不思議なカレラ

酸化酸素

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第一節 再会

第173話 インビジブルアロー

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「ねぇ、アナタ、大丈夫だっ……た?!」
「えっ!?嘘……」

 少女は振り返りながら、絡まれていた女性に対して声を掛けていったが、途中で言葉に詰まってしまったのだった。

 何故ならその女性が、「魔界」で出来た少女の「友」に余りにもよく似ていたからである。

 しかしながら、その女性は「魔界」で会った時より背丈は伸びているし、胸も格段に成長していた。だから「きっとよく似ているだけの別人だ」と割り切るコトにした。


「えぇ、お陰様で。ありがとうございました。助かりましたわ、御子みこ様」

 その女性は確かにそう言の葉を紡いだ。「」と。
 少女はその言葉を聞き漏らさず、聞いてしまった事を後悔する反面、驚きで心が満たされていった。


「えっ?嘘…よね?」

「どうされましたの、御子様?」

「ななな、何でここにいるのよーーーーーッ!!!」

 少女の絶叫が、その大声が桜並木一帯に響き渡っていく。
 その絶叫に対して、桜見物に来ていた人達は大いに驚き、少女と女性に対して目を向けていった。


 少女は自分が発した絶叫に因って注目を浴びてしまい、途端とたんに恥ずかしくなった。だから自分の事を「御子」と呼んだ女性の手を掴み、一目散にセブンティーンに向かった。
 気分的には全力ダッシュをしたかったが、そんなコトをすれば更に目立ってしまうから止めた。

 途中で「そんなに引っ張られると痛いですわ」と少女に対してクレームが入って来たが、そんなクレームは取り敢えず無視して先を急いだ。


 少女は女性の事をセブンティーンまで引っ張って来ると、セブンティーンに声を掛け助手席を開けてもらい、そこに強引に女性を押し込んだ。そしてそのままその場を走り去っていったのだった。
 それはまるで、密猟をしている人攫ひとさらいの光景そのものだった。



「ルミネ…よね?」

 これが車内での少女の第一声だ。ちなみにセブンティーンは自動運転で、現在は屋敷に向かっている。


「わたくしの事をお忘れになられたので御座いますか?」

 これが「きょとん」とした表情のルミネの第一声だった。


「いや、その、あのさ、成長し過ぎじゃない?」

「だって、あの時はまだ、わたくしは子供でしたわよ?それにあれから既に3年は経っておりますもの。だから、わたくしももう適齢期てきれいきになりましてよ…。あっ、でも、成長はもう止まっておりますわ」 ぷすぷすッ
「その、御子様はあまり変わっておられませんでしたので、直ぐに気付く事が出来ましたわ」 ぷすッ

「いや、アタシはルミネの身長もだけど、こっちも凄っごい気になるんだけどッ」

もにゅ ぷすぷすぷすぷすッ

「きゃッ///」
「な、何をなさるんですの、急にッ!!///」

「くっ…ころ……」

 ルミネの言葉に他意は無いと思いたいが、少女の心にはしっかりと見えない矢が突き刺さっていた。それの仕返しと好奇心に因る奇行は、ルミネの白い肌を上気させ先程見た桜の花弁よりも濃く染めていった。
 柔らかく程よい弾力があり、掌で決して収まりきらない脂肪の固まりの触り心地は大変に良かったが、その代償もやはり大きかった。
 拠って少女は自爆した。
 自虐ここに極まれりだった。


「ってか、3年?あれからもう3年も経ってるの?」

「えぇ、そうですわよ?」

「御子様がこちらに戻られてからは、どれくらい経つんですの?」

 少女はその年数に驚きを隠せずにいた。何故なら、少女が「魔界」から戻って来てからまだ、2年位しか経っていないからだ。
 だから、少女は気付けばもう既に22歳になっていた事になる。


「そう言えば、こっち人間界そっち「魔界」って時間の流れが違ってたわね。大体、こっちの1.5倍くらい早いって事になるのかしら?って、それじゃあ、ルミネは今、幾つになったの?」

「わたくしは20歳ハタチですわ」 ぷすッ

 少女はルミネの発した「適齢期」が気になったので、そのものズバリの年齢を聞く事にしたのだった。
 「魔界」にいた時に、ルミネの年齢を聞いた事がなかったから気になっていたのだ。

 魔族デモニアは長命種なので、少女はルミネは自分よりも大分年上だと思っていたが、自分とさほど変わらない年齢に改めて驚かされていた。
 てっきりクリスと同じくらいなのかと思っていたからだ。

 一方でルミネはちょっとだけねたような顔をしながら答えてくれたが、「女性に年齢を聞くなんて、御子様と言えども非常識ですわ」と何やらぶつぶつ言っていた。
 ルミネ的には胸を触られるコトよりも年齢を聞かれる事の方がNGだったらしい。

