愛は優しく、果てしなく

端本 やこ

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夫、成悟の愛しき憂い

1-2

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「せー君、起きてる?」

 先にベッドに入ってスマホを弄ることしばし、ようやく百華が来た。部屋着ですっぴんの百華は少しだけ柔らかい印象になるが、はっきりとした目鼻立ちは顕在だ。
 ちなみに甘えたせー君呼びは家限定。

「待ってた。おいで」

 スマホをヘッドボードに置いて、百華を布団へ迎え入れる。
 素直な百華が、俺の腕枕の上でモゾモゾと位置を正した。

「一緒に洗濯しても、せー君の匂いするよね」

 俺のTシャツに鼻を擦り付けてスンスンと嗅いでいる。仔犬の仕草はくすぐったい。

「げ。ついに加齢臭?」

 首元を摘まんで嗅いでみるが、微かに柔軟剤の香りを認めるだけ。自分では汗臭さぐらいしか感じないものだ。

「落ち着くー」
「分からん」

 いずれにせよ、百華の甘い香りの方が良い。枕にしている腕を曲げて抱き寄せ、額に口づける。

「なぁ、もも本社ウチでも気を付けろよ? 少しでも妙な真似されたら、ちゃんと言うんだぞ」
「はーい」

 過保護なんだからと呆れているが、注意と自衛は必要不可欠だ。遊びで手を出すには畏れ多い高嶺の花だからこそ、百華に手を出そうとする輩は本気だからタチが悪い。
 知らずに過ごせばそれまでだが、目に届く範囲に存在する恋心には過敏に反応してしまう。俺に似た思いで、同じ意味合いを込めた目線は、百華本人より早く気づく。

「せー君、こっち見て」
「ん?」
「今、ホカゴト考えてたでしょ」
「関連性はありますが」
「ダメ。妬けた」

 よいしょと肩肘を張って上半身を持ち上げた百華が迫ってきた。
 キス、、、と思ったら手を伸ばしてリモコンで照明を落とす。そして、そのままコテンと伏せってしまった。

「ちょ、百?」

 俺のときめきを弄ぶじゃないよ。

「おやすみなさぁい」

 くぐもった声で告げられて引けるものか。
 金曜の夜、あまつさえ少し酒も入っているところだ。

「もーも」
「明日ご実家行く日だよ?」

 俺の実家は道場で、一家揃って空手家だ。自慢では無いが、これでも俺、実は有段者だったりする。
 昔は父親が接骨院を併設していたが、今は改築して兄貴が歯科医院を営んでいる。道場だけでは厳しいので二足の草鞋を履いているという建前だが、そこそこ腕がいいらしく流行っている。
 社会人にとって急患でないのに平日に通院は難しい。百華は定期的かつ特別に休日診療を受けている。で、俺はその間道場で汗を流す。

 そして、今も汗を流したい。

 百華の臀部をさわさわと撫で回す。
 届け、俺のお誘い。
 普段から運動をしているわけでないのに、小振りで見事なプリケツだ。こうして寝転がっても山をキープしている。ワザと反応しないでいるのだろう。そのつもりならと、手を忍ばせる。

「ちょっ」
「女子のぱんつって、なんでこう小っさくってツルツルなん?」

 撫で回している内に手が滑ってショーツの中に入ってしまう。
 滑らかな肌の弾力を楽しんでいたらガシッと腕を掴まれた。

「もぅ。せー君!」
「何?」
「もうちょっとムードとかあるでしょ」
「えー。百が無視して寝ちゃうから」
「明日寝坊できないからね」
「加減する」
「うそだね」
「うん。ウソ」

 素直かと、クスクス笑う表情は柔らかい。これで我慢できる男がいたらダビデ像だけだろ。俯せのままの上半身を剥ぎ取ると、彫刻ダビデも真っ青な綺麗な肉体美が現れた。文字通り吸い寄せられて、肩甲骨に沿って唇を這わせていた。

 肌の触り心地をシルクに、透明感を陶器になぞらえるのは語りつくされた表現だろう。それを最初に言い出したヤツは「そうだったらいいのにな」の願望だけだったに違いない。
 実際に目にして触れているのは人類史上俺初だ。正直、この優越感だけで勃つ。百華の背中を手と唇で撫で回すだけでギンギン。
 30過ぎても元気な俺の息子よ、今日も気持ち良くなろうな。うん。

「せぇご」

 ベッド限定の呼び捨ての破壊力といったらない。
 華奢な身体を捻って、俺の首にしなやかに腕を回す。
 美人で気が強いと思われがちな百華が、強烈にかわいくなるのはここでだけ。潤んだ瞳に囚われて、鼻に掛かった甘い声に縛られる。
 ゾクゾクする。
 嫁さんに飽きるとか、女に見えなくなるとか、マジで俺には理解不能。

「加減して欲しいんだろ?」

 キスを強請られて、意地悪くチュッと一瞬に留める。少しだらしなく半開きにした口元のエロさは堪んない。寂し気で恨めしそうに見つめる表情はあっという間に俺を追い込む。

「ん。お願い」

 そうきたか。
 我慢比べになると分が悪い。背中に密着して、捩って空いた隙間から完璧な造形美を誇る胸を鷲掴む。この弾力と重力は病み付き。先端をくりくりと弄ると直ぐに固まる。感度も良好。

「俺の奥さんえっちだもんな。もうトロトロ」

 小さい布もろとも摺り下げて、遠慮なく指を差し入れる。ビクッと跳ねる身体を押さえつけて中を探る。狙いは外さない。締め付けて逃さない様に銜えこまれた指がふやけるまで掻き回す。次第にしっとり汗ばむ肌は吸盤になって離さないでと縋ってくる。白い肌が血色を帯びて色付くと花見をしている気分で酔いしれる。

「ぁ、んっ、、いれて」
「もう?」
「おねがぃ」
「しょうがないなぁ」

 早めのお強請り上出来でっす。いいタイミング分かってる。俺、そんな我慢強い方じゃないんだよね。
 ハァハァと吐いているのか飲んでいるのか分からない控え目な喘ぎを吸い取っていると、いつしか吐息は嬌声に変わる。魔性って、百華みたいな天然素材の魅力を言うのかも。
 俺は脳みそがマヒして、意思とは関係なく動く腰は止められない。

「ぁ、ぁ、んんッっ、せぇごっ」

 この淫靡な姿は、俺だけが知る百華。
 憧れて指を咥えて見ているだけのそこらの野郎共が一生知り得ることはない、俺だけの百華。
 全身で抑え込んでいる華奢な身体が小刻みに痙攣して、俺の愛情と欲を搾り取って受け入れる。

「愛してるよ、百華」

 純粋な気持ちが素直に口を吐いて出る瞬間。取繕いも飾り気も何もない。んでもって、文字通り裸の百華が愛情を爆発させる瞬間でもある。
 それはそれは高貴なまでに艶めかしく、普段の百華が霞むぐらいだ。

「わたしも」

 掠れた泣き声のような返事を受け取ると、持久走を終えたばかりの下半身がまた滾る。

「まだ終われんのー」
「えっ」

 驚いて強張らせた肢体をクルリと可動させ、体勢を入れ替えて続行だ。

「寝かせなーい」
「今日はダメだってば!」
「ん? 悦んでるぞー。百のここ」
「ぁ、やっ」

 百華の身体は知り尽くしている俺に隙はない。

 今夜も目一杯愛し合おう。な、奥さん♪
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