2 / 2
2
しおりを挟む
季節は秋、まだ紅葉には早い10月某日。本日は大吾くんとのデートである。
共に実家暮らしな私たちはイチャイチャするには場所が無く、どうしてもラブホテルを使うことになる。それ以外にも選択肢は探せばあるのだが、結局セックスをするのなら専門の施設が至れり尽くせりで都合が良いのだ。
ホテルに来てセックスしない日もあるけれど、アクセスや費用の面でもネットカフェより過ごしやすい。寄り添ってコロコロ転がってお話をして、をしたいのでベッドはマストなのである。
双方の仕事終わりに待ち合わせて適当にご飯を買って、私の車で郊外のホテルへと向かうのだ。終電も気にしなくて良い、たっぷり愛し合って翌日も休みなら一緒に過ごせる、この上ない最高の週末になる。
学生の頃はレジャーやテーマパークデートももちろんした。でも今は双方の休みが合わなかったり連休が取れなかったりと遠出が難しい。だったら移動時間を費やすよりも、前乗りで長時間二人きりになれる方が楽しい。
なので私は車にお泊まりセットを常備しており、仕事終わりの大吾くんを拾うのがお決まりになっていた。
ドライブだし旅行みたいで楽しい、なのに今夜の大吾くんはずぅんと気分が下がっているように見えた。落ち着かないというか気が張ってるというのか、久々のデートなのに気が休まらないようだ。
「大吾くん、スマホ鳴ってる」
「ん、メッセージかな…」
スマートフォンの通知を確認した彼は、ついついと画面をスクロールして何か返信して、すぐに画面を消した。
「…前にも来た部屋だね、大吾くん、ここ座ってご飯食べよう」
「うん…」
「じゃ、大吾くんおかえり、出張お疲れさま、頂きます、」
「頂きます…」
明日は休日だから私はお泊まりにワクワクしているのだが、彼の表情は固い。
大吾くんは会社の本丸である営業本部に所属している。商品企画部やマーケティング部などの部署をまとめて"営業本部"と呼ぶらしく、それぞれが大所帯なのだという。彼はその中でも店舗企画部という部門におり、全国の店舗のフロア設計と管理を担当している。
グループを含めれば千を超える店舗数のため、あっちが終われば次はこっち、と常に同時進行でプランを立てて忙しい。古参店舗の改装と新規店舗の着工も同時進行、現地に赴き始終を確認しては運用開始まで張り付き見守らねばならない。
実働は委託業者だとしてもフロアマップを手に監督して店舗管理職に指示を出して。什器の並びや動線を確認、商品ひとつの配置まで本部と中継しつつ店を創り上げていく。
長期計画でプランを練って店舗に通達をし、改装オープンを見届けたら本部へと戻り経過を確認して。休みを数日まとめて取ったらまた次の設計へ、の繰り返しだ。
今年は大きな運営改革があり、大規模な店舗改装計画が持ち上がったそうだ。なので店舗企画部は大童、通常よりもギュッとタイトなスケジュールで全国の店舗管理に追われている。
月に1週間は出張で泊まり込み、移動時間も長く大吾くんは常に疲れているのだ。あらかたの大型店舗が改装し終われば次は中規模店舗、全てが終わる頃にはまた次の運営方針が発表される。毎回がこうではないらしい、先輩社員に聞けば「こんなに忙しいのは初めてだよ、双葉くんは引きが良いね」と冗談を言われたそう。
ともかく改装ラッシュが済めば気が休まるそうだが…現場での実務に慣れない大吾くんは疲労困憊で今日のデートに臨んでいる。
「お、美味しいね、ね、」
「うん…なーちゃんと食べるご飯は美味しい…これが出先の夜食で出て来たら泣いちゃうなぁ」
コンビニおにぎりでこの感動、最近の大吾くんはめっきり社畜が板に付いている。
彼は元々が優等生タイプで賢くてカッコよかったのだが、働き出してからは少し気弱になってしまったように思う。なんでも、大学院まで出たのに一般企業に入社したことに負い目があるらしい。
