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第二十八話 身バレ
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広場中央。
ダンジョンの入り口にやってきた。古びた木枠の扉がある。
その前には、ターニャと同じ『ダンジョン維持機関:ホープ』の職員が一人。年齢は近そうだ。
彼は腰に手を当てて訝し気に片眉を上げた。
「ターニャ、今日はここの探索許可が出てるとは聞いてないぞ?」
「譲渡だから特別」
「あっ、譲渡――え? ラッセルドーンが渡したのか? あの人が、譲ったことなんてあったか?」
「知らない。でも、この人に譲るって」
ターニャが目で僕を紹介する。
なぜかわずかな敵意を感じた。そして、その理由はすぐにわかった。
「うさんくさいやつだな。なあ、ターニャ、俺もついていってやるよ。一人じゃ危ないだろ?」
「いらない」
「そう言うなって」
「私の係の仕事だから」
ターニャは動じることなく首を振った。男があきらめたように目尻を下げた。
だが、「じゃあ、帰ってきたら話を聞かせてくれよ」と僕でも真意がわかるような言葉を聞いて納得した。
彼はターニャに好意を持っているのだろう。
「今日はラールセンと会うから無理」
けれど、彼女の対応は冷たい。
ラッセルドーンとの話を思い出すとそんなに深い関係ではないはずだけど、本当だろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、男が小さく舌打ちした。
ラールセンの名前が出て、不機嫌になったのだろう。
「またあいつか……わかった。なら、さっさと行け」
あごをしゃくって扉を示す。
僕も眼中に無くなったようだ。
きっと彼の頭の中は「憎いラールセン」でいっぱいだろう。
想い人のターニャはラールセンに、そのラールセンは――
複雑な気持ちになって、考えていたことを振り払った。
「じゃあ」
ターニャがさらりと言って、ダンジョンに入る。僕も続いた。
ダンジョンには誰も人がいなかった。
人気レジャー施設の休日とでも言えようか。たまに上空を鳥が飛ぶくらいで、人の気配はない。
前は気づかなかったけど、甘い香りがただよっている。
リンゴの匂いだ。
「いい匂い」
ターニャの独り言に僕は少し嬉しくなってうなずいた。
きっとリンゴナががんばっているんだろうな。
「ダンジョンの管理方法は四つある。何かわかる?」
奥に進んでいたターニャが唐突に言った。
僕の返事を待たずに彼女は続けた。
「自分で管理する。他人に任せる。ホープに管理を任せる。開放する――の四つ」
「へえ」
管理を任せることもできるのか。
「ちなみに自分で管理する人で一番有名なのは、ラッセルドーン」
「なるほど……」
「人よりたくさんのダンジョンを、上手に管理してる。ノウハウを持つホープがコツを聞きたいくらいに」
ダンジョンを精力的に回っている姿が想像できる。
あの人は色んな意味で超人だ。きっと、豪快な笑い声をあげながら、ダンジョン管理者たちともうまくやるのだろう。
ターニャがくるりと振り返った。瞳に力がこもった真剣な顔だった。
「ラッセルドーンの管理するダンジョンに入ったことがある?」
僕は首を振った。
そもそも彼がどんなダンジョンを持っているかも知らない。
ターニャが初めて微笑を浮かべた。
どきっとするほど妖艶で、子供っぽいと思っていた彼女が大人びて見えた。
「私はある――このダンジョンと似た雰囲気だった」
僕は首をかしげた。話の流れが見えなかった。
ラッセルドーンが管理するダンジョンと僕のダンジョン。
共通点があると?
