親指姫のアイデンティティ

茜琉ぴーたん

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Past me, present me

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「さて…送って行くよ、大体の場所教えて」
「えーと…」
カーナビの明るい画面に指を置く、私は右利きだから身を乗り出せば左肩が彼の領域へと入る。
「……」
「えーと…」
 町名を押す指が震える、間違えて削除したつもりが前の画面まで戻ってしまう。
「どうしたの、落ち着いて」
と囁かれると背筋がびくんとうずいた。
「…あんまり見られると緊張して」
「あは、なにそれ…え、」
「……できた、お願いします」
「うん」


 車が自宅近くに到着するまで妙に気まずい空気は晴れなくて、私も古湊さんもぽつりぽつりと短い会話を繰り返しては黙ってしまう。
「…じゃあね、また次の撮影で」
「はい、ご馳走さまでした」
 そんな挨拶を交わせば大きな車は片側2車線の国道へと消えて行った。

「なんだろ…歳の差を意識したら急激に…んー?」
 私は特別老け専とか年上好きとかいう訳ではない。第一古湊さんは30代だし老けてもいない。
 それは財力とか仕事ぶりとか年齢を一気に誇示されて『頼りがい』がアップしたからなのか…と思うのだが、そうすると私はそれ以前の彼を舐めていたことにならないか。
 低身長で童顔で柔和なひと、私は自身の価値観で他人を測ったことに大層自己嫌悪した。
 そして私のカムアウトは都合の良い所だけ、男性に対しても『背が大きくなきゃ意味が無い』なんて考えを持っていたことは言うことができなかった。
 言えば彼は私に幻滅しただろう。生じかけた好意を弾けさせてしまうのが怖くて勿体無かったのだ。
 ただの付き合いのディナーではなくデート、パーソナルな情報もたくさん聞いたし笑顔が可愛らしかった。胸の底が熱くなりふつふつと好意が丸いあぶくになって沸いてくるような感じがする。

「これしきのことで…少女おとめじゃあるまいし…」

 入浴しても寝床に着いてもモヤモヤと古湊さんのことばかりが浮かんでしまう。
 別に何でもないのと言い聞かせながら目を閉じれば案の定彼の夢を見てしまうのだった。
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