僕たちが幸せを知るのに

あかね

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Capitolo11…Vecchiaia

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「そう、なんだ…食欲も失せちゃった?」

「うん…更年期ってやつね、イライラとかじゃなくて吐き気とか下痢…じわじわあったんだけどここんところピークで…生理予定日になってもそれらしい物が落ちて来なかった」

耳の後ろで囁く声は震えていて、誰にも言えず過ごした日々を想像するとせめて僕が相談しやすい同性だったらなぁなんて思ったりもする。

 しかし脱いだのは体を見せるため?それとも僕に抱いて欲しいの?こんな状態のレディーを鳴かせるほど僕は酷い男じゃない。

 悩みを抱えたお姉さまを抱くこともあったけどそれは物憂げな表情が美しかったり励まそうと思って誘ったりだった。

 憂さ晴らしにセックスに逃げるような人ははなからナンパしたりしない。

「私…呪縛から解き放たれたんだって思ったけど同時に悲しくて…ついに、ついに…女じゃなくなっちゃった、も、元々生殖機能は付いてなかったんだけどさ」

「そんなこと言わないで」

「生理が終われば解放されるって思ってたの、重責から解き放たれて自由になれる、なのに…終わっちゃった、終わったの、女としての…体が…終わっちゃったの…」

 それで僕に差し出そうってのか、残念ながら僕は女を忘れた女性は好きじゃない。

 気丈に振る舞っててもそこに眠る奥ゆかしさと忘れかけた女を引き戻してあげるのが好きなグルメだったんだ。

 出汁ガラをぽんと投げられて喜ぶような野良じゃない。

 謙遜で卑下する人はまだ許せるけどあくまで僕に対するポーズであって、最初から慰められようって魂胆で迫って来る人はノーサンキューだ。

 だってお姉さまの魅力って自立してるってのが大きなポイントのひとつなんだ。

 いくつになっても自分の意思で矍鑠かくしゃくとして凛々しく生きる姿が美味しそうで…そんなシラトリさんが好きだった。


「(…あぁ…老いたなぁ、シラトリさん…)」

失礼だろうけど率直な感想はそれ、僕は彼女の娘時代や花盛りな頃は知ることができないけどこの10年で彼女は着実に老いた。

 生物として当然だし劣化するどころか僕の価値観における『美しさ』は年々増加していってる。

 けれど世間一般的に見ればやはり彼女はさまざまな点で衰えてきている。

「シラトリさん、こんな…こういう迫られ方をしても僕は何もできないよ」

「…どうして?出逢った頃はあんなに欲しがってくれたのに…やっぱり若い子が良い?」

「何でだよ…自棄やけになってるお姉さまを抱いたりできない、これは僕のpolicyポリシーだよ、あの…うん、勃ってるけど、これは生理的なもんだから気にしないで」

「…ちょっとでも、若いうちにあなたを受け入れておけば良かった…」

はらはら涙が落ちて僕の肩を濡らす。

 ぐじぐじ鼻を鳴らしてすすり上げては嗚咽おえつがリビングに響いた。
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