9 / 35
Past me, present me
9
しおりを挟む高台の小洒落たレストラン、窓際の席からは海が見えて、でも夜だし何があるという訳ではないので侘しさもあった。
「昼間だともっと海はキレイなのかも」
「っぽいですね」
「何にする?送るから呑んでもいいよ」
「いえ、ソフトドリンクで…古湊さんと同じものでいいです」
「分かった…ではこれを」
彼は慣れた様子でオーダーしてから、鞄からタブレットを取り出して開く。
「さて…ライムさん、今日のスーツ、どうだった?着心地とか、嫌なところでもいいよ」
「え、えー…オーダーメイドだから寸法はピッタリでしたよ」
「色は?」
「もっと紫の濃いのとか好きです」
「なるほど、」
テーブルに炭酸水とアミューズが届いても質問は終わらなくて、私はちびちび摘みながらそれでもお上品に答えていった。
「まず新作コンペに…今日撮った写真を出す、ゴーサインが出たらもっとバリエーションつけて…色もデザインも…却下されてもイメージビジュアルとしてカタログの表紙狙えないかなーとか思ってる」
「古湊さんに決定権は無いんですか?」
「うん、広告は広報メインで決めてもらってる。商品化は他のデザイナーさんとかと一緒に…僕もアピールするけど多勢に無勢と言うか…社長権限はほぼ無い。……ライムさん、淡々としてるけど…結構評判いいんだよ?」
「あんまり実感無いので…」
まぁSNSの反響は以前見せてもらったから知っているけど。そもそもが着たい服のジャンルではないのでテンションはまずまずである。
「ロリータだとモデルさんも童顔とか揃えがちなんだけど、ライムさんはそこまでじゃないだろ?小柄でもね。評判次第では…ゴシックとクラシカルを分けて行きたいんだよね…アンティークとかヴィンテージとか、スチームパンクって分かるかな?あぁいうの好きなんだ」
「歯車とか」
「そう!セピアで茶色っぽい世界観…好きなんだ…ライムさんに似合うやつ」
「認められると良いですね」
「うん…美味しい?」
「はい、」
食べているのが何の肉かは分からないけど味は美味しい。
好みを語る古湊さんは少年っぽくて可愛らしかった。
けれど今夜のこのディナーは仕事の延長というところか、雰囲気で口付けたくらいでぽんと恋愛に発展してしまうほど私たちはお子様ではない。
「そういや…聞いてなかったですけど、古湊さんっておいくつなんですか」
「ん?んー…ライムさんより10は上だよ」
「…見えない…若気ですね」
「ベビーフェイスなんだ、はは…渋い大人になりたいけど…どうだろうね」
そう言って笑う目尻には年相応のシワが入る。
大人を意識すれば急に居た堪れないというか膝を合わせてモジモジしてしまった。
彼は私のことを少なからず好いてはくれているのだろう。
だとすれば言っておかねばスッキリしないような気がして…
「この前体型の話をしてから思い起こしたんですけど、私、今はこんなですけど…つい去年くらいまでは、マウント女だったんです」
と過去の過ちを切り出す。
「…体型の?」
「ええ。職場の長身モデル体型の上司に小柄アピールして、嫌な態度取っちゃって…でもその人が正してくれて…今私が淡々としてるのはその反動というか…まぁこれが素なんですけどね」
「そう、でも自分に自信持つのは良いことだね」
「けど背の高い人や太った人を貶しちゃってたんです、良くないことをしてました」
炭酸水の泡がグラスの底からしゅわしゅわ浮いてくるのをぼうっと眺めて、次の料理の皿が置かれるとその振動で溜まっていた泡が一気に水面へと昇っていった。
「悔やんでるんなら…良いんじゃない?切り替えて前向いて行こうよ」
新しいナイフとフォークを手にした古湊さんがポツリと呟く。
「はい」
「過去にそういうモデルがいたけど現場の雰囲気が悪くなって困ったもんだよ、もしライムさんが他のモデルさんを貶すような人ならここまで重用してないだろうね…僕も吾妻さんも、写真の出来と現場の雰囲気を両立させたいタイプだから。そういう点でも、吾妻さんの眼は間違ってなかったってことだね、こうしてデートまでしてくれて僕は嬉しい」
「デート」
やっぱりデートなんだ、ほんのりとした好意は案外くっきりしてるのかな、私もシルバーを手に温かい料理を摘んだ。
和やかに食事をしてテラスで暗い海を眺めつつデザートをいただいて…分かっていたけど「誘ったんだから僕が払うよ」と割り勘は拒否された。
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる