馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
38 / 56
9

38

しおりを挟む

 翌朝。
 寝不足の長岡が大欠伸あくびをして起き上がると、玄関のシリンダーが回ってちょうど遥が帰宅したところだった。
「ただいまー……きゃっ⁉︎あ、直樹おはよう、」
「…おはよーじゃねぇだろ、居候の分際で朝帰りかよ。何してた」
「え、合コン…行っていいって言うから…」
 いいとは言ったが日時までは聞いていなかった。
 長岡は悔し紛れに
「あそ……んで?いい男は釣れたかよ」
と寝癖の髪をわしわし掻いて目線を切る。
「んー…イマイチだった…街コンみたいな公園の夜桜合コンだったんだけどね、暗いし雰囲気に騙されそうな感じがして…適当に食べて帰っちゃった」
「お前にしちゃ賢いじゃねぇの……にしても遅かったな」
「うん…なんか運転しようと思ったら変な感じがしてね?もしかしてアルコール盛られたのかなって思ったら運転するの怖くって…車中泊しちゃった」
パンプスを脱いでブラウスもスカートも剥がして、キャミソールと生脚になった遥はコキコキと肩首を回した。
「なら言えよ」
「ごめん、でも直樹には面倒掛けっぱなしだから遠慮しちゃった」
 そして言葉を失う長岡が包まっている掛け布団をめくり、
「もうこのベッドに体が慣れちゃったんだよね」
と添い寝体勢に入る。
「…そう、だろうな…」
何も無かったのか、長岡ははっきりと安堵するも、悟られないように手で口元を隠した。
 怒れる立場ではない、寮母ではないのだから門限なんてとやかく言えない。
 遥の保護者然とする自身が可笑しくて惨めでいけない。
「うん…直樹もなんか寝不足っぽい?」
「え、なんで?」
「寝癖のつき方で分かるよ、眠りが浅くて寝返り打つのが多い時はそんな感じ」
「そうなのか…」
勝手知ったる人の寝癖、本人すら知らなかった法則性を指摘されて長岡は目をぱちくりさせて二度寝に入った。

「今日は休みだねー…なにしようか…」
「何も予定はねぇよ…あのさ、合コンはいいけど晩ご飯の有無は教えてくれよ…晩飯の用意が無くて焦ったんだわ……とりあえず今夜はハルカの味噌汁が飲みてぇな」
「ん、分かった………ふふ、必要とされるって嬉しい♡」
 でも意気揚々と合コンには行くんだな、言ってしまえば図に乗るだろうから長岡は入眠したふりをして返事をしないでおく。
 恋愛感情が湧かないのだから「行くな」なんて言っても整合性のある理由説明ができない。嫉妬する資格も無い。
 だからこの気持ちは遊び歩く娘を苦々しい気持ちで見守る父親のそれ…妹だの娘だの、長岡はやはりあくまで保護者感覚で遥を扱うことしかできない。



「そういえばね、公園にケルホイがいたの」
「はぁ…それは合コン参加者?」
ドライブスルーで持ち帰った昼食のハンバーガーにパクつきながら、長岡は記憶の中の奴の面影を探す。
「ううん、ナンパしてたっぽい。歩き回ってたよ」
「凝りねぇな…にしてもアグレッシブだねぇ」
「そういう経験の積み重ねでエッチが上達したんだろうね」
遥は体感済みのそれを思い出しつつ紙パックのミルクをちゅうとすすった。
「…そもそも…上手い下手ってのは…女の方から分かるもんなのか?」
「ん、分かるよ、私が思うのは技能じゃなくて運びの方だけど」
「はこび?」
「うん…展開って言うの?あーしてこーして、次はこーして、みたいな順番とか組み立てがスムーズだと上手いっていうか…慣れてるなって思う」
「そりゃヤリチンだから慣れてんだろ」
「詰まるところそういうこと…でもね、あたふたしながらいっぱいいっぱいになってるのも可愛いと思う」
「ふーん…」
なら俺は該当しねぇかな、そこまで素人じゃねぇし…長岡は口の中ぱんぱんにポテトを詰め込んでは咀嚼そしゃくを繰り返す。
「直樹は?女の子のどんなとこが可愛いと思う?」
「可愛い…んー…顔」
「違う、仕草とか反応!」
「んー…尽くしてる感じ、一生懸命な感じが見えたらそう思うな…店でもさ、ルーティン化したこなれ感出されると萎えちまうな…事務的な感じ、ハイ次これ、みたいな」
「ふむ…恋人とも慣れたらそうなってくるんじゃないの?この前のリンちゃんみたいに」
 それは昨年12月に自宅に呼んで遥とブッキングしてしまったデリヘル嬢のことである。彼女をリピート指名している長岡はツボも具合も上手いこと把握され、リンへ絶大な信頼を置いているのだ。
「あー、あの子は確かに慣れたな、でも商売女としか見てねぇから心から可愛いとは思わねぇなー…リップサービスで言いはするけどよ」
「ふーん…」
「なに…抱かねぇぞ」
「うん…分かってるぅ……ふー…」
 同棲を始めてふた月が過ぎ、遥は長岡に隠していることがあった。添い寝で安息は得られるし家賃折半で家計は浮くし性処理をすることで褒めてもらえるし、精神の方は満ち足りているのだが、どうにもこのところ体がうずいていけないのだ。
 彼女がセックスをしたのはケルホイ氏との昨年秋の一夜が最後で、以来自慰行為はあっても挿入を一切していない。
 どうしたって抱いてくれない長岡との生活で我慢強さは鍛えられたものの、バイオリズムによっては急激に「シたい!」という衝動が爆発してしまうことがあるのだ。
 なので昨夜の合コンも事と次第によってはホテルへ行ったって構わない、そんな気持ちで臨んでいた。
 しかしどうも胡散うさん臭いし遊ばれたくはないしで撤退、あの判断は自分でも正しかったと思っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...