でも、僕にはわからない。
ターニャが一歩近づいた。思っていたより素早かった。ラールセン並みかもしれない。
彼女が握手を求めるように右手を前に出した。
その瞬間、銀色の腕輪にマナが流れた――
「<結界魔術:ペンタゴン>」
その名のとおり、五角形の結界ができあがった。
さほど驚かなかった。裏の仕事で似たようなものを何度も見たことがある。そっちはもっと防御力に長けたものだったけど。
<ペンタゴン>は『ダンジョン産の魔術』でも有名なものだ。
言ってみれば簡易の部屋。
防御力は低いが、マナで視線の通らない壁を作れる。
ダンジョン探索で一晩過ごす仮宿に使われることが多いという。
ターニャがさらに一歩近づき、至近距離から見上げる。
「変な人だと思った。変な格好で――変な声で笑ってた」
僕の脳裏に嫌な記憶が蘇った。
リンゴのダンジョンで使づいてきたターニャを追い払うために、「くくく」なんて慣れない笑いを演じたときのことだ。
内心、しどろもどろで言い返した。
「僕は……変な男だからな」
「そう。それに……ダンジョンに気に入られるくらいの強い人」
ターニャの両手がすっと伸びてきた。
目的に気づいて、軽く振り払った。彼女は僕の仮面をとるつもりだったのだ。
それだけはダメだ。ましてクラスメイトに。
「ラッセルドーンに身元は保証してもらったはずだ」
「ホープはまだ認めてない。ここは密室で人目もない。ホープの職員が顔を確認するだけ」
「しかし――」
「それに……ウインド、あなたの声は……似てるの。私が知ってる人。答え合わせをしたい」
僕はとっさに口から出かけた「そいつとは別人だ」という言葉をぎりぎりで飲みこんだ。
これを言えば、自分の正体を自白するようなものだ。
それに、ターニャが思い描いている人間がハルマじゃないかもしれない。下手をすれば自爆する。
彼女の手が再び伸びる。
僕はまたも振り払った。
悲し気なターニャの瞳が向いている。罪悪感で目をそらした。
「誰にも言わないから」
「ち、違う。僕はウインドだ――」
「うん」
三度目だ。ターニャの手が伸びる。
なぜか瞳が潤んでいて、強く振り払えない。
隠しごとをしているという罪悪感で、僕は後ろに下がった。
でも、彼女は気にせず距離を詰めて言う。
「うん、わかってる」
彼女の言葉が僕を縛った。
ターニャは何もわかってない、と頭の中では言うのに、腕に力が入らなかった。
伸びてくる手を受け入れてしまった。
細い指が仮面の両端にひっかけられた。
そして――
「私の大事な管理者に手を出したら許さない」
という言葉が、ターニャの背後から聞こえた。
間一髪だ。
真っ赤なワンピースに身を包んだ五歳児が、ほおを膨らませて立っていた。
「ホープがダンジョン管理者に嫌がらせ?」
<ペンタゴン>は跡形もなく消えていた。
ターニャが背後を確認し、名残惜しそうに手を引く。
僕は大きなため息をついた。
不機嫌そうなリンゴナが立っていた。
「そんなつもりはありません」
「ホープがルールを決めるのは勝手。でも、こういう場合はダンジョン側の意見を聞いてくれるよね?」
「……もちろん」
「なら、ウインドの身元は私――リンゴナが保証するから、管理者として認めてあげて。ダンジョンが偽者と間違えるはずがない」
「わかりました……<リタイア>」
小さな音を立てて、ターニャの姿が消えた。
よくわからないけど、助かった。熱い息を吐いた。
「大丈夫、お兄ちゃん?」
「ありがとう、リンゴナ……おかげで命拾いした」
「ううん。どうなるのかなあってちょっと見てたら遅れた」
「ええっ!?」
「ごめんね。でもダンジョンとホープってあんまり仲良くないから」
「そうなの?」
「色々と複雑な……って、まあこの話はいいや、とにかくまた来てくれてありがとう、お兄ちゃん」
「こちらこそ」
リンゴナが「ふふふ」と子供っぽく笑う。
僕も釣られて笑った。
「ちゃんとホープで手続きしてくれたんだね。遅かったから、リンゴナのダンジョンはいらないって思ってるのかと心配してたの」
「手続きがいるって知らなくて……」
「え? ラッセルドーンが教えなかった?」
「なんか……忘れてたって言われた……」
「そうなんだ……まあ、ありえるかも。あの男は……ほんといい加減だから」
