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 食事が運ばれて来て、しかし室内の香水にかき消されて何が置かれたのか分からない。

 歩夢嬢も食べた気がしていないだろうな、向かいの富野母子を眺める目が死んでいる。

 仲睦まじい富野母子は互いに料理の感想なんかを言い合って、青年は苦手な食材を母の皿に移したり口を拭いてもらったりと実に香ばしい。

 匂う匂う、これは俗に言うマザコンというやつなのではないか。

 いやしかし決めつけるのは良くないか、何にしても親を大事にするのは良いことだし。


「……」

完全アウェーの空気の中で歩夢嬢は前菜を先に食べ切って、ナイフとフォークを静かに置く。

 この辺りも躾けた甲斐があったな、元々素養はあったらしいがテーブルマナーは特に口うるさく指導したのでばっちり物になっている。

「(…大人になっちまったな…)」

 どこに出しても恥ずかしくないレディだ、そして半分は俺の手柄だ。

 なのに対面の男は彼女の姿なんか見ちゃいない。

 母親とキャッキャしながら食事を楽しんでいる。


「(見合い、する気が無いのか?)」

 お節介だろうが進行役として割って入ろうか、そう思っていたら歩夢嬢が口を開く。

「親子仲がよろしいのですね」

 これは皮肉だろうか、しかし青年は

「はい。今回のお見合いも、お母さんの勧めで。歩夢さん、贈った香水は着けて頂いてますか?お母さんのお気に入りのものなんです」

と間違いないマザコンぶりを発揮した。

 なるほど母親と同じ香水を妻にも着けさせようってのか、清々しいほどに青年は胸を張っている。

 その価値観は分からんでもないのだが、いかんせんご母堂は香水を着け過ぎであろう。

 浴びるほどに着けて、もう彼らの鼻は馬鹿になっているに違いない。

 だって「そうなんですか、良い香りですね」と応えた彼女がその香水を着けていないことにさえ気付いていないのだから。
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