スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと

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勲章授与

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 室内は熱気に満ちていた。
 豪勢なシャンデリアに赤いカーペット。ステンドグラスが反射するきらびやかな光の中を、着飾った女性や顔つなぎに忙しい男性たちが行きかう。
 たくさんの執事服に身を包む人間が飲み物を差しだし、食事を載せたカートを押している。
立食パーティが行われている華やかな会場の最奥にはレイナ=ハヅキ国王がにこやかに来客たちの挨拶に耳を傾けている。
 そんな中、壁際で居心地悪そうにしていたイース=セナードとルルカ、そしてメラン家次期当主予定のガリアスを見つけたリリアーヌとモニカは、人の間を縫って近づいた。

「ごめんね、急に」
「迷惑な話だ」

 軽く頭を下げたリリアーヌにセナードが憮然とする。バンっとその背中をガリアスが叩き、セナードが持っていた飲み物を落としそうになった。

「そう言ってやるな。リリアーヌだって陛下の指示があったんだ。まあ、気が滅入るってのは同感だがな。俺、こんな世界でやっていけるかな……」

 ガリアスがめまいでも起こしたようにふらふらと頼りない。胸板と肩幅を調整した特注の銀の衣装が、まったく似合っていない。

「泣き言言ってないで、次期メラン家の当主としてしっかりやりなさい。お前は口は悪いが、腕っぷしだけは一級品だ」
「カルナリア、ひどすぎだろ……」
「カルナリア先生、だ」

 近づいてきたのは、紺のナイトドレスに身を包むカルナリアと、エスコートする形で隣を歩くダレースだ。じろりとガリアスを睨んだカルナリアは、リリアーヌやモニカの服装を見て相好を崩した。

「さすが、将来の国王と付き人の二人は似合ってるな」
「そうかな? 結構腰のあたりきついんですけど……鎧より疲れるなあ。嫌な視線ばっかり感じるし。リリアーヌの決心は良かったけど、私も正直言ってこういうのは、ね」

 細く浮かび上がった腰に両手を当てたモニカは、強調されすぎている自分の胸元を見つめて、ため息をついた。
 リリアーヌが微妙な視線をモニカに送り、小さくため息をつく。

「私の服なんて、首の後ろで結んで止めているだけなので、いつほどけるかって心配なんです……」
「ドレスとはそういうものだ。背筋を伸ばせリリアーヌ。今もお前は、有望な家の男共が見ている。うまく行けば次期王権は盤石だぞ。二、三人声をかけておいたらどうだ?」
「私、そんなの求めてません」
「いやいや、ほどいた方がてっとり早いかもよ」

 ガリアスが冗談めかして、にかっと笑う。
 緊張気味の仲間たちを和ませようとしたのだろう。しかし、女性陣には不評だったようだ。
 あからさまに舌打ちを鳴らしたカルナリアを筆頭に、リリアーヌが嫌そうな顔を、モニカが「エッチ」と、刺さっていない腰のレイピアを抜かんと動作を行った。ルルカが一人、意味が分からずぽかんと口を開けている。
 孤立無援となった男は、わずかに後ずさる。むっつりと顔をしかめたセナードに助けを求めた。

「お前だって、そう思うだろ?」
「僕を巻き込むな」

 セナードがグラスを持ったまま背を向ける。関わらない方が安全だという判断だろう。
 もう一人の男性――ダレース――は、さすがに理解が早い。早々に危機を察して食べ物を取りにいくフリをして離れている。
 壁に背中を阻まれ、三人の冷たい視線に耐えられなくなったガリアスは、「あっ」とわざとらしい声を上げて、リリアーヌに尋ねた。

「そういや、よくサナトが勲章なんて受け取るって言ったな。あいつの性格だと、『関係ない』とか言いそうなもんだ」

 眉を寄せて発したガリアスの声音が良く似ていたのだろう。モニカが「ぷっ」と噴き出すと、釣られてリリアーヌが微笑んだ。

「まさしく、そんな感じだった。サナトくん……『必要ない』って即答だったもん」

 モニカが、リリアーヌに同情するような顔で言葉を引き取る。

「家名のことだって、『名乗る必要はない』だよ? あいつ、あれだけのことしておいて、自分はまだ無関係だって態度だから、思わず『はあっ!?』って二人でなってさ」
「サナトをどうやって丸め込んだんだ?」

 当然の疑問だった。
 しかし、興味津々なガリアスや聞き耳を立てているセナードたちの前で、リリアーヌの視線が泳ぐ。
 モニカも「あー……」と口を開けたまま隣を見て迷っている。

「じらすな。この場だけだ」

 カルナリアがドレス姿のまま腕組みをした。美しさよりも凛々しさが前面に出ると、教師の顔が現れた。
 促される形で、モニカがぽつりと口を開いた。

「……まあ、リリアーヌの泣き落としって感じ」
「泣き落とし?」

 怪訝な顔のガリアスの前で、リリアーヌがしおしおと小さくなる。

「サナトがどうしても嫌だって言うから、リリアーヌがね……『この勲章を受けてもらえないと、私が陛下に顔向けできないんです! 陛下の期待を裏切ったら見捨てられます!』って、涙声で。サナト……絶対引いてたよね?」
「た、たぶん」
「でも、それを見てリリスが『ご主人様』って呼びかけたことでチャンスが生まれたの。あいつ明らかに動揺したから、そこに私が『一度、約束を破られたことがあった』って言って押し切ったのよ」
「約束って例の遠征の時に置いてけぼりをくらった話か」
 カルナリアが、「やるな」とつぶやく。
「まあ、そんな感じでサナトは納得したってわけ」
「納得じゃなくて、脅迫だな。お前ら……結構、いい国にしてくれるんじゃね? セナードもそう思わないか?」
「僕は、サナトほど単純じゃない。リリアーヌとモニカが何と言おうと、嫌なものは嫌と断る」