リンゴナが「だから嫌いなの」と笑って言う。
なんとなく振り回される彼女を想像して、僕もくすりと笑ってしまった。
「お兄ちゃん、ダンジョンの管理はどうする? 途中で教えてもらってたよね?」
「そうだなあ……僕は、開放、かな」
ダンジョンの開放。
中のダンジョンで生み出される物を、無制限に開放することだ。子供でも大人でも、善人でも悪人でも――みんなが平等にとれるようにする。
リンゴのダンジョンは、モンスターもいないから危険が少ない。
食糧品なら大きな争いにもならないだろう。
もし問題が起きるなら、その時は僕が出る。
「お兄ちゃんは、そう言うかなあって思ってた」
「ほんとに?」
「うん。だから来た人みんなに喜んでもらえるように、ダンジョンの空気にリンゴの香りを混ぜて準備してるの。なかなかいい感じでしょ?」
「あっ、それでいい香りがしたんだ」
「リンゴとるぞー、って気分になるでしょ?」
リンゴナはそう言って無邪気に笑う。
とても楽しそうだ。
「リンゴのおいしさが広まるといいね」
「ほんとに! こんなにおいしいんだから、みんなに食べてほしい! でも……ちゃんとお兄ちゃんに確認してからと思って」
「いいと思う。僕も賛成」
「ありがとう! あっ、ホープにもちゃんと伝えてね」
「え? ……また、行かなきゃいけないんだね」
「何にも言わないと、ホープが管理することになって、探闘者がやってくるから」
「そっか……うん、早いうちにターニャに言いに行くよ」
ふと、リタイア、とつぶやいたターニャの顔が思い浮かぶ。
とても気落ちした表情だった。
僕の声が誰と似ていると思ったんだろうか。ハルマという可能性もあれば、まったく別人と間違えている可能性もある。
いずれにしろ、ターニャはなぜかウインドの正体を知りたがっていた。
きっと、これからも探りを入れてくるだろう。
「気が抜けないな」
ぽつりと独り言が漏れた。
正体を知りたがるラールセンにターニャ。
正体を知ってからかうラッセルドーン。
そして、ウインドを捕まえると豪語するアネモネと、まったく知らないナーシィ。
身の回りが急に騒がしくなってきた。
さらに新しい人物が出てこないとも限らない。
ハストンにも対策を相談した方がいいだろう。
「はい、どうぞ、お兄ちゃんに金のリンゴ! また来てね」
「ありがとう、リンゴナ」
ずしっと重い輝くリンゴを受け取り、僕はこれからの生活を思い描いた。
願わくば、静かで平穏な学生生活でありますように。
ダンジョンの入り口にやってきた。古びた木枠の扉がある。
その前には、ターニャと同じ『ダンジョン維持機関:ホープ』の職員が一人。年齢は近そうだ。
彼は腰に手を当てて訝し気に片眉を上げた。
「ターニャ、今日はここの探索許可が出てるとは聞いてないぞ?」
「譲渡だから特別」
「あっ、譲渡――え? ラッセルドーンが渡したのか? あの人が、譲ったことなんてあったか?」
「知らない。でも、この人に譲るって」
ターニャが目で僕を紹介する。
なぜかわずかな敵意を感じた。そして、その理由はすぐにわかった。
「うさんくさいやつだな。なあ、ターニャ、俺もついていってやるよ。一人じゃ危ないだろ?」
「いらない」
「そう言うなって」
「私の係の仕事だから」
ターニャは動じることなく首を振った。男があきらめたように目尻を下げた。
だが、「じゃあ、帰ってきたら話を聞かせてくれよ」と僕でも真意がわかるような言葉を聞いて納得した。
彼はターニャに好意を持っているのだろう。
「今日はラールセンと会うから無理」
けれど、彼女の対応は冷たい。
ラッセルドーンとの話を思い出すとそんなに深い関係ではないはずだけど、本当だろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、男が小さく舌打ちした。
ラールセンの名前が出て、不機嫌になったのだろう。
「またあいつか……わかった。なら、さっさと行け」
あごをしゃくって扉を示す。
僕も眼中に無くなったようだ。
きっと彼の頭の中は「憎いラールセン」でいっぱいだろう。
想い人のターニャはラールセンに、そのラールセンは――
複雑な気持ちになって、考えていたことを振り払った。
「じゃあ」
