壮年賢者のひととき

あかね

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2月・勇者は大切ない

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 月末のとある平日。

 本日は陽菜子の輿こし入れとも言える日だ。

 アパートからの引越し作業日で、ほとんど自家用車で運べるだけの荷物量だったために短期で終わらせてしまおうと綿密なる計画を立てている。

 ベッドや不要な物は処分、収納は作り付けのクローゼットだったのでタンス等も無し、衣装ケースや布団、細々とした家財道具を嘉島のミニバンへ詰め込んで1往復で事足りた。

 車から降ろしてはエレベーターで部屋へ運び、形だけの私室へと洋服などを運び込んでいく。


「…15時くらいに家具屋さんが来るから、ここら辺スペース空けておこうね」

「え、何か買ったんですか?」

「ん、ネットでね。ヒナちゃんのベッド……あ、違うんだよ、あの…」

 ベッドはいつも二人で寝ているダブルがあるだろうに、どういうことかと陽菜子は珍しく恐い顔で凄む。

「大きいベッドがあるじゃないですか、私とはエッチできても一緒に寝られませんか⁉︎」

「人聞きの悪いことを言うなよ!……君は寝相が悪いだろ、毎回朝が怖いんだよ……あと帰る時間が違ったら先に寝てたりして起こしちゃうだろうし…シフトが違う日とかは別々に…おい、ヒナちゃん!」

「エッチが終わったら私は自分の部屋へ帰って寝ろって言うんですか?酷くないですか…」

「えェ…」

 もう尻に敷かれかけ、可愛い鬼嫁はツノを立てて嘉島を責め立てた。

「いや、正直何度も蹴られてるし…落とされてるし…ヒナちゃんだって落ちたりするしね、その…」

「嫌です!一緒に寝ます!」

「ヒナ、睡眠時間は大切なんだよ…俺はもう歳なんだから…分かってくれよ…はァ…」

嘉島は降ろした前髪をくしゃくしゃと掻き、疲労の溜まった肩をコキコキと回して陽菜子を睨み返す。

 どんなにイラついても陽菜子には当たらないようにしてきたが、主人の自覚と自負が生まれたのか嘉島は強引に意見を通そうと威嚇いかくした。

「…なるべく離れて寝ますから…せっかく夫婦になるのに…あの、床に布団でもいいので、同じ部屋で…」

「夫婦だから尊重し合わなきゃ、自分の部屋で寝なさい」

「そんなの一緒に暮らす意味ないじゃないですか、嫌で」

「しつこいなァ!」

広げようとしていたカーペットを床に叩きつけ、立ち上がった嘉島は自分の寝室へと逃げる。


「ちょっと…健一さん!」

「入るな、ここは俺の部屋だ」

嘉島は寝室へ入るも扉を閉めるのは間に合わず、室内と廊下とで陽菜子と睨み合う。

「話し合いをして下さい、もう私の家でもあるんですから」

「俺が買った俺の家だよ…言うことを聞きなさい」

「妻の希望にも耳を傾けて下さい!」

話し合いは平行線、陽菜子も意固地になって要望を取り下げられない。

「せっかくベッド買ってやったのに…」

「頼んでません、恩着せがましく言わないで下さい」

「あ?」

すっかり亭主の嘉島はドアの木枠へ手をついて、生意気な妻を見下ろして凄んだ。

「っ……けんい」

「これ以上同じことを言うなら、俺は君を無理やりに抱く。襲う。本気だよ、イライラさせるな」

「健一さん、横暴すぎます!平和的に解決しなきゃ…きゃあッ!」

 ドアは開け放したまま、窓からは外光が明るく差し込み、そんな寝室のベッドへ亭主は若妻を放って組み伏せた。

「あ、」

「主人の言うことが聞けない?」

「意見を言ってるんです、お互いのたメっ」

 ギラついた瞳で見つめられれば陽菜子はしゅんと静かになり、しかしつぐんだ唇は嘉島の唇でこじ開けられる。

「口開けろ、」

「あム…あ…♡」

「この家では俺がルールだよ、ヒナコ」

 傍若無人、なんと暴君な主人に嫁いでしまったのだろうか…陽菜子は先々の生活に不安を覚えた。

「よく考えろって言ったぞ、俺は…人生に関わることなんだから…あァ?ヒナ、」

「プハ……だから、一緒に寝たいんです!」

「くどい、」

嘉島は体を起こして陽菜子の腰を解き、制止を試みる腕を足で払い除けてジーンズを下着ごと膝下まで引き下ろす。
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