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しおりを挟む歩夢嬢が短大生になり半年ほど。
その日は唐突に訪れた。
いや、もしかしたら俺はいつからか準備をしていたのかもしれない、心も、身体も。
「橘、明日…お稽古の後、寄り道して欲しいの」
学校からの帰り、後部座席から細い声が俺の耳に届いた。
明日は放課後にお華の稽古なのだが、それが済むのは18時頃になる予定である。
「お買い物ですか?お夕飯に間に合うなら大丈夫ですよ」
「ううん、その…彼とデート、したいの」
「あ、そうでしたか」
歩夢嬢はいまだに高梁くんと交際を続けており、しかし向こうは都内の大学へ進学したために時間的にすれ違いが増えたそうだ。
そして元々抱えていた体のすれ違いも際立って来ている模様。
おそらくホテルにでもしけ込むのだろうが彼女の顔は浮かない。
「歩夢さま?お加減が悪いですか」
「ううん、大丈夫……あの、よく言ってるじゃない、彼とその…」
「セックスの相性ってやつですか」
「橘ぁ…」
「二人きりだから良いでしょう。何です、未だ満足出来ないのにまた抱かれに行く訳ですか」
気持ちがあれば気持ち良いだろう、歩夢嬢にはそう伝えて来たのだがいよいよ疑い始めているらしい。
好き合っている同士なのにおかしいことだ。
まぁ俺はそれが可笑しくてしょうがないのだが。
「…体の、相性なのかな」
「一概にそうとは言えませんよ?歩夢さまは恋に恋する時期に彼に告白されてお付き合いを始めて…彼でなければいけない理由は無いとご自身でも仰ったじゃないですか」
つまりは誤魔化し誤魔化し繋いできた気持ちが途切れそうになっているのではないか、高梁くんに固執する理由も意味も見出せなくなっているのではないか。
華やかで開放的な短大生ライフ、女子しかいないとはいえ歩夢嬢は毎日が楽しくて仕方ない様子だ。
友人から恋バナなんかも聞いたりして自分のことも語ったりするらしい。
そういった時にふと周りと自分との熱量の差を感じるのだそうだ。
「そうよ、でも…ドキドキしたし…今も、する」
「嫌ならお別れした方がよろしいのでは?いたずらに体を預けるのは後々に響くかもしれませんよ」
彼と結婚するとも限らない。
今後ニカイドーグループが更に発展して歩夢嬢が強大な力を得たとして、過去のゴシップが出されたりすると面倒だ。
きっと火消しは俺がせねばならないんだ。
そして当時から世話役だった俺は監督不行き届きでお叱りを受けるに違いない。
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