ターニャがさらりと言って、ダンジョンに入る。僕も続いた。
ダンジョンには誰も人がいなかった。
人気レジャー施設の休日とでも言えようか。たまに上空を鳥が飛ぶくらいで、人の気配はない。
前は気づかなかったけど、甘い香りがただよっている。
リンゴの匂いだ。
「いい匂い」
ターニャの独り言に僕は少し嬉しくなってうなずいた。
きっとリンゴナががんばっているんだろうな。
「ダンジョンの管理方法は四つある。何かわかる?」
奥に進んでいたターニャが唐突に言った。
僕の返事を待たずに彼女は続けた。
「自分で管理する。他人に任せる。ホープに管理を任せる。開放する――の四つ」
「へえ」
管理を任せることもできるのか。
「ちなみに自分で管理する人で一番有名なのは、ラッセルドーン」
「なるほど……」
「人よりたくさんのダンジョンを、上手に管理してる。ノウハウを持つホープがコツを聞きたいくらいに」
ダンジョンを精力的に回っている姿が想像できる。
あの人は色んな意味で超人だ。きっと、豪快な笑い声をあげながら、ダンジョン管理者たちともうまくやるのだろう。
ターニャがくるりと振り返った。瞳に力がこもった真剣な顔だった。
「ラッセルドーンの管理するダンジョンに入ったことがある?」
僕は首を振った。
そもそも彼がどんなダンジョンを持っているかも知らない。
ターニャが初めて微笑を浮かべた。
どきっとするほど妖艶で、子供っぽいと思っていた彼女が大人びて見えた。
「私はある――このダンジョンと似た雰囲気だった」
僕は首をかしげた。話の流れが見えなかった。
ラッセルドーンが管理するダンジョンと僕のダンジョン。
共通点があると?
でも、僕にはわからない。
ターニャが一歩近づいた。思っていたより素早かった。ラールセン並みかもしれない。
彼女が握手を求めるように右手を前に出した。
その瞬間、銀色の腕輪にマナが流れた――
「<結界魔術:ペンタゴン>」
その名のとおり、五角形の結界ができあがった。
さほど驚かなかった。裏の仕事で似たようなものを何度も見たことがある。そっちはもっと防御力に長けたものだったけど。
<ペンタゴン>は『ダンジョン産の魔術』でも有名なものだ。
言ってみれば簡易の部屋。
防御力は低いが、マナで視線の通らない壁を作れる。
ダンジョン探索で一晩過ごす仮宿に使われることが多いという。
ターニャがさらに一歩近づき、至近距離から見上げる。
「変な人だと思った。変な格好で――変な声で笑ってた」
僕の脳裏に嫌な記憶が蘇った。
リンゴのダンジョンで使づいてきたターニャを追い払うために、「くくく」なんて慣れない笑いを演じたときのことだ。
内心、しどろもどろで言い返した。
「僕は……変な男だからな」
「そう。それに……ダンジョンに気に入られるくらいの強い人」
ターニャの両手がすっと伸びてきた。
目的に気づいて、軽く振り払った。彼女は僕の仮面をとるつもりだったのだ。
それだけはダメだ。ましてクラスメイトに。
「ラッセルドーンに身元は保証してもらったはずだ」
「ホープはまだ認めてない。ここは密室で人目もない。ホープの職員が顔を確認するだけ」
「しかし――」
「それに……ウインド、あなたの声は……似てるの。私が知ってる人。答え合わせをしたい」
僕はとっさに口から出かけた「そいつとは別人だ」という言葉をぎりぎりで飲みこんだ。
これを言えば、自分の正体を自白するようなものだ。
それに、ターニャが思い描いている人間がハルマじゃないかもしれない。下手をすれば自爆する。
彼女の手が再び伸びる。
僕はまたも振り払った。
悲し気なターニャの瞳が向いている。罪悪感で目をそらした。
「誰にも言わないから」
「ち、違う。僕はウインドだ――」
「うん」
三度目だ。ターニャの手が伸びる。
なぜか瞳が潤んでいて、強く振り払えない。
隠しごとをしているという罪悪感で、僕は後ろに下がった。
でも、彼女は気にせず距離を詰めて言う。
「うん、わかってる」
彼女の言葉が僕を縛った。
ターニャは何もわかってない、と頭の中では言うのに、腕に力が入らなかった。
伸びてくる手を受け入れてしまった。
細い指が仮面の両端にひっかけられた。
そして――
「私の大事な管理者に手を出したら許さない」
