親指姫のアイデンティティ

茜琉ぴーたん

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I can be a maiden forever.

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「今日はよろしくお願いします」
迎えに出て来た式場のスタッフさんに向けて、咲也さんはペコリと頭を下げる。
 そして今回の担当なのだろうプランナーさんは私を見て
「まぁ、お可愛らしい…伺ってた通りです、本当にお人形さんのようですわ」
とお世辞以上の賛辞をくれた。
「…どうもぉ」
「打ち合わせは全部僕が来てたからね、ラムさんの良い所をたくさんアピールしておいたんだ」
「やめて下さいよ」
 痴話喧嘩をしているとスタッフさんは「ゲストの皆さまもガーデンにてお待ちですよ」と奥の芝生広場へと誘導する。
 ゲスト?そうかファンの方たちか、またばくばくと高鳴った心臓にビビって足が止まると咲也さんが「ほら」と腕を差し出して掴むよう促した。

「…やっぱり緊張、する」
「初めての撮影でもカメラに物怖じしなかったラムさんが?」
「認められなかったら、どうしよう、私なんかがメイデンのコミーさんと一緒に、なんて、」
 ガーデン横の控え室の小窓からは緑の芝生と白やピンクの華やかなロリータさん達が見えた。
 彼女たちからもし敵意を向けられたら私はとてもここに居られない。彼女たちは人と少し違う格好でも己の『可愛い』に自信を持つ芯のある人達のはず、そんな中にロリータに関心も無くただ小さいだけのぽっと出モデルが放り込まれたら…著しく目が渇いて私は視界を閉ざした。
 まずブランドのモデルとして市民権を得てからの方が良かったのでは、この撮影会のせいでファンが減り売上げが落ちてしまったらどうしよう。
 ていうか結婚とかマジなの、せっかくのメイクは崩したくないと涙を堪えるも我慢できそうにない。
「他人の評価を気にするなんて……ごめん、準備させてあげるべきだった…大丈夫。僕が隣に居る……ごめんねぇ、ラムさんが取り乱すところも見たくて仕方なかったんだ」
「…ひどい」
「…ほら涙が引いただろ?ふふっ…君は本番に強い。今日来てくれてるのは良い人達ばかりだよ……さぁ行こう、僕がすることに乗ってくれればいいから。お願いします!」
「待って、まだ、」

 ロビーとガーデンとの間の扉が開放されれば群衆の目が一斉にこちらを向く。
 黄色い声がわぁっと上がって静かになって、濃い陰から咲也さんが姿を見せるとまた場が沸いた。
 そしてその隣の私にも注がれる熱い視線、スタジオに居る時のようなアンニュイな表情を作ってみるも目線が泳いで気が気でない。
 ガーデンの中央まで寄り添い歩いてみたが浴びる歓声はきっと私へのものではない。
「(お呼びじゃない…咲也さん…)」
 目で「帰りたい」と訴えるも咲也さんは取り合ってくれなくて、こんな針のむしろで過ごさねばならない自分の業を今一度思い知る。
 あの子はひょろっと背が高くて女性らしくない、あっちの子は横幅が私の2倍くらいね、これまで私がそんな風に自分と比較しておとしめてきた集合体から責められている気分に動悸がした。

「それでは、始めましょう」
開会にあたりロリータの中から1人代表が前へ出る。
「コミーさま、本日はおめでとうございます。このような場にわたくしたちもお呼びいただけて光栄至極に存じますわ」
 歳は30代前半くらいだろうか、相応かそうでないかと聞かれれば後者の彼女は白地に赤い花刺繍のワンピースセットを頭も足元もひと揃い着用していた。
「ありがとう」
「少し自己紹介をよろしいですか?」
「あぁ」
「すみません……ライムさま、私たちの前にお出になるのは初めてでございますわね、はじめまして、私はこの場の主催、コミーさまの私設ファンクラブを運営しております『フラウ』と申します」
 確かに咲也さんのファンクラブがあるのは知っている、なるほど彼女たちは私に興味は無く彼目当てで集まっている訳だ。
 私に発言の機会が回って来れば皆がこちらへ刮目かつもくする。これまでオフ会のお知らせは聞いていたが参加を見合わせていたので彼女たちは私の声も耳にしたことが無い。
「主催…」
「えぇ、コミーさまから直接ご連絡を頂きましてね、結婚報告とオフ会をできないかということで…喜んで企画させて頂きましたの」
「…はぁ」
 たぶん私のリアクションは間違っているのかも、愛想の薄い返事では私の印象評価はだだ下がりしているように感じた。
 でも「まぁ嬉しい!」なんて喜べる感性を持っていないのだから仕方ない。承認欲求はあるけれど直接衆目に晒されることに快感は無い。
「…コミーさまはブランド創設時から私たちにたくさんのときめきを下さった言わば神様のような存在ですの、ですからそのコミーさまのご結婚となればファン総出でお祝いしたかったんですのよ」
「へぇ」
「けれどライムさまがモデルとして登場されてまだ1年足らず、ファンの中にはライムさまの人柄ひととなりがわからないと不安に思っている者もおります。そこで今回の会を通じて、ライムさまがどんな方か…見届けたかったんですの、厚かましいファンとお思いかもしれませんが、どうか楽しんで頂けると嬉しいですわ」
「はぁ…」
 数人の眉が可愛らしい格好と裏腹に険しくなるのが見てとれた。こんな塩対応の女が憧れの神をさらっていくなんて堪え難いのだろう。
 澄ました女よりキャピキャピしてる方が良いのか。
 でも好きな男性芸能人の熱愛発覚で相手の女性がぶりっ子タイプだった時に共々えらく好感度下げてた事例も見たしなぁ…私の目が泳ぎ唇が震え出せば、やっと新郎が助けに入る。
「ごめんね、ライムさんはこんな…あんまり感情が表に出にくいんだ。初めての撮影の時だってこんな感じでね」
「あぁ、親指姫ですわね、あれはお可愛らしかったですわ」
「そう、何も言わずにスカウトしちゃったからね、撮影のセットを見ても企画が分かんなくてね、彼女『一寸法師ですか?』ってね、僕それで心掴まれちゃって」
「まぁ♡」
 人のドジっ子エピソードで笑いを取らないでよ、しかしカァと耳まで赤くなると周囲の反応が少し柔らかくなった気がした。
「ほら、天然というか淡々としてる中に驚いたり照れたりするこのギャップが良いんだ」
「この表情は写真では見られませんわね」
「でしょう、僕だけの特権にしたかったんだけどね、みんなにもお裾分けしたくなっちゃって」
「あらあら♡」
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