不思議なカレラ

酸化酸素

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第二節 The Primery Take

第63話 Midnight Strangers Ⅰ

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現時刻………22:00
場所………アワキア町郊外、エサガイーム湖周辺

「遅いいぃッ!」
「もうッ!とっくに時間は過ぎてるじゃないッ!とっとと始めてくれないかしら?」
「こんな所で潜んでる身にもなって欲しいものよねッ!」

 少女はどうやらご立腹の様子だ。マムから貰った依頼書には「18:00頃に、この地で闇取引がある」といった告発文めいた内容が書かれていた。それ故に、イグスタ市から急ぎセブンティーンを疾走はしらせ(実際に疾走はしらせたのは自立型人工知能であり、更に言えば少女は仮眠をしていただけ)、18:00までにはここに到着していた。
 しかし更にそれから4時間が経過している。


 周囲には魔獣の気配もある。気温はそこまで下がっていないがそろそろ肌寒くなる季節でもあった。
 そして何よりもお腹が空いていた。

 少女は魔獣対策はちゃんとしていた。だが寒さ対策や空腹対策は実施しておらず、それがより一層少女をご立腹にしている。
 少女は寝る事と食べる事2大欲求が満たされないとご立腹になるタイプの人間なのだ。
 ちなみに、性欲残りの欲求については触れてはいけない。


「ガセだったのかしら?」
「はぁ、ちょっと寒いな。はぁ」

 セブンティーンは魔術的結界を幾重にも張り巡らせて近くに隠しておいた。闇取引の為に来た者が気付かないようにする為の対策と言える。
 その結果として少女は肌寒くなるこの季節に単身で外にいるのであった。

「ガセならガセで帰りたい」
「お腹すいたなぁ。それにお布団が恋しい…。ふわぁ」

 少女の泣き言である。だがそうは言っても帰る事など出来はしない。
 公安のハンターとして受けた依頼クエストなので、ここで帰れば当然の事ながら依頼クエストの「失敗」となるからだ。


「あの時マムに他のクエストの催促さいそくをしなきゃ良かった」
「なんで、あの時あんなコト言っちゃったんだろう?もう、アタシのばかばかッ!」

 後悔先に立たず…だ。少女は無為な時間経過という無い思いが増すにつれ、だいぶ泣き言が多くなってきていた。

 空腹感か寒さのどちらかでも解決出来ていたらかもしれないが……。


「このまま朝まで貫徹オールさせられたら、アタシにガセネタを掴ませた奴を見つけて、ギッタンギッタンの、けちょんけちょんにしてやるんだからッ!!」
「もう本当にこてんぱんのぼこぼこにしてやるんだからねッ。覚えておきなさいよねッ!」

 今日日きょうび聞かなくなった言葉を少女は呟いていた。然しながらその言動から察すると相当にご立腹の様子であるとも言える。

 少女は流石にむなしくなったのかしばらく静かになっていった。


 状況が変わったのはそれから1時間が過ぎた頃だった。少女が潜んでいる辺りを人工的な光が照らしたのだ。

 その光は最初、付近の峠をハイビームにして走っていた。だがそもそもの話しだが国の方針で夕方以降は外出規制がある。
 その為に今時分いまじぶんに走っている車があること自体が可怪しい。


 更にその不審車は少女が潜んでいる場所に近付いて来ていた。だが残念な事に不審車は停車した後もハイビームにしたままでそこに留まっていた。
 拠って車内の様子はうかがい知る事が出来なかったのだった。

 付近に棲息している魔獣を警戒してなのか、それとも取引相手がこの場にいない事を警戒してなのかは分からない。
 しかし誰も不審車から降りて来ない様子だった。


 少女は何もアクションが起きない事から車のナンバーを念の為に確認していく。光の加減でナンバーが見辛いが下手に動いて逃げられてしまっては、元も子もない。
 もしも仮にこのまま何も起きず車が立ち去ったとしたら、「後日調べる為の情報」としてナンバーを控えるのは至極当然の保険だ。

 でもまぁ実際のところに来るような不審車は、大抵が盗難車か偽造ナンバーを付けて来ると思っているのでとは思っているのだが……。


 そして動きがあったのは車が停車してから十数分が過ぎた頃だった。


がさがさッ

「よぉう、待たせたなあ?」

 ハイビームで照らす不審車の前に誰かが現れ声を投げていた。多少、変ななまりのようなモノがあるがヒト種の言葉に聞こえる。
 だが念の為にバイザーは翻訳機能をオンにしておく。

 現れた影は2つ。光の加減でかなり分かり辛い。
 しかしその影の内の1つは大きな袋を左右の肩に1個ずつ担いでいるような様子が少女からは見えていた。

 然しながらハイビームに照らし出されているシルエットを見る限りでは、ヒト種には到底思えなかったのだった。
 何故ならば頭の天辺てっぺんには尖っているモノが2個。更に胴体部分には尻尾の様な影が見えていたから、と言うのが模範解答だった。

