備後の神の縁結び

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
48 / 64
初体験編

43

しおりを挟む

 そして秋も深まり全国的な学祭シーズンが到来、渉は家中のアラーム機能が付いた時計を枕元へ集めて早起きし、始発で京都へと向かう。
 新幹線の中ではスーツのビジネスマンに混じって少し眠り、胸ポケットに入れておいた携帯電話のバイブレータに起こされ、無事に京都駅で下車することができた。
 いつも落ち合う神戸に負けず劣らずの大きな街、しかしいにしえの都の空気は田舎育ちの渉には妙に落ち着くものがある。この街で千鶴は暮らしているのだな、大学祭の開始時間にはまだ余裕があったために渉は大学まで歩くことにした。

 碁盤の目に張り巡らされた道路、大きな寺社仏閣、ほぅと感心しつつ進めば30分もかからず大学前に到着した。
 ちょうど開門されたので父兄らしき客に紛れて入場すればそこは華やかな世界、渉はパンフレットを受付で貰って千鶴はどこかと推察する。
 学部に当たりをつけて建物内の展示コーナーへ出向き、キョロキョロと見回しても彼女は居なかった。ならば出店かと飲食ブースに行くも見当たらず、渉はとりあえず腹が減ったのでフライドポテトを買い中央広場の階段の隅に座ってもくもくと頬張る。
「(町中まちじゅうの女子を集めたんか言うくらい…ええ眺めじゃな…)」
 当たり前だが女子大だけあって出店もステージでの出し物も女子だけで運営されており、客も多くは当番外の学生や保護者がほとんどだった。しかしその中には自分たちと同じかもう少し上くらいの男子も混じっていて、学生の彼氏だったらまだ可愛いのだが明らかに女漁りに来たような集団も居たりして…渉はざわざわと心が騒ぐ。
「(チィ…ナンパとかされとらんか…どこな、チィ…)」

 あくまでサプライズにこだわる渉はシフトなど考えもせず展示コーナーと出店を何回も行き来し、正午を回った頃遂に女性職員から「何の御用ですか」と注意を受けてしまった。
「あ、いや、人を探してまして、」
「生徒のご家族の方ですか?」
「家族…と言えばそうなんじゃけど…は、花山はなやま千鶴の…こ、婚約者なんじゃ」
「あら、花山さんの?」
 女性の顔色が変わるや否や聞き耳を立てていた女生徒が集まり、
「え、ちーちゃんの彼氏さん?大っきいですね、」
「婚約者って結婚がもう決まってるの?うわぁ♡」
「ちーちゃんって何番だっけ?あ、もうすぐ来ますよ」
と口々に質問やら情報やらをくれる。

 そして数分後に
「代わりまーす」
と千鶴が入館して来た時には渉は女生徒に囲まれ書道体験コーナーに座っており、昔取った杵柄きねづかとでも言うのかどこかで読んだようなポエムをしたためて拍手を受けていた。
「なに……わ、渉くん⁉︎」
「おぅ、チィ!来たど!」
「いつ来たの?なんで、聞いてない」
「サプライズよ、驚いたか」
「驚くよ、何がサプライズなの」
「その顔が見とうてな」
「何を言って……なんでみんなニヤニヤしてるの」
 友人たちは普段の千鶴のデレた雰囲気と渉への少々ツンな態度にいろいろ察し、「彼氏の前では素直じゃないのね」と乙女心を勝手に読んではニヤつきが止まらない。
「チィ、当番はいつまでじゃ?一緒に回れるか?」
「え、1時間だから13時には終わるけど…」
「ほんなら待つわ、外プラプラしてくるわ、ちーちゃん♡」
「何がちーちゃんよ……うん、またね…」
 これは何か吹き込まれているな、千鶴は来たばかりだというのにため息が止まらず疲労感で背中が曲がる。

「渉さん、これどうぞー」
「おぉ、こりゃええのぅ!」
 書道担当の生徒は乾いたポエムを色画用紙に貼り記念として持たせてくれ、渉はそれをリュックに入れて外の出店を数件回って時間を潰した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...