親指姫のアイデンティティ

茜琉ぴーたん

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Little me.

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 後日、吾妻さんから
『ライムちゃん、この前の写真、評判良かったわ!冬号の表紙獲ったわ!』
と陽気な声で着信があった。
 彼の他にもカメラマンは数人いるらしいが、私のビジュアルと今回のテーマと洋服の雰囲気がベストマッチだったそうで、それはやはり彼のカメラとスカウトの手腕が光ったということだったのだろうか。
「へぇー、やったぁ」
 別にモデルを本職にするわけでもないから「特別ボーナスとか出ないかな」なんて直感ではそんなことしか思わなかったけど、自分の容姿が評価されて認められたというのは…まぁ単純に嬉しかった。「可愛い」と称賛を受けつつフラッシュを浴びる快感、承認欲求も自信もぐんぐんと満たされて気分が良い。なるほど相乗効果でどんどん可愛くなっちゃうね、と盛り上がる。
 モデルなんて背が高くてナイスバディな人しかなれないと思っていた。童顔でもないからロリータという柄でもないし、なんたってこの性格ではふわふわしたあのブランドのユーザーの心も分からないし。

『テスト感覚で撮ったんが通るとはなぁ…というわけでどんどん撮っていくから、次は春号目指して頑張ろな!』
「半年も先じゃん」
『ファッションは先を見据えて動いてんのよ』
「へぇー」

 次の撮影の予定も入り充足感が満ちる、珍しくテンションが上がり手帳にピンクのペンでハートを書き込んでむふふと笑った。



 その週末、公共料金を支払うついでに通帳の記入をしたらなかなかの額面の入金がされていた。
「……副業パなーい…」
 拘束時間こそ長かったが言われるがままにポージングをして撮られるだけでこの賃金。そりゃあプロのモデルさんはもっと意識高く取り組んでいるのだろうが割に合い過ぎる副収入につい口元が綻ぶ。

 そして次の撮影の日に吾妻さんへ伝えると、
「せやろ?俺も手当付くのよ、表紙になったから特別やで?普段はそこまで入らへんと思うわ」
とのことだった。
 なるほど大きく使われる写真が撮れれば良いわけね、と素人なりにモチベーションが上がった。
 本日の撮影は新作衣装のPR写真、SNSで配信するのだそうだ。

「ライムさん入りまーす」
 前回同様にめかし込んでスタジオへ向かう。今回は特にテーマなどは無いベーシックな白を基調としたロリータのセットアップだった。
「うん、右手もうちょい高く、鞄見して」
「目線こっち、ちゃう、睨むな」
 吾妻さんはプロらしく指示も荒くなってきて、数ポーズ撮ってはみたものの出来上がりをパソコンで確認しては「うーん」とため息をつく。

「ライムちゃん…ホワイトロリータ似合わへんな」
「え、着せといてそれは無くない?」
「なんやろ…この前の親指姫は良かってんけどな…古湊くん?」
 そう呼び掛ければスタジオの隅に居た古湊さんが「はい」と返事をして、吾妻さん同様なんだか難しい顔で私をまじまじと眺めては宙を見た。
 あれ、もうお払い箱なのかな、所詮はビギナーズラックか、居た堪れずバッグを置こうとした時、
「ライムさん…脱ごうか」
と古湊さんから爆弾発言が飛び出す。
「は?」
「脱いで…いや違う、ごめん、着替えるって意味!」
「あぁ」
「このドレスはライムさんの雰囲気に合ってない。これは違う子に頼もう…前回と同じラインの…セピアっぽいさ、アンティーク調のドレスが合うんだよきっと」
「そう?なの?」
「着替えよう、あ、僕は見ないから、うん」

 促されてバックへ戻ると、スタイリストさんが新しい服をハンガーから外して着させてくれた。
 ハイネックのブラウスにくすんだブラウンのジャンパースカート、ハイウエストで脚が長く見えるのが嬉しい。
 メイクも少し直して膝まである編み上げブーツを履けば竹馬のようで足元がふらついた。

「ライムさん、あんまりヒール履かない?」
「はい、歩きにくくて…下手です」
「ふふっ…大丈夫だよ、……うん、こっちの方が合ってるね、ライムさんはしばらくこのライン専属かな」
「へぇ」
 純白はダメで茶色はOKなの?理屈はよく分からないが確かに姿見で全身を見ればこちらの方が似合っている気もする。
 古湊さんは機嫌良く私をセットへエスコートしてくれて、その後の撮影は驚くほどスムーズに進んで終わった。
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