 少女はそのシルエットを見て、取引相手の片方は獣人種であると結論付けた。
 何故ならばヒト種や亜人種で尻尾を持つ種族は、からである。


 頭の天辺てっぺんとがっているモノは恐らく耳だろう。そして尻尾のような影は本当に尻尾だろう。
 そう考えると該当するのはやっぱり獣人種のみだ。

 逆に不審車の中にいる者達の姿はまだ見えていない。その為に目の前で行われていくであろう取引が、一体何の取引かはまだ分かっていなかった。


「獣人種と取引する種族って一体どんな種族なのかしら?」
「それにあの肩に担いでいるのが取引されるブツだろうけど…一体?」


 獣人種取引相手が現れた事で不審車から降りて来た影は3つ。その内の1人が手にスーツケースのような物を持っているのが、シルエット越しに見えていた。
 然しながらこちらは特徴的なシルエットが何1つ見えない為に、人種までは分からなかった。


「取引の時間を急遽きゅうきょ変えて貰えた事、感謝する。最近は矢鱈やたらと国がうるさくなってきているからな。公安に目を付けられでもしたら厄介だ」
「それにこんな時間だ、仮に目を付けられていてももう帰ってると思うしな。はっはっはっ」

 スーツケースを持っている者の横にいる者が、なにやら話している様子だ。その声を聞く限りでは男性であり、聞こえて来る言語の中に変な訛などがない事から恐らくはヒト種が取引相手と理解出来た。

 更には会話の内容から察するに違法な薬物か、人身売買の類だろうと少女は類推るいすいしていた。

 一方で少女は話しの内容に対し「もう公安は目を付けているし、アタシはここでずっと待ってたのよ!」と心の中でツッコミを入れてたが、それは飽くまでも余談である。



「そぉんなコト、こっちはどうぉでもいいさ。貰えぇるモン貰えれば問題はぇからな」

「まぁ、それはこっちも同感だな」

「だぁが、平気なのか?こんな時間じゃ、魔獣達の餌食えじきになんぜ?俺達ゃ魔獣如きにヤられるきゃぇが、オメェさんらじゃ、手ぇに余るんじゃねぇのか?」

「なぁに、ここら辺を住処すみかにしている魔獣達の調査はとうに終わっている。性悪妖精種コボルト小鬼種ゴブリン、強くてもせいぜい鬼種オーガでは、勝てない道理は無いだろう?」
「逆にそんなのが出て来たら返り討ちにしてやるさ」

 取引相手同士の会話。確かにある程度の武装があればどうにでもなる。
 若しくは武装がなくても銃火器さえあればなんとでもなる。

 だが少女はその会話の内容に、

性悪妖精種コボルト小鬼種ゴブリン鬼種オーガぁ?」
「ちょっと何言ってるんだろ?さっきいたのはそんなのじゃなかったわよ?」
「ま、アタシとしてはそいつらが出て来ないコトを祈るだけだけど……」

 少女は聞こえて来る違和感だらけの会話の内容を聞き、本人達にツッコミを入れたくなっていた。何故ならばここにはのだから。


「コイツ、凄く高い確率でだまされてるわ。でも、闇取引をしようとしてる奴なんて、基本的に犯罪者確定だから、まぁ、自業自得よね?」
「まぁ、実際にそんな魔獣が昔はいたのかもしれないけどね。でも自業自得には変わりないわ」

 少女は呟きながらも、を考え始めていた。だが今すぐに出ていこうにも、確実にどちらか一方には逃げられる可能性が高い。
 どうせなら一網打尽にする手段を講じたかったと言える。


 男達のやり取り腹の探り合いは少しの間、続いていった。だがそのやり取り腹の探り合いは「「商品」をちゃんと連れてきているか確認させて貰えるか?」という一言を発した、不審車の男の発言で流れが徐々に変わっていく事になる。


 獣人達はその言葉に渋る様な態度を示していた。だが、ガンとして「先に見せろ」の一点張りで言い放つ、不審車の男に根負けした様子だった。
 拠って担いでいた袋を2つとも地面に置くと、両方の袋の口紐くちひもを解き中身を不審車の男達に見せたのであった。


「約束通りちゃんと2いるようだな」
「注文通りでボスもお喜びになるハズだ」

 そんな言の葉が少女の耳に入って来ていた。更にはその聞こえた言の葉に少女は、激しい怒りを覚えた。
 何故ならこの闇取引はだったからである。



 今やこの惑星には様々な種族の者達が住んでいる。2種類(地球人族アーシアテルース人族テルーシア)いるヒト種を始め、エルフ族エルフィアドワーフ族ドワーフィアなどを始めとする亜人種。
 先のクリスが属する龍人族ドラゴニアや、公安の受付嬢のミトラが属する猫人族キャティアといった獣人種。

 然しながらその全ての種族が好戦的であったり、戦闘に於けるすべを持っているとは限らない。

 獣人種はその傾向が顕著けんちょであると言える。
 それ故に密猟に遭いやすい。


 そして更に付け加えるならば、事から人身売買は違法であり固く禁止されている。
 それなのに密猟は起こる。


 一般的に密猟の大多数の被害者は、若い獣人種の女性だ。
 少女にとってその事は同じ女性として当然の事ながら許せない事だった。

 取引された若い女性達がどのよつな事をされているかは実際に見た事があるワケでは無いし、どのような待遇なのかも分からない。いや、知りたくも無い。
 だからこそ少女はこれ以上放っておく事をせずに、ここで動く事を決めた。


 だがここで、話しの流れは妙な方向に向かっていった。
 少女は動く事を決めた矢先に出鼻をくじかれるていとなり肩透かたすかしを喰らった感じで、再び様子を窺う事になるのだった。
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