魔法しかなかったから物理で叩いた

麦茶畑の緑茶園

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山あり谷あり、平坦あり?

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「うわ……これは無理だわ……」


 読み終わった本をぱたんっと閉じて頭を抱えた。 
 細かい字の読みすぎでしょぼつく目。目頭をぐりぐりとマッサージするように押した。疲れが体にも出ているらしく、少し動くだけでも関節が軋んで、クラッキングした。
 机の上にあるコップへと手を伸ばす。書庫に来る際に作ってもらったカフェオレ。頭を使うのであれば甘いものが欲しくなるだろうと、母がくれたものである。
 カフェオレを一口飲む。まだ底の見えないコップの中身は、温くなってしまっていた。


 調べ物をすべく、自宅地下の書庫にかれこれ5時間ほどこもっているのだが、会得するには中々難儀なものだった。まず、資料の劣化が酷いものだった。書庫の本棚に納められている本はどれもかなり昔の書物ばかりである。いくらじいちゃんが大切に保管してもこうなってしまうのだ。
 じいちゃんが居ない今は、俺が書庫の本を守っている。地下に書庫があるから、日焼けは気にしなくてもいい。湿度を保つのは自分だけでは無理なので、知り合いの人間に温度と湿度を一定にするための魔石を購入した。


 当初、魔石を購入するのにも一苦労だった。普通の魔石専門店に行って買おうとすると、俺なんかに魔石を使うことは出来ないだろうと笑われてしまい、買うことは出来なかった。それでも魔石はなんとしても手に入れなければならなかった。結局、母の伝手で別の店を見つけて魔石を購入した。
 これで温度と湿度は保たれる。後は虫などに注意すればいいのだが、本自体の経年劣化による黄ばみだけは俺ではどうすることも出来なかった。


 金の五大元素には、物を完全に修復することが出来る魔法がある。じいちゃんが使っていた魔法は、物が壊れてすぐの物の修復。しかも、使用者が亡くなれば効果は全て消えるもの。
 書庫の劣化がいきなり酷くなったのはそれが理由だった。母が金の五大元素持ちだが、あの人は人体にたいする治療魔法特化の人。物体に対する修復魔法は兼ね備えていなかった。


 その為、今必死に書庫にある本を読み漁っているのだ。本が読めなくなってしまう前に、頭に本の内容を叩き込む。俺みたいな凡人には記憶魔法は使えないから、全てに目を通して記憶を残す。それには読解力や理解力を要するのだが……。2つとも持ち合わせていない俺には一冊の本を読むのもかなりの時間を有した。


「まだ、現代で使われてる技法とかだったら分かるんだけどなぁ。どれも廃れた手法なんだよな。そりゃ、魔法が世の中に広がっていれば科学なんて廃れるものか」


 今の時代には無いものが多い。水や風力の力で発電をする発電機なんてものは見たことがない。
 電気はあるわあるけど、それは魔法陣によるものでだ。生活魔法は国から支給されている魔石で補われている。
 火を使うためにガスというものも使わない。火は五大元素の中で、一番所持している人間が多い。ましてや、魔力がある人間であれば火くらいなら使うことは出来るのだ。その時は、魔石か魔法陣を介しての使用なのだが、それでも扱うことは可能だ。


 どれも原理がわからない。そんなこと言ったら魔法もどういう原理なのかと問われたら、細かくは説明出来ないだろう。まだ、昔の技法の方が説明が楽な気がする。昔、使われていた機械を作るのが大変そうだが。


 仕方ない。もう一度本を読んで学ぼう。俺にはそれしか出来ないのだから。
 閉じて机に置いておいた本を手に取り、栞を挟んでいた場所を開いて読み始める。一度集中さてしまえば、時間を忘れて没頭してしまう。ご飯を食べることも忘れ、日付が変わってもずっと本を読み続けている。そういう時は母が決まって声をかけに来る。


「まったく……そういうところばかり似るんだから」


 そう言って、亡くなったじいちゃんを俺に重ねて見るのだった。



 じいちゃんは5年前に亡くなった。
 老衰だった。苦しむことも無く、満足そうに笑いながら息を引き取った。じいちゃんは友人という友人がいなかった。きっと若い頃はいたのだろう。書庫の本を漁っている時に、日記が紛れ込んでいるのを見かけた。見つけた時は中を見ることは失礼だと思っていたから、手は出さなかったのだが、あのじいちゃんが何を残していたのかが気になり、つい最近中身を見てしまった。


 一日ずつ書かれている文章。俺の成長を喜ぶものや、母の落雷が最近頻発しているので、避雷針を作らないと危ないだろうなど。
 中には知らない名前が出てきたりしていた。親しそうな間柄だということは分かったが、内容的にその人はもう故人だということも知ってしまった。
 じいちゃんの友人は既にこの世にはいなかったのだろう。一人、長生きしてしまっていることを虚しく感じること、消え去ることの出来ない孤独感との葛藤。それでも、母や俺の存在に救われている。日々の何気ないことの幸福感などがびっしりと書かれていた。


 俺は日記を書庫の奥の箱の中へとしまいこんだ。
 きっと、じいちゃんは母には見つけられたくはないだろう。死にたがっているような文章が多い物なんて見せたくは無いはずだ。たとえ、本人が既に亡くなっていたとしてもだ。


 10年前。俺が将来、魔力を持つことが出来ないと確定したあの日。その日からじいちゃんは俺に色んなことを教えてくれた。きっと、俺のこの先を危惧してのことと、自分の老い先が短いことを悟っていた故の事だろう。
 じいちゃんが見てきたことや、やってきたこと。知識として覚えていた事などを徹底的に叩き込まれた。そのおかげで、自力で火を付けることも出来るし、身を守る為の武器も自作出来た。


 全てを教えた後にじいちゃんは力尽きたように亡くなってしまった。俺はじいちゃんから受け継いだものの多くを実践出来てはいない。記憶が薄れてしまう前に体に身につけなくてはいけない。そのためにはここにある本を読んでもっと知識をつけないといけない。その為、俺はここ5年近く書庫に籠るような生活を送っている。


 世の中の17歳なんてみんな、魔法校へと通っている頃だろう。各自持っている能力をコントロール出来るように、先生や魔道士からの指導を受けられるはずだ。先人達からの教えを受けられる彼らは物凄いスピードで、力や知力を身につけることが出来る。


「羨ましいもんだな。誰かに一から十まで教えて貰えるってのは」


 俺にはもうそんな存在はいない。自力で習得して、失敗や成功を繰り返していくしかない。昔の人間達がしたように。


 手取り足取り教えてもらうよりかは性に合っている気がするが。
 まぁ、それなりに時間がかかる所がネックだが。


「さて、やりますかな」


 無駄な思考を止めて手元の本へと意識を戻す。
 知らない単語は辞書を引っ張り出して調べる。そんなことの繰り返しをしていた。


 そんな17歳の秋だった。
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