大吾くんのお家は教員家系で、彼も当然教師になることを期待されていたのだと。彼はその仕事にそこまで関心を持てず、志なく目指せるものではないと一般就職を選んだ。
彼の親御さんは彼を責めたりはしない、私も昔からお世話になっているのでお人柄はよく分かっているつもりだ。大吾くんは勝手に肩身の狭さを感じ、勝手に塞ぎ込んでいるだけなのだ。
全国展開で業界ナンバーワンの家電量販店の本社勤務なのだから誇れば良いのに、なんて一介の保育士である私は羨ましく感じる。
ちなみにだが、彼の勤め先は決してブラックではない。繁忙期と閑散期の振れ幅が大きいだけで、基本は契約上の定時で帰れる。
忙しいと言われる決算前でさえ、最大でも22時までの残業しか許されていない。これを遅いと取るか早いと取るかは個人差があるだろうが、残業時間の累計も厳しく管理されているので、あくまで最大でという話だ。
作業が終わればさっさと退勤、残っていれば手分けして片付ける。ただ現場はオフィスと違って作業の進み具合で解散時間も変わってくるし、業者さんの拘束時間なども考えつつだと非常に気を使うそうだ。
そして厳しい上司も居るには居るが、それはどこでも同じだろう。それなりに叱られたりしているそうで、たまに愚痴も出る。
しかし大吾くんが気にしているのはどちらかと言えば戦力に足りない自分自身の不甲斐なさ、なのだそう。
慎重派で確認作業を怠らない彼は、仕事も丁寧でミスは無い。けれど歴戦の先輩方を前にしては確認作業もゆっくりになるらしく、そこで仕事量の差が出るのだと。急いでミスがあるより断然マシだからむしろ慎重なくらいが良いのでは、しかし彼は歯痒くて堪らないそうだ。
学業でつまずくことが無かった大吾くんは、実力で追い付かないことに初めて直面して焦っているのだ。別部署との連携に手こずったり納期ギリギリになったり…年齢の割に勤続年数が短いことも恥ずかしく感じたりするらしく、とにかく色んなことを考え過ぎて気負い過ぎている。
共に実家暮らしな私たちはイチャイチャするには場所が無く、どうしてもラブホテルを使うことになる。それ以外にも選択肢は探せばあるのだが、結局セックスをするのなら専門の施設が至れり尽くせりで都合が良いのだ。
ホテルに来てセックスしない日もあるけれど、アクセスや費用の面でもネットカフェより過ごしやすい。寄り添ってコロコロ転がってお話をして、をしたいのでベッドはマストなのである。
双方の仕事終わりに待ち合わせて適当にご飯を買って、私の車で郊外のホテルへと向かうのだ。終電も気にしなくて良い、たっぷり愛し合って翌日も休みなら一緒に過ごせる、この上ない最高の週末になる。
学生の頃はレジャーやテーマパークデートももちろんした。でも今は双方の休みが合わなかったり連休が取れなかったりと遠出が難しい。だったら移動時間を費やすよりも、前乗りで長時間二人きりになれる方が楽しい。
なので私は車にお泊まりセットを常備しており、仕事終わりの大吾くんを拾うのがお決まりになっていた。
ドライブだし旅行みたいで楽しい、なのに今夜の大吾くんはずぅんと気分が下がっているように見えた。落ち着かないというか気が張ってるというのか、久々のデートなのに気が休まらないようだ。
「大吾くん、スマホ鳴ってる」
「ん、メッセージかな…」
スマートフォンの通知を確認した彼は、ついついと画面をスクロールして何か返信して、すぐに画面を消した。
「…前にも来た部屋だね、大吾くん、ここ座ってご飯食べよう」
「うん…」
「じゃ、大吾くんおかえり、出張お疲れさま、頂きます、」
「頂きます…」
明日は休日だから私はお泊まりにワクワクしているのだが、彼の表情は固い。
大吾くんは会社の本丸である営業本部に所属している。商品企画部やマーケティング部などの部署をまとめて"営業本部"と呼ぶらしく、それぞれが大所帯なのだという。彼はその中でも店舗企画部という部門におり、全国の店舗のフロア設計と管理を担当している。