という言葉が、ターニャの背後から聞こえた。
間一髪だ。
真っ赤なワンピースに身を包んだ五歳児が、ほおを膨らませて立っていた。
「ホープがダンジョン管理者に嫌がらせ?」
<ペンタゴン>は跡形もなく消えていた。
ターニャが背後を確認し、名残惜しそうに手を引く。
僕は大きなため息をついた。
不機嫌そうなリンゴナが立っていた。
「そんなつもりはありません」
「ホープがルールを決めるのは勝手。でも、こういう場合はダンジョン側の意見を聞いてくれるよね?」
「……もちろん」
「なら、ウインドの身元は私――リンゴナが保証するから、管理者として認めてあげて。ダンジョンが偽者と間違えるはずがない」
「わかりました……<リタイア>」
小さな音を立てて、ターニャの姿が消えた。
よくわからないけど、助かった。熱い息を吐いた。
「大丈夫、お兄ちゃん?」
「ありがとう、リンゴナ……おかげで命拾いした」
「ううん。どうなるのかなあってちょっと見てたら遅れた」
「ええっ!?」
「ごめんね。でもダンジョンとホープってあんまり仲良くないから」
「そうなの?」
「色々と複雑な……って、まあこの話はいいや、とにかくまた来てくれてありがとう、お兄ちゃん」
「こちらこそ」
リンゴナが「ふふふ」と子供っぽく笑う。
僕も釣られて笑った。
「ちゃんとホープで手続きしてくれたんだね。遅かったから、リンゴナのダンジョンはいらないって思ってるのかと心配してたの」
「手続きがいるって知らなくて……」
「え? ラッセルドーンが教えなかった?」
「なんか……忘れてたって言われた……」
「そうなんだ……まあ、ありえるかも。あの男は……ほんといい加減だから」
リンゴナが「だから嫌いなの」と笑って言う。
なんとなく振り回される彼女を想像して、僕もくすりと笑ってしまった。
「お兄ちゃん、ダンジョンの管理はどうする? 途中で教えてもらってたよね?」
「そうだなあ……僕は、開放、かな」
ダンジョンの開放。
中のダンジョンで生み出される物を、無制限に開放することだ。子供でも大人でも、善人でも悪人でも――みんなが平等にとれるようにする。
リンゴのダンジョンは、モンスターもいないから危険が少ない。
食糧品なら大きな争いにもならないだろう。
もし問題が起きるなら、その時は僕が出る。
「お兄ちゃんは、そう言うかなあって思ってた」
「ほんとに?」
「うん。だから来た人みんなに喜んでもらえるように、ダンジョンの空気にリンゴの香りを混ぜて準備してるの。なかなかいい感じでしょ?」
「あっ、それでいい香りがしたんだ」
「リンゴとるぞー、って気分になるでしょ?」
リンゴナはそう言って無邪気に笑う。
とても楽しそうだ。
「リンゴのおいしさが広まるといいね」
「ほんとに! こんなにおいしいんだから、みんなに食べてほしい! でも……ちゃんとお兄ちゃんに確認してからと思って」
「いいと思う。僕も賛成」
「ありがとう! あっ、ホープにもちゃんと伝えてね」
「え? ……また、行かなきゃいけないんだね」
「何にも言わないと、ホープが管理することになって、探闘者がやってくるから」
「そっか……うん、早いうちにターニャに言いに行くよ」
ふと、リタイア、とつぶやいたターニャの顔が思い浮かぶ。
とても気落ちした表情だった。
僕の声が誰と似ていると思ったんだろうか。ハルマという可能性もあれば、まったく別人と間違えている可能性もある。
いずれにしろ、ターニャはなぜかウインドの正体を知りたがっていた。
きっと、これからも探りを入れてくるだろう。
「気が抜けないな」
ぽつりと独り言が漏れた。
正体を知りたがるラールセンにターニャ。
正体を知ってからかうラッセルドーン。
そして、ウインドを捕まえると豪語するアネモネと、まったく知らないナーシィ。
身の回りが急に騒がしくなってきた。
さらに新しい人物が出てこないとも限らない。
ハストンにも対策を相談した方がいいだろう。
「はい、どうぞ、お兄ちゃんに金のリンゴ! また来てね」
「ありがとう、リンゴナ」
ずしっと重い輝くリンゴを受け取り、僕はこれからの生活を思い描いた。
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