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I can be a maiden forever.
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しおりを挟むそこからは一気に和やかムードになって、私も彼女たちから質問を受けたり握手を求められたりと忙しくなる。
「ライムさまの親指姫、私好きでラミネートして飾ってますのよ」
「あ、そんなに…どうも」
「てっきりクールな方だと思ってましたわ、ホワイトロリータなどはお召しになりませんの?」
「あの、私、メインのロリータが似合わなくって…それでこう、アンティークの方に」
「そうなんですの?お顔の系統かしら、でも確かにセピア調のお洋服はどれもお似合いですものね」
「あ、ありがとう…ございます…」
褒められれば褒められるほど染まる頬、こんなに人様から賞賛されるなんて生まれた時以来じゃないか。
頭から湯気が上がりそうになった頃に咲也さんが合図をして、ガーデンへ金と銀の風船がたくさん運び込まれた。
「ライムさん、こちらへ」
「は、はい?」
芝生のガーデンの端にはアーチを組み合わせた小さなドームが建っていて、見上げれば中央には小ぶりな鐘と鳴らすための紐が下がっている。
階段を2段ほど上がって皆より小高くなったそのステージの真ん中、私の手を離した咲也さんは脱帽してその場に片膝をついた。
「え、あの、」
「ライムさん、結婚して下さい」
差し出されたのはほんのりピンク色の可愛い指輪とバインダーに挟まれた宣誓書。
うわぁマジなやつだ、ていうか恥ずかしい、ぐるぐると色んな事が頭を過っては口がぱくぱくと金魚のように開閉する。
「ダメかな?ライムさん」
「え、いや、ダメじゃないけど」
予告されていたし察してもいたけどこんな見世物にされると困ってしまう。
群衆の中にはカメラを構えた吾妻さんが紛れていて、目元を歪め「止めさせてよ」とアイコンタクトを送るも知らんぷりされた。
「ね、ライムさん♡」
「す、すぐ決めなきゃダメ?」
「うん。淡々としたライムさんの心を乱すにはこれぐらいしなきゃなって思ってたんだ、この状況で断れる?」
「やば」
見守るファンたち、ここで塩対応を見せれば彼女たちは一斉にアンチに転じてブランドそのものの危機になったりするかしら、背負わなくても良いことを勝手に背負わせる彼が憎い。
けれど
「君を僕だけのものにしたい」
と笑うその顔は悪そうででも化粧のせいか幻想的で…
「は、い、」
と彼の唇がそう動くものだから誘導されて私も同じ動きになってしまう。
「(は、い、)」
「よし言ったよ、成立だ♡」
わぁっと上がる歓声、眩しく焚かれるフラッシュ、咲也さんは視界が真っ白になった私の手を引いてゆっくり歩き出し鐘の下へと進んだ。
この判断は正解?後悔しない?紐を握らされ居た堪れない気持ちで表情が暗くなる私に
「ライムちゃん、いつもの感じでええで!」
と吾妻さんの声が届いた。
「……吾妻さん」
「ええよ、ほらその顔や」
「……ふー…」
ため息を吐いて脱力する、目線は外していつもの『ライム』を作る。
けれど
「ライムちゃん、白いチャペルと青空が似合わへんな!」
「呼び出しておいてそれはなくない?…ふふっ」
スタジオでは浴びない自然の太陽光は、私たちには少しちぐはぐだったらしい。
「ライムさん、どう?みんな見てる」
「咲也さん、自己顕示欲すごい」
「ライムさんを見てるんだ、ゾクゾクしないか?注目の的だ」
「…してる」
「濡れない?」
「……濡れちゃう」
私たちはヒソヒソとそんな話をして鐘を鳴らした。
そこから咲也さん希望のチャペル撮影、バージンロードの両脇にみっちり白やピンクのロリータちゃんが詰め込まれた様子は圧巻。
吾妻さんも実に楽しそうにシャッターを切る。
「ステンドグラスの色味がよう合うてる、ええな、古湊くん!これそのまま表紙にできるわ」
「あは、それ良いですね」
ステンドグラスを通したカラフルな光が私のドレスを染めて、いかにも結婚式と言うようなイメージカットをさくさくと撮影した。
他のモデルさんも合流し撮影会をして皆と握手をして、ささやかな食事をして。
時間が来ると大量のロリータちゃんはバスへ乗り駅へと送り出されて行った。