グループを含めれば千を超える店舗数のため、あっちが終われば次はこっち、と常に同時進行でプランを立てて忙しい。古参店舗の改装と新規店舗の着工も同時進行、現地に赴き始終を確認しては運用開始まで張り付き見守らねばならない。
実働は委託業者だとしてもフロアマップを手に監督して店舗管理職に指示を出して。什器の並びや動線を確認、商品ひとつの配置まで本部と中継しつつ店を創り上げていく。
長期計画でプランを練って店舗に通達をし、改装オープンを見届けたら本部へと戻り経過を確認して。休みを数日まとめて取ったらまた次の設計へ、の繰り返しだ。
今年は大きな運営改革があり、大規模な店舗改装計画が持ち上がったそうだ。なので店舗企画部は大童、通常よりもギュッとタイトなスケジュールで全国の店舗管理に追われている。
月に1週間は出張で泊まり込み、移動時間も長く大吾くんは常に疲れているのだ。あらかたの大型店舗が改装し終われば次は中規模店舗、全てが終わる頃にはまた次の運営方針が発表される。毎回がこうではないらしい、先輩社員に聞けば「こんなに忙しいのは初めてだよ、双葉くんは引きが良いね」と冗談を言われたそう。
ともかく改装ラッシュが済めば気が休まるそうだが…現場での実務に慣れない大吾くんは疲労困憊で今日のデートに臨んでいる。
「お、美味しいね、ね、」
「うん…なーちゃんと食べるご飯は美味しい…これが出先の夜食で出て来たら泣いちゃうなぁ」
コンビニおにぎりでこの感動、最近の大吾くんはめっきり社畜が板に付いている。
彼は元々が優等生タイプで賢くてカッコよかったのだが、働き出してからは少し気弱になってしまったように思う。なんでも、大学院まで出たのに一般企業に入社したことに負い目があるらしい。
大吾くんのお家は教員家系で、彼も当然教師になることを期待されていたのだと。彼はその仕事にそこまで関心を持てず、志なく目指せるものではないと一般就職を選んだ。
彼の親御さんは彼を責めたりはしない、私も昔からお世話になっているのでお人柄はよく分かっているつもりだ。大吾くんは勝手に肩身の狭さを感じ、勝手に塞ぎ込んでいるだけなのだ。
全国展開で業界ナンバーワンの家電量販店の本社勤務なのだから誇れば良いのに、なんて一介の保育士である私は羨ましく感じる。
ちなみにだが、彼の勤め先は決してブラックではない。繁忙期と閑散期の振れ幅が大きいだけで、基本は契約上の定時で帰れる。
忙しいと言われる決算前でさえ、最大でも22時までの残業しか許されていない。これを遅いと取るか早いと取るかは個人差があるだろうが、残業時間の累計も厳しく管理されているので、あくまで最大でという話だ。
作業が終わればさっさと退勤、残っていれば手分けして片付ける。ただ現場はオフィスと違って作業の進み具合で解散時間も変わってくるし、業者さんの拘束時間なども考えつつだと非常に気を使うそうだ。
そして厳しい上司も居るには居るが、それはどこでも同じだろう。それなりに叱られたりしているそうで、たまに愚痴も出る。
しかし大吾くんが気にしているのはどちらかと言えば戦力に足りない自分自身の不甲斐なさ、なのだそう。
慎重派で確認作業を怠らない彼は、仕事も丁寧でミスは無い。けれど歴戦の先輩方を前にしては確認作業もゆっくりになるらしく、そこで仕事量の差が出るのだと。急いでミスがあるより断然マシだからむしろ慎重なくらいが良いのでは、しかし彼は歯痒くて堪らないそうだ。
学業でつまずくことが無かった大吾くんは、実力で追い付かないことに初めて直面して焦っているのだ。別部署との連携に手こずったり納期ギリギリになったり…年齢の割に勤続年数が短いことも恥ずかしく感じたりするらしく、とにかく色んなことを考え過ぎて気負い過ぎている。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる