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008彼女の手は意外とひんやりしていた

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 アルメリーは妙にそわそわして後ろをついてくる。
 今は胸を強調した町娘のような格好で、聞けばこれと皮鎧しか持っていないそうだ。
 服の至る所がほつれかけていて、傷みが激しい。
 本当に節約生活が長いのだろう。

 通りを行きかう冒険者を捕まえて、ガダンさんが言っていたアンダン亭という店への道を尋ねる。
 場所はすぐに知れた。
 目立つ店という理由もすぐにわかった。
 どういう理屈か、外観がネオンのような煌びやかな光で覆われている。
 暗い通りの中で異様に目を引く。

「アルメリーさん、どうして隣を歩かないんですか?」

 入り口の前に来て振り返った。
 道中、試しに足を止めてみたものの、彼女もピタリと止まって横には並ばなかった。

「仲間になった順番があるから」
「順番?」
「新しい仲間は、少し離れた最後尾でみんなを守る役目があるの」
「……それは、誰かに聞いた話ですか?」
「私が入ったパーティはみんなそうだった。結局仲間には入れてもらえなかったけど……」

 アルメリーさんは当然のように言う。
 けれど、それはたぶん嘘だ。
 パーティの仲間とわざわざ距離を空ける理由はない。
 それに、少し前に出会ったタニアンという男のパーティは新しい仲間のルイスを中心に置いていた。
 アルメリーさんと距離を置く為の理由作りだろう。

 この人、どれだけ嫌われてるの?
 内心でため息を吐きながら、口を開く。

「知らないんですか? それは臨時でパーティに入った時だけです。本当の仲間の場合は隣を歩くのがルールです」

 だから、彼女の常識を嘘で上塗りした。
 嫌われてるからですよ、と言うより傷つかない方法で。
 アルメリーさんは驚いたように目を丸くし、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
 そして、戸惑うような仕草を見せつつ、そろりそろりと上目遣いで近づいてきた。
 何これ。かわいい。

「ほんとに? 新しい仲間も隣を歩いていいの?」
「もちろん。ちなみに一番目の仲間とは手をつなぐのが本当のルールです」

 調子にのって冗談も言った。
 今日の昼間、初めて異世界にやってきた人間がルールなんて知るはずがないのに。
 けれど、アルメリーさんは目を輝かせてさっと俺の手をすくうように握った。

「えっ?」
「仲間ってやっぱりいいね! なんか温かくて気持ちいい」
「……仲間、ですからね」

 どこまでも純粋な彼女の手を少し強く握った。
 俺の手よりは体温が低かった。
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