・
「フラウさん、今日はありがとう」
「いいえ、こちらこそ…幸せをありがとうございます」
主催の彼女は持ち込んだ装飾品を集めて片付け、心から幸福そうに目尻を下げれば生きてきた年月の証の線が何本かきゅっと濃くなる。
そこに感じるのは着ている服とのギャップ、年増と言えば可哀想だけどメイデンのメインターゲットではおそらく無い。お姉さんラインの『フラウ』がピッタリ来る世代なのだろう。
「まだまだ頑張って…可愛い服を作るからね」
「はい……正直ね、私ももう歳だしロリータも似合わなくなってくるでしょう、でも新しいお洋服のラインもできたし…それが『フラウ』って私のハンドルネームと一緒、これは運命かって思いましたわ」
「実はちょっと狙ったんだ」
「あら、そうですの?こんな嬉しいことはありませんわ…ライムさま、私は普段は母であり会社員ですの。ですから活動的かつフェミニンなブラウスが発売されて本当に…働くモチベーションというか…テンションが上がりますの、ちょっと鏡とか覗いた時にね。…エミルダさまもモデル復帰された、未来に希望が見えましたの…もっと歳を取っても『ウィズユー』の世代になっても……好きな服とまだ付き合って行ける、私、まだまだ乙女でいられますわ」
本当は誰に気兼ねすることなく好きな格好で歩くのが良い、けれど必ずしもそれができる環境ばかりではない。自分を貫き通すのも強さ、そして諦めるのもまた強さだ。
けれど私のこれまでの行動はフラウさんに乙女の道を歩き続けられる可能性をもたらしたようだ。40代、50代になっても好きな服を着られる喜びは彼女にとって何よりの幸福らしい。
「企画発案はライムさんなんだ、エミルダを現場に連れ戻したのもね」
「まぁ、そうだったんですの」
「うん…彼女は救世主みたいな…ブランドにとっても大切な存在になったよ」
「私たちにとっても…大切なお姫様ですわ…ありがとうございます」
もう私は照れて言葉も出なかった。
後ろを通り過ぎるエミルダさんがポンと肩を叩いて建物へ戻って行く、その後ろ姿は背筋が伸びていて強かで、けれど可憐だった。
彼女が着ているのはそのオフィス向けの『フラウ』のスカートスーツセット、よく見れば分かるという部分にブランドロゴを入れたり花の刺繍をあしらったりと趣向が凝らしてある。
まぁパーティーだというのにドレスで来なかったのは彼女なりの意地か副社長としての矜持なのか。スカートのスリットから伸びる脚はやはり長くて美しかった。
「それでは、私は持ち込み品を回収してから帰りますわ」
フラウさんへ目線を戻せば会釈して片付けに入るところで、ペコリと頭を下げると疲れか安心したからかじんわり目頭が熱くなってくる。
「ラムさん、お姫様だって」
「…どうせ親指姫でしょう」
「あはは……シンデレラとかもいいよね、今度そういうモチーフのワンピースも作ろうね」
「…嬉しい」
素直な感想が出たのが珍しいのか咲也さんは一瞬ぽかんと驚いて、私の腰を抱きダンスのように右手を取った。
「今回のこのドレスもね、簡略化したものを売り出そうかと思ってる。オプションで組み替えて…でもオーダーメイド、自分だけのドレス」
「商魂たくましい」
これと同じ物を他の人も持てるなんて妬いちゃうな、けれどこの幸せを皆にも分けてあげたいのも事実。
揺れる裾のレースを押さえて玄関口へと足を向けると吾妻さんのカメラがまた私たちを押さえる。
「ええ表情やで」
「たくさん集まってくれてたね、皆オシャレしてくれてた…作り手冥利に尽きるとはこのことだよ、ねぇ吾妻さん」
「ほんまにな、俺らが撮った写真見て『欲しい』て思うてくれんねや、嬉しいことやで」
「…きちんと言ってなかったけど、吾妻さんがラムさんをスカウトしてくれたおかげで僕らは出逢うことができた、ありがとうございます」
「なんや、やめてぇな水臭い…いや、幸せになりや」
相変わらず怪しい風貌の吾妻さんは髭ぼうぼうの顎をポリポリ掻いて、けれど今までで一番優しい笑顔をくれた。
彼があの日街で私を見つけてくれなかったら今の私は居ないのだ。
そう考えるとあの時走って逃げたりしなくて良かったなぁとじわじわ思い出して私も笑みが溢れる。
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