…か…」
 おや山が動くのかな、しかし遼平さんは私の言葉の別のところに着目したようだった。
「確かに、20代の今が、一番体力があるのかもしれないな」
「うん?」
「いや、でも長く働くために、30、40になっても現場で動けるように鍛えている訳で」
「うん…?」
「後になって、あの時の体力ならここまで出来た、と悔やむのは確かに歯痒い気持ちになるな…」
「(エッチで、どれだけ体力を使う気なの)」

 話が進みそうだけど物々しい空気が漂い始める。もしかして、力任せな乱暴なことをしようとしているのか。
「…あずちゃん」
「はい、」
「…今夜……いや、あずちゃん側は痛みもあろうし、準備も要るよね」
「りょ、遼平さん、だ、大丈夫だからっ」
 何をされるのかという恐さもある、情けない姿を見てしまうかもという不安もある。
 けれど遼平さんが決意したここを逃せない…私は繋いだ手に力を込めて、彼の腕に胸を押し付けた。
「…あ、ずちゃ…あた、当たってる、」
「もう大人だから。遼平さんにだったら、痛くされても…大丈夫だから」
 首を持ち上げて、強制上目遣いで彼を見つめる。
 私に興奮して、照れている貴方を見たい。無茶苦茶にしたいとか、食べちゃいたいとか、ちょっとなら危ないことを言われてもみたい。
 より一層グッと胸を押し付ければ、遼平さんは空いた手で目元を隠して、
「あずちゃん…わ、分かった」
とくしくし擦った。
「ありがとう…」
「…しかし、あれだね……温泉の元が取れなくなっちゃうね」
「(どんだけ拘束する気ぃー)」
「じゃあ…部屋に帰って、夕飯まで温泉を堪能しようね」
「うん…」

 想いが伝わったら、心が軽くなった。
 追い詰めたようで気恥ずかしいけれど、男女が当たり前にしたることをしたいというのはワガママではないはずだ。

 私たちは予定していたコースを短縮して、旅館へと戻ることにした。
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