あなたでお腹いっぱいです…能面イケメンは私のコレがお好きみたい

茜琉ぴーたん

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13…こぼさず食べて

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「(いるかな…)」
 久々のオーサキ訪問になんだかドキドキする。もう退勤しているからプライベートだしとがめられることも無いのだが。
 さて、閉店間近の売り場に雅樹まさきさんの姿も見えないし他の店員も接客中。すいすいと見積書に載っていた冷蔵庫のプライスを確認しに該当機種を探す。
「(おー…表示価格はこれ、暗号で割って……こんなもんか…)」
 見積りよりも高めになっているがそれでも相場より充分安い。ここからさらに値引いたのだから大したものだ。洗濯機も他の商品も全体的に安値傾向、お客さんの希望というより下げられるものを巧みにお勧めしたのかもしれない。
 そして雅樹さんは副店長なのに売り場に立つことがあるのだろうか。もしかしたらあのお客さんは彼の知り合いとか直々に対応するような近しい人だったのかもしれない。
 だとしたらやはり私への当て擦り、喧嘩を吹っかけて来たということか。

 売り場でほんほんうなずいていると聞き慣れた革靴の音が近付いて来て、振り返れば能面スマイルの副店長さまが立っていらした。
「あ」
「ムラタの小動こゆるぎさん、何か用かな?」
 何を白々しい、白目も見せないほど細めた糸目が冷たくて他人行儀で恐い。
 これは第2ラウンド開始なのかな、闘う方法も無いしやはり敵地なので心細くて後ずさってしまう。
「いえ、プライベートでして」
「プライス見てたじゃん。調査じゃないの?時間外労働はダメだよ」
「いえいえ、趣味みたいなもんですから」
「ぷふっ…こうも明らかに価格調査されると注意せざるを得ないんだよなぁ…こちらへどうぞ」
「え」
 哀れ迂闊うかつに敵地に潜入した私は、相手方に捕まってしまった。
 初めて見るバックヤードから3階へ、黙ってカツカツ上がっていくその背中は堂々としていて、悔しいが凛々しくてカッコいい。

「(うちの店長とか呼ばれちゃうかな…プライベートなのに怒られる謂れは無いんだけどな…)」
「久しぶりだね、どうだった?俺からのプレゼントは」
連れて行かれたのは商品の箱が並ぶ倉庫の一角、不自然に隙間があってパイプ椅子が窓の方を向いて置かれていた。
 まるで秘密基地みたいだ。国道に面したその窓からは向かいのムラタのライトアップされた壁がよく見える。
「…見積書のことですか?負けました、あのお客さま3件ともこちらで購入されたんでしょう?」
「そうだよ、大きい売り上げだったわ…俺のお得意さまなんだ。敢えて美羽みわちゃん宛に行ってもらっちゃった」
「なぜ」
 わざわざお客さんにご足労かけさせるなんておかしいことだ。
 そしてまんまと思い通りに負けてしまった自分が情けない。
 しかし雅樹さんが
「…殴り込みに来てくれるかと思って」
と思いの外アワアワするので「は?」と素のリアクションで脱力してしまった。
「…来ちゃいました…あの、ムラタでは対抗できないと分かっててあの価格で見積もったんですか?」
「まぁ、ね」
「ムラタで売れないと分かってて私や上司を無駄に徒労させて…冷やかしですよね、ちょっと神経疑います」
「違うよ、お得意さまには『どちらで買っても良い』って伝えてあったの。もしムラタで成約したら美羽ちゃんの利になるだろ?何にしても会話のタネというか…お得意さまもね、『向こうに俺のお嫁さんがいます』って言ったら嬉々として見に行ったんだよ」
「……まだ結婚してないし」
 口を尖らせれば彼の眉間がぴくんとうずく。雅樹さんは私の口が好きだから分かりやすくアクションを取れば彼は生理的に反応してしまうのだ。
 キスしたいでしょう、触れたいでしょう。報復にしてはショボいけど彼から謝罪の辞ひとつでも引き出さねば気が治まらない。
 ここは彼のホームだけど結婚話に関しては対等に行うべき、まずは鼻を折って同じ所まで降りて来て頂く。

 私の不機嫌そうな表情が和らがないとあって彼はいよいよ気まずそうに目線を泳がせて、
「…焦り過ぎた、ごめん。ダメだな、もっとどっしり構えて美羽ちゃんを迎えに行きたかったんだけど…引っ越しの件は忘れて。俺、カッとなってすごい自分本位で美羽ちゃんに転勤させようとか考えてて…冷静になってとんでもないこと言ったと思って…ごめん。悪かった」
としょんぼりその場に座り込んだ。
「あの見積書ではケンカになりますよ」
「違う、会って話す口実が欲しかったの、……激しい言い合いでも、罵倒でも甘んじて受けて…本音で話し合いたかった」
「なら最初からそう言えば良いじゃないですか」
「譲歩したくなかったの!こっちが提案したりすがるのは違うと思って…変なプライドが…邪魔してたんだ、プライベートのことなのに」
「偉くなっちゃったもんですねぇ」
「ごめんて…」
 もうこれ以上虐めるのは可哀想か。固めた頭をそっと撫でれば彼は安心したように今日イチの長く深いため息を吐く。
 そして館内放送が途切れたことで私はここの閉店を知り、部外者の自分がいつまでもここに居てはまずいと少々焦る。
「雅樹さん、とりあえず外まで誘導してくれませんか?不審者になっちゃう」
「あ…そうね…俺も退勤押さなきゃ」

 そそくさと階段で下へ下へ、店舗入り口は閉まっているかもということで裏の従業員用出入口から外へと脱出した。
 ちなみにだが、先ほどの倉庫のスペースは担当スタッフのちょっとした休憩場らしい。

 さて幸い誰とも会わずに駐車場へ出られた。
 雅樹さんは
「美羽ちゃん、車で待ってて。片付けて来るから…そう時間は掛からないと思う」
と私に車のキーを渡して店内へと戻って行く。
 もう1階のパン屋も閉まっていて暇を潰せない、言われた通りに雅樹さんの車を探して乗り込み彼を待った。
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