 セナードが冷ややかに口端を上げた。自分は揺るがないという名家の跡取りとしての自身の現れだったのかもしれない。
 しかし、それはモニカの切り返しで木っ端微塵となった。

「そうだよねー。セナードは確かに私たちじゃ無理かな……可愛い可愛い妹の言葉じゃないと動かないもんねー」
「なっ!?」

 瞬時に顔を染め上げたセナードを、リリアーヌがじいっと見つめて思い出したように続けた。

「そういえば最近、学園内でルルカって人気だよね。なんか、よく笑うようになって可愛いって」
「なにっ、ほんとか!? ルルカ、どうなんだ!? 誰かに言い寄られてるのか!?」
「ええっ!? ちょっと兄さん、落ち着いて! そんなの全然無いから!」
「ほんとか?」
「う、うん……」

 ほうっと胸を撫で下ろしたセナードが、何かに気づいたようにびくりと背筋を伸ばした。
 ルルカの肩を強く抑えていた両手を壊れたロボットのように戻し、深く眉根を寄せて振り返った。

「まあ、身内を心配するのは――って、あいつらどこ行った!?」
「もうすぐサナトが入ってくるからって、二人揃って入口まで見に行ったぞ。手を振るんだと。有名人じゃないってのに……と、そういえばお前、サナトに祝いの品を送るらしいな。何送るんだ?」
「……なぜそんなことを知っている」
「お前の妹が言ってたぞ。兄がお礼を兼ねて何を送ろうかって悩んでるって」
「くっ……ルルカ……」

 セナードが呆れた顔で首を回す。ルルカが小さくなった。

「ご、ごめんなさい。その……ガリアスさんが、訓練で疲れ果てた兄さんの心配をしてくれたので、つい……兄さんの秘密をばらすつもりはなかったんです」
「もちろん分かってる。ルルカは決してそんなことはしない」

 熱っぽい表情を浮かべる兄妹は、互いにアイコンタクトで会話をしている。

「はいはい、まあどうでもいいけどよ」

 白けた表情でグラスを仰いだガリアスが、「味はいいけど、量が足りねえ」とぶつぶつ漏らしつつ、太い指を扉の方向に向けた。

「で、お前は二人を追いかけるつもりだったんじゃねえのか?」
「そうだった!」

 セナードが思い出したようにぎりぎりと歯を食いしばる。

「あの二人が、王国のトップになるなんてありえない」
「みえみえの挑発に引っかかって妹を心配しする当主候補も大概じゃねえの?」
「う、うるさい!」

 ガリアスは「若いねえ」とつぶやきながら新しい飲み物を手に取った。微笑むカルナリアに、「どうぞ、お姫様」と芝居がかった素振りで差し出した。

「ふん」
 カルナリアはみるみる片眉を吊り上げ、薄黄色がかった芳醇な酒を、喉を鳴らして飲み干した。

 その後、不機嫌なカルナリアや苦虫を潰したような顔のセナードとは比較にならないほど、内心で辟易するサナトが入室してきたことは言うまでもない。

 最高級の衣服を身につけた彼は終始表情を崩さず、礼を失さず、貴族や関係者の高い評価を得た。たとえそれが、苦渋を表に出さないために作った顔だとしてもだ。

「あの年齢で、このような経験を何度もしているのか」
「威風堂々とはこのこと」
「さすがに、たった二人で竜を討伐したことはある」
「フェイト家の息がかかっているらしいが、何とか引き込めないものか」
「アズリー嬢は目が肥えておる」
 などの、勘違いも甚だしい称賛の声を、男は無表情で受け止めた。
目を引く白いドレスを纏う薄紫髪の少女の神秘性も相まって、それらの声は瞬く間に増えた。

「冒険者サナトに、勲章と、新たに『ヒイラギ』の家名を与えます。今後も我が国の為に」

 予定調和の儀式が厳かに進められ、金に輝く竜伐勲章と国のシンボルを縫い付けたローブがレイナの手から直接授与された。
 サナトはまるで感極まったように深々と頭を下げ、いつまでも上げなかった。
「あまりの嬉しさに涙しているのでは」
 という声が聞こえ始めた頃、レイナが微笑を浮かべてサナトの手を取った。
 誰もが、優しい国王が場に慣れない冒険者を助けたのだと思った。
「サナト、近いうちに私に竜伐のお話を聞かせてください」
 最大級の賛辞。
 会場の至る所で羨まし気な吐息が漏れた。国のトップが個人に興味を持つなど奇跡も同然だった。誰もが竜伐とは偉業なのだと思い知った。
「今後の活躍に大いに期待しています」
 締めくくったレイナは、手早く憲兵たちに指示を出した。
「控室に案内を」
 サナトとリリスが無言で立ち上がり、憲兵に守られながら退出する。
 そして――
「本日、『ヒイラギ』という新たな家名が生まれました。古参の皆さんも決して名に恥じぬことのないように」
 レイナの一言が、場を引き締めた。
 期待しているのは新参のサナトだけではない。次に名家になるのはどこだ。
 参加者の耳は、そういう意味だと捉えた。
 仲良く取り繕ってはいても、隣に立つ人間はライバルでもある。場は一層盛り上がり活気に満ちた。
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