 しかしルミネの年齢を聞いたコトで、少女は新たな見えない悪意の無い矢が突き刺さる思いだった。
 いや、既に刺さった後だった。

 そして、魔族デモニアの適齢期について深い疑問を感じる様になるが口にする事はなかった。
 そんなコトをすれば矢傷を更に抉られる気がしたからだった。


「ハタチで適齢期なら、アタシわ……」
「完全に行き遅れじゃない…。うっうっ」

 少女は少なからずショックを受けていたが、決して口に出さず心の中で密かに呟いていた。


「ただいま~」

「立派なお屋敷ですわね」 ぷすッ

 ルミネが紡ぐ言の葉はその中に悪意は全く無く、素直なだけだ。だから毒気どくけは本当に全くないのだ。
 だが、少女の心にはその分だけ見えざる矢が次々と刺さっていたのは事実だった。


「いやいやいや、アンタの城の方がよっぽどでしょ!」
「あの城に比べたらアタシの屋敷なんて、犬小屋みたいなモンよ?」

「えっ?でも、あの城はありませんのよ?だから、御子様の方が立派ですわ」 ぷすッ

「はぁ、そうね……」

 少女は心に刺さった矢を抜こうと必死だった。だから思わずツッコミを入れてしまった。
 ルミネの言い分は確かにその通りなのだが、割り切りのいい少女でも割り切れない何か…そう、この屋敷は今でこそ自分のモノだが、建てたのは父親だから
 だからこそ、純真無垢な言葉に対してツッコミを入れた少女の完全敗北と言った方が収まりがいいかもしれない。


「お帰りなさいませ、お嬢様。おや?そちらの方は?」
「ッ!?」
「お嬢様、そちらの方から離れて下さいませんか?どうやら悪い虫の様ですので」

「えっ?!爺?」

「あら?珍しいですわね?高貴な龍種ドラゴンが召し使いをしているとは。よっぽど暇を持て余してらっしゃるの?」

「えっ!?ルミネまで?」

 ルミネを見た爺は直ぐに警戒心を露わにして挑発した。そしてルミネも爺の発した挑発に対して、目を細めると今度は先程まで全く無かった毒気を交えた言の葉を紡いでいった。

 既に一触即発の様相を呈しており、その互いに見据える瞳からは「バチバチと線香花火のような火花が散っている。まぁ、線香花火ほど儚げではないので、特大の手持ち花火が適切かもしれない。
 だが、そうであってもお互いに向け合うのは宜しくない。


「ちょ、ちょちょ、待って、お願いだから、待って。ここで何かをおっ始めようとしないで!!」
「ねぇ、爺!ちょっと止めて!」
「ルミネも止めてってば!」

「お嬢様離れて下さい。危のう御座います」 / 「そうですわ、御子様。野蛮な龍種ドラゴンなど飼われてはいけませんわ」

 少女は二人が放っている不穏ふおんな空気を感じ取り焦っていた。
 その結果、2人の間でバチバチと散らしている火花の真ん中に分け入ったのだった。


「爺、こちらは父様に使える貴族の娘で、名前はルミネよ」

「ッ?!旦那様の?」

「ルミネ、こちらは、父様の戦友で今は父様が造ったこの屋敷を管理してくれてる有能な執事よ」
「あと、有能な「ヒト種」の執事よ!間違っても「龍種ドラゴン」とか、金輪際こんりんざい言わないで!!」
「言ったら父様に言いつけるわよッ!」

「ッ!?陛下にですって?」

 少女は声を張り上げて2人に言の葉を紡いだ。そして2人は何やらとても残念そうな顔をしていた。
 だが、2人の共通認識である「少女の父親ディグラス」の存在が2人の険悪ムードを落ち着かせていった。
 爺は今のディグラスの情報が欲しかったし、ルミネは今のディグラスに告げ口されるのを困った様子だ。
 そしてそれは、ルミネの隠し事に気付く契機きっかけになった。


「それじゃあ、ルミネ、話しを聞かせて貰えるかしら?」
「一体何があったの?なんて言わないわよね?」

 爺とルミネの不穏な火遊びは一旦収まったので、少女はルミネを広間に通した。広間ではサラとレミが紅茶の用意をしてくれていた。
 そしてそれを一口だけ口に入れると、ルミネに対して口を開いていったのだ。

 その言葉を受けたルミネは「きょとん」とした顔をしつつも、直ぐに観念した様子で口を開いていく。


「流石、御子様ですわね。正直にお話し致しますわ」

ごくッ

「わたくし、家出をして参りましたの♪」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!」

 さて、この家出たんを発し、これから人間界と「魔界」を巻き込む事件が起きていく事になる。
 だがそれはまだ大分先の話しだ。


 拠って今はその時ではない。だから今はここで話せる内容だけを紡いでいく事にするとしよう。
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