親指姫のアイデンティティ

茜琉ぴーたん

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Little me.

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 それから数日後にまた撮影があって、その帰りに私は古湊さんに連れられて喫茶店へと入った。
「これ、さっきの採寸メモね」
「…前より縮んでる」
「ん?身長?」
「はい…1ミリ…」
「そんなの誤差だよ。気にしない気にしない…」
彼はそう励ましてアイスコーヒーにポーションを垂らす。
 きっと古湊さんは体格のせいで苦渋を舐めた回数は女の私より多いんじゃないかな、勝手ながらそんな想像をした。
「SNSの方も評判良いんだよ、ほら」
「わぁ…」
 彼が見せてくれたタブレットには写真投稿アプリの画面、親指姫モチーフのあの写真やブランド名・洋服名のハッシュタグが並ぶ。
「この画像を見てURLをタップしてブランドサイトに飛んでくれる、立派なPRになってる…サイトの方も閲覧数はぐんぐん上がってるよ」
「へぇ…」
「…あんまり嬉しくない?」
「いえ、その…嬉しい、です…」
「良かった」
 成果が見えるとモチベーションも上がる。これは本業の方でも言われたことだけど、達成感があればやはり次へのやる気に繋がるし役に立てているという実感があり励みになる。
 もうひとつのSNSも見せてもらったがそちらも反応は上々、しかしスクロールで写真を見ていると私はあることに気付いた。
「……これ…は、私じゃないですね?」
 顔が写ってない首から下の全身写真、私が着た服だけどそのサイズ感というかモデルの体格は明らかに私ではない。
「うん、いつもたくさん同じ服が掛かってるでしょ?いろんな体型のモデルさんに着てもらってる。長身だったり小柄だったり、ぽっちゃり、あと標準体型」
「標準…」
 私って規格外なんだ、そう突き付けられた気がして画面から指を離し…タブレットをテーブルへ置いた。
「…なるべくたくさんの人に着てもらう商品だから、サイズ違いのサンプルとしてライムさん以外にも撮ってるよ。160センチ、170センチの人にも…なに、気になることがある?」
「いえ…やっぱ、150無いとか…需要少ないですよね」
「万人向けではないね、数値だと少数派だよ、成人女性なら……あ、ごめん、気に障ったなら謝るよ」
「…いえ」
 ちょっと認められて良い気になってたのか。
 あんまり悲劇のヒロイン面することは無いのだけれど私と同じデザインのワンピースからすらりと長い脚が伸びているのを見ると…小さな親指姫が急に惨めったらしく感じてしょうがない。
「メインモデルはライムさん、イメージそのまんまだから……ライムさん、身長はコンプレックス?」
「…少し、」
「そう…だよねぇ、いや僕もさ、155センチしか無いんだ。大丈夫だよ、女の子の低身長は可愛いからさ」
「わざとらしく卑下ひげしないで下さい」
「…うん…」
 アイスコーヒーをぐびぐび飲んで息をついて、古湊さんは
「ま、どうにもならないことは世の中いっぱいあるからね、僕も長身に生まれてたら人に舐められずに済んだだろうって悔しい気持ちは何度も感じてる」
と口の端を手の甲で拭う。
「でもさ、小柄に生まれたから細かい作業が得意なのかもって考えたら…これは強みだよね」
「…ええ」
「ブランドイメージに合った顔立ちと体格、これも武器だ」
 確かに端正で華奢きゃしゃで、ブランドとこれ以上なくマッチしたデザイナーだと思える。
 自分を使って商品をアピールできるならその宣伝効果は中々だろうし、「これがデザイナーです」とムキムキのマッチョマンが出てくるよりはイメージも良いのではないか。私はマッチョが出てきた方が面白いと思うけども。
「…はい」
「吾妻さんとね、親指姫のイメージの子を探そうって話でスカウトかけてたんだ。単純に小さい子を連れてくるとは思ってなかったけど…結果オーライ、ライムさんは僕の作った親指姫にピッタリの存在だった」
「……」
「自信持って、僕はライムさんの身長を伸ばしてあげることはできないけど、君に似合う服を着させてあげることはできる。まぁ普段使いの服じゃないけどさ、この仕事してる間だけでも…胸張って過ごしてくれると嬉しいよ」
「…はい、」
 返事をして熱くなった目頭を指で押さえると古湊さんはオロオロしてペーパーナプキンを数枚渡してくれて、
「こんなので拭けないです」
と言えば弱ったように笑った。
「すみません、私も卑屈になっちゃって…おごりが出てきちゃってるのかな」
「いいんじゃない、その170センチの子は普段はパンク系のブランドをメインでしてるんだ、だから親指姫は『こんなの着たくない』ってだいぶんごねたよ」
「へぇ…」
「それぞれに似合うものと着たいものがある、ライムさんは言ってみれば少数派だからサンプルにもまだ呼ばれてないけど…僕のスーツには是非小柄代表として参加して欲しいな」
「…似合うかな」
「似合うよ、僕はライムさんのイメージで作ってるから…似合わないはずがないよ」
「はい」

 チビ同士で傷を舐め合うなんて不憫なこと、けれど私を褒めてくれる彼の言葉は大きな励みになった。
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