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2019…茶色い弁当

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「ああいう人って、私がショック受けてるのを見るのが好きなんだよね、放っておくのが一番なんだって分かってるんだけど…でもお弁当のこととなると私に否があるのかなって思っちゃって…固まっちゃって」

「否は無いけどね……もしそうだったとして、解決策はある?」

「えっとね、野菜とか…もっと入れようと思うの」

「ふむ」

「あと玉子焼きとか…明るくなるような感じで」

「玉子焼き、作れたっけ?」

「……練習する…」

俺の物言いは美晴をおちょくっているのだが、純な彼女は真意には気付かない。

 張り切らせて出鼻を挫くのも悪いのだが、一応自身で打開策を練って発表するというアクションが大切だと思うのでいつもこのような形になってしまう。

「焦げた卵の処理が大変だからしなくていいよ」

「……ごめんなさい…」

「良い考えだと思うんだがね、美晴…ちょっとこっちおいで」

「…うん」

 麺を食べ切って箸を置いたら美晴をおいでおいでと呼び寄せて、細い腰を抱いて膝の上に座らせた。



「よいしょ……美晴、弁当は誰のために作ってる?」

「浩史くんのためだよ」

「うん。朝早く起きてな、頑張ってるよな。俺さ、茶色い弁当が嫌だとか言ったことあるか?」

「……ううん、無い」

「残して帰ったことあるか?」

「無い」


 朝の忙しい時間では失敗し易い料理も、夜に余裕を持って取り組めば成功率はぐんと上がる。

 そうして作り置きした煮物やおかずを詰めてくれるだけで充分なのだと…ゆっくり言葉で伝えた。

 ご飯にカレーを掛けてスプーンを入れ忘れた時だって、隙間を埋めるために梅干しを5つ詰めた時だって、俺はしっかり完食して文句など言わなかった。

 サラダのフタが甘くて水分がバッグに漏れ出した時だって、報告だけして「次はしっかり閉めような」とだけ、責めるような言い方はしていない。

 自分で作る手もあるが、俺は不器用なのでたぶんコンビニに頼ると思う。

 そして家事の大半を担うと決めたのは美晴本人なので、それは全うさせてやりたい。

「俺は美晴の作る弁当で満足してる。彩りを入れたいなら好きにすれば良いが…美晴が追い詰められたら意味が無いだろ。子供たちを支度させて送り出して、ゴミ捨てだなんだってバタバタするんだ、俺の弁当は冷凍でも何でも良い」

「…そう?」

「俺のための弁当だろ、俺はまだ肉も食べるし野菜は晩メシに出してもらってるから足りてる。うちのことを知らない女の言うことなんか間に受けなくて良い」

「浩史くん…ありがとう…ん♡」

「ん」

 口付けは津久井夫妻の和解の印だ。

 今回は喧嘩ではなかったが意見を通い合わせもせずひとり悩んでしまった美晴を諭す形で決着した。


 しかし火がついてしまったのか、嫁は俺の唇をスタンプパッドの如くぽんぽんとバウンドして頬にまで跳ね始める。

「ん♡ん♡」

「美晴、片付けるから退いて」

「…キス、もっとして?」

「分かったから…片付けてからな」

「もっと…浩史くん、」


 そして美晴はそのままちゅっちゅとキスを繰り返し…堪らなくなった俺は

「…しゃあねぇな」

と冷めたラーメンスープを残したまま、対面抱きで嫁を寝室へと運ぶのだった。
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