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Little princess
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しおりを挟むそして結婚生活についてだが…夫は一緒に暮らしてみると予想通りというか金に任せた家事をする人で、それ自体は構わないけれど「できることは自分でしたい」と申し出るとあっさり方針を転換してくれた。
毎日来てもらっていたハウスメイドさんは週2まで減らして私が引き継いで、その代わり来てもらった日は家のことをしてもらっている間にデートしたり買い物を済ませたりと贅沢な奥さまをさせてもらっている。
産後はまた毎日お願いするだろうけどその時々で変えていけば良い、必要に応じてシッターでも何でも雇いたいとのことだ。
そこそこの料理を提供して褒めてもらい夜は夜で可愛がられて、大きな苦労も無く幸せな日々。
でも私は知っている、マンションのボスママ的なグループから『チビセレブ』と揶揄されていることを。きっと妬ましいんだろうと放っているが、あまりに腹に据えかねると私の心の黒いところが暴れ出して喧嘩を買ってしまうかもしれない。
いつでもどこでも面倒ね、これがチビじゃなかったら巻き込まれずに済んだのかな、まだ私に余裕があるうちに、そして夫が気付いて本気で怒る前に鎮火して欲しいものだと静観中だ。
さて、変わりゆく環境の中でもうひとつ変わること、
「……寂しくなるね、先生が辞めちゃうと…」
所長はため息をついて私の最後の片付けを見守る。
本日16時の終業で教室との契約を終えるのだ。
派遣元に籍は残しておくが戻って来るかどうかは決めていない。
「お世話になりました…ご迷惑おかけしてすみませんでした」
「良いよ、今はこんなに仲良く出来てるんだもん…しばらくは主婦する感じ?」
「そうですね、今後のことはぼちぼちって感じで…」
「うん、またご縁があれば戻って来てね…私も臨月まで働くから、機会があれば赤ちゃん見せに来てね」
「はい」
これまでで一番長く働いたこの職場、時計の針が天辺へと近付き出すと胸がどきどきと騒めいて瞬きが増えてくる。
来訪者も無くやはりさっきで講義は終わっていたのだ。残り5分を切ったらロッカーやペン立てを確認して私物が無いかもう一度見て回った。
後任の講師に引き継ぎは済ませてある、受講者さんの進捗も細かく資料に書き残した。
よし時間だ、教室の鍵を握りハンドバッグひとつで外へ出る。
「先生、お疲れさま」
「所長もお元気で」
「やだなぁ、お客さんとして来てよ。メイデンの事務所は法人会員様なんだから」
「そうなんですか、知らなかった…」
別れ際の不自然な会話、このまま振り返らず帰っても良かったのだけど所長には伝えておかねばならないと思い泳ぐ目を彼女へ向けた。
「所長、その…私ね、所長に感謝してます」
「え?なんで?」
「私が嫌がらせした時、『小さくて可愛いでしょ』って主張した時…違うって言ってくれた。『小さいから可愛いんじゃない』って…あれ、すごく響いたの。小柄なのがコンプレックスで…でも利用してたから」
「うん、体型は関係なく可愛いと思ったよ」
「考え方が変わって…モデルとかもして…それでね、回帰した訳じゃないんだけど…やっぱり私、小さいから私なの。小さくて可愛いの」
「言うね」
「うん。コンプレックスだけど、アイデンティティなの、小さいから私だったの」
「それが見つかったってこと?」
「そう。でももう他者と比べて可愛さをアピールしたりしない。私は私の可愛さに自信持って…他の人を貶めて自分を可愛く見せるようなことは絶対しない」
「うん」
「でもケンカ売られたらするかもしれないけど」
「しない方がいいね……うん、私がきっかけで…旦那さんが自信を持たせてくれたのかな?」
「そういう…こと。所長、また…会いに来ます」
「うん、またね」
重たい体を揺らしてワンピースの裾を翻す、法人カウンターからは私が置いた鍵を片付ける音が聞こえた。
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