馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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「知らねぇ世界の話を簡単に信じるなよ…」
「あいよ、おまち」
「どーも」
予想より早く料理が届き、長岡は取り皿と箸を遥の前に置いてやる。
「………さいあく…いい人だと思ったのに…」
「まぁ食えって……いい勉強になったろ……あ、お前まさかエッチまでシたの?」
「………シちゃった…」
「馬鹿だねぇ~」
人の不幸を喜ぶ男は、レンゲで好物の酢豚の3分の2をさらった。
「だって!…適齢期だから結婚も考えてるって!……言って……私…ヤリ捨てされたの?……1回で捨てられちゃうような…価値の無い女だと思われたんだ…」
「騙され続けてセフレにされるよりマシだろ」
「ひどい、慰めてくれないの?」
白飯に酢豚をバウンドさせる長岡をキッと睨み、遥は普段より気迫の薄い眉をしかめる。
「メシ食いに来ただけだし。食えって…実際、この前会社で名刺見せられた時に、怪しいとは思ってたよ。移転したのは知ってたから」
「は…知ってて何で教えてくれなかったの⁉︎」
「教えても会いに行っただろ。『確かめてくる♡』って…ほだされてヤられて同じ結果だよ」
長岡はいっぱいの口で行儀悪く喋りながら、取り皿に紛れ込んだパイナップルを元の皿へ返した。
「ちょっと、その箸で返さないでよ!…さいあく、私の周り、何でこんな男ばっか…」
遥はやっと箸を取り、運ばれたばかりの餃子の羽を割っていく。
「お前だって、ソイツの肩書きに踊らされてろくに中身見てなかったろうが。明るくメシ食わせてやる俺の方が数倍いい男だと思うけどね」

 フフンと笑う彼は実は、今日の昼食時に彼女が同期の整備士・守谷もりや秋花しゅうかに「彼氏と連絡がつかなくて心配だ」と愚痴っているのを休憩室の後方で聴いていた。
 なんでもケルホイ男はマスクを着用していたらしい。遥は風邪かなと心配していたようだが、長岡に言わせればそれは何かやましさを隠すための道具である線が強い。
 なので夕食に誘ったのも励ますつもりなどではなく、数日前からウォッチ対象だった遥の顛末を知りたいからという…実に下衆な出歯亀でばがめ根性、遥の元カレと同等の最低さであった。
「さいあく、さいあく…」
「おい、お前がんな事言うから親父さんが心配してんだろうが…おやっさん!美味いっすよ!今日はギョーザ速いっすね!おら、食え!」
 困り顔で配膳した店主は苦笑いして、厨房へと戻って行く。
「さいあく……美味しい…ゔー…」
「食え、エビチリも美味ぇんだから…な、食って働いて忘れろ」
「美味じい~~うわぁん!」
せきが切れたように遥は泣き出し、鼻を啜りながら次々と料理を口へ入れては嗚咽を漏らす。
 遂に泣き出した客に店主はたじたじで、しかし長岡が
「おやっさん、ごめん、感動して泣いてんだよ!美味しい!」
と聞けばまた困ったように笑った。
「おとうさん、ビールちょうだい!」
塩辛い、すっぱい、甘い、こってりした口内を潤すべく遥は高らかにコールする。
「あいよっ」
「おい、車だろ、」
「代行使う!」
「お前弱いくせに…おい、」
「はい、瓶ビールお待ちぃ!」
店主はにこやかに、ビールの栓を抜いてくれた。
「わーい、呑んじゃう!もう忘れる~!」
「おい、あぁ、…………わぁ、」
白い喉がリフトのようにビールを下へ下へと運んで、その動きに長岡はつい見惚れてしまう。

『♪~、♪~』
「清洲、電話だ」
「ん?んー…あ、秋花ちゃんだ…もしもしぃ?」
酔いの速い遥は面倒がって、スピーカーモードでスマートフォンをテーブルに置いたまま通話を始める。
『もしもし、あ、あのさ、今から言う服の奴とデートするなら、どんな服着て行く?可愛い系で』
電話の相手は同僚の守谷で、なにやら困っているらしかった。
「は?なに」
『シャツ、パーカー、ジーパン、どう?』
「何言ってんの?」
『だから、自分だったら、何着て行く?』
「はぁ~?パーカーとかジーパン、そんなカジュアルな格好の男とデートなんかしない、だいたい、シャツって何?Tシャツ?」
明らかに「私は何を着れば良いのか」という質問なのだが、酔った遥は正直に自分の価値観の話をする。
『やかましな、するとしたら、や!』
「清洲、守谷ならその相手と何着たらバランスいいかな?って」
当然聞いていた長岡は秋花のために助け舟を出した。
「え~…私なら萌え袖のニットに新しいスカート合わせるけど…秋花ちゃんスカート持ってないでしょ、ロングのワンピースとか買えない?足首まで隠れるやつとかさ、秋花ちゃん背ぇ高いし様になるよ。秋だから落ち着いた色のやつ。下は適当にカットソー合わせて、靴下にスニーカー、デニムのジャケットで素材感合わせてペアにしちゃえば?らしくていいと思う。まだこの時間ならモールの服屋さん開いてるよ、」
『ありがと!……、……、』
 プツンと、電話は切れた。
 果たしてお役に立てたのか、遥はデートの相手が気にはなるが目の前のビールによってそれ以上の思考能力が停止する。
「清洲、大丈夫か、おい、」
「大丈夫だって、うん……うん…」

 そしてひと瓶空けてもう一杯、紹興酒しょうこうしゅもいただいた遥は実にご機嫌で…そこから視界は真っ暗で、耳には長岡の声だけが大きく響いていた。
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