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Past me, present me
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しおりを挟むそれから撮影をしたり打ち合わせをしたりすることふた月。
秋のとある日にスタジオに行くとメイクルームには艶々としたベルベットのパンツスーツが吊るしてあった。
「あ、できたんだ」
前髪はポンパドールで数本束にして垂らす、横髪は編み上げて後ろへ、逆立てた後ろ髪と一緒にすればまるで鬣のよう…メイクも普段よりシックな色味が顔に載せられる。
「ライムさん、いいね!似合うよ!」
着替えてスタジオに出ると私と同じ系統の姿になった古湊さんが拍手して褒めてくれた。
脚を通したスラックスは肌触りが気持ち良くて伸縮性もあり動き易い。採寸しただけあって裾もピッタリだし袖も余ってない。
「どうかな、いい出来じゃない?」
「はい、可愛いスーツになりましたね…古湊さんのは…ちょっと違う?」
「うん、股上の長さとヒップラインは男性向け…こうして作り比べてみると体格の男女差って面白いよね。やっぱり肩幅とか僕の方が大きいし」
「そりゃそうですよ」
私と比べればそりゃあ大抵の男性は大柄だ、久々に受けた体型マウントに眉を顰めてみれば彼は笑って
「ライムさんも、バストとか女性らしく作ってあるよ、ピッタリでしょ?」
となんの躊躇いも無く私の胸に触れる。
「……」
「いい曲線にできたと思うんだ、量産品でこれをどこまで落とし込むかだよな…サイズ展開を増やすか、上下別売りって手もあるかな…」
「私のこと、マネキンだと思ってます?」
彼の手が尻から腿へ降りてきたところでそう言えば、古湊さんは「あぁ」と慌てて手を離しぶんぶんと空で振った。
「ごめん、クセで」
「お外でしないようにして下さいね」
「ふふっ…うん、気を付ける」
実は我々は採寸をした日から体に関わる話題が増えていて、過去の恋愛の話や下世話なことも少し交わすようにはなっている。
触られて感じるほど初心でもないけれど、彼の手は柔らかくて小さくて、過去に抱かれたどの男性よりも優しさのある素敵な手だった。
私はその手を取り並んでセットへ、まず直立で四方から商品だけをしっかり写してマネキンと化す。
肩の継ぎ目やブラウスの襟の細工なども着たまま撮ってもらい、次はあっちと隣のセットへ移動する。
「古湊さんは個別撮らないんですか?」
「うん、僕のは製品じゃないから。ライムさんを魅せるための小道具だよ」
「そう」
大きなシャンデリアが吊り下がるお屋敷風のセット、菱形のビーズがタコの脚の様に連なって広がって…光を乱反射してそこかしこが電球色に照らされていた。
「やっぱりセピア調というか、茶系統にしたかったんだ」
「パーティー会場?」
「そんな感じ…そこから抜け出すみたいなイメージね」
「連れ出してくれるんですか」
「そう、僕がね」
シャンパングラスを持って反対の手を引かれれば琥珀色が跳ねてグラスから飛んで、
「お、ええ瞬間撮れた」
と吾妻さんは喜ぶ。
「こぼれちゃう」
「ごめん、でも躍動感あって良かったよね」
「キャンドル可愛い」
「見つめてみて」
シャッター音の中でどんどんとポーズを取っては古湊さんの顔が綻んでいく。
なるべく服を見せようと身体は正面を向いて、けれど顔は彼の方を向いて見つめ合った。
「これもアンニュイ?」
「うん、切ない感じ」
「パーティーから連れ出して」
「いけない関係かな…」
とろんと揺れる瞳に光とキャンドルの炎が写り込んで美しく燃える。
眩しくて目を閉じた瞬間…唇に柔らかいものが当たって体が固まってしまう。
「?」
「あ、ごめん…キスしちゃった」
「…驚いた」
「ごめん、訴えないで」
「…ムードにやられちゃったんですか」
別に嫌ではなくて、まぁ撮られていたのは恥ずかしかったけれど吾妻さんも良い顔をしてるしきっと良い画だったんだと思う。
仕事として唇を差し出すくらいなんてことはない。
その後は二人もっと密になって寄り添って…ダンスを踊っている雰囲気でポーズを取